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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

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嫌いだったユニットメンバーが同じく異世界転生してた件

作者: 江入 杏
掲載日:2025/11/19

一部残酷な描写が有ります。

苦手な方は読むのをオススメしません。

「もしかしてメグ? メグだよね?」


 その大きくて綺麗な目をまん丸にしながら親しげに声をかけてきた女に、嫌な予感がした。

 前世の忌々しい記憶が蘇る。その芸名を口にする相手なんて一人しかいない。


「フェリシア、知り合いか?」

「……いいえ、人違いです。私はメグなんて名前じゃありませんので」

「ふふ、そうやって嘘つく時に唇を触る癖がそのままだよ。変わらないね」

「なんだ、やっぱり知り合いじゃないか。前に同郷はいないって言ってたし、折角だから少し話して来たらどうだ?」

「そ、そうね。じゃあ少しだけ」


 尚も話しかけてこようとする女の腕を掴み、足早にその場を離れる。思い出話に花を咲かせられそうな手頃な酒場は軒並みスルーして、路地裏に入り込んだ。

 表の通りからそこまで離れていない所で手を離し、女と向かい合う。初夏に飲むメロンソーダのような、弾けるような爽やかな笑顔は前世と全く変わっていない。


「久しぶりだね、まさかメグも同じ世界に転生してるなんて思わなかったよ」

「私も驚いたわ、この世界に美玲が居て」

「でも、嬉しい! またメグに会えるなんて」


 そう言って破顔する。前世の容姿そのままの姿で。

 そうだよね、元々ビジュ最強だったもんね。二次元級美少女、なんて言われていたくらいだ。この世界の人達にも全く引けを取らないどころか群を抜いているその容姿は、流石と言わざるを得ない。

 私は会いたくなかったよ。

 その言葉を飲み込んで、ただ微笑んだ。

 忌々しい、思い出したくもない前世を思い出す。美玲は不動のセンターだった。そして私は、美玲の隣に立つ不動の二番手だった。


 前世の私は、愚かにもアイドルになることを夢見ていた。

 液晶画面の向こうで歌って踊るアイドル達を見て、その眩しさに強く惹きつけられたことがきっかけだった。百均の玩具のマイクを買ってもらって、お気に入りのアイドルグループのPVを見ながらよく真似してた。

 そのうち両親がいつまでも歌って踊ることに夢中な私に根負けして、ボイストレーニングやダンススクールに通わせてくれるようになった。私の容姿がそこそこ良かったことも功を奏したのだろう。あくまでそこそこ、というのがポイントだ。

 その頃はアイドルがすっかり飽和している時代だった。ネット文化も盛んでハードルも低く、なろうと思えば誰でもアイドルになれた。更にはバーチャル文化もすっかり定着して、アバターを使ってアイドル路線を狙うライバー達も台頭していた頃。

 例に漏れず私もアイドルを目指すライバーとして、意欲的に歌やダンスの配信をしていた。そこそこの容姿で、そこそこの上手さのおかげでそこそこ人気の、そこそこのインフルエンサー。収益化も通って、ファンの投げ銭のおかげで何不自由なく好きな物が買えた。

 その頃の私は得意の絶頂だった。万能感に満たされ、順風満帆で、人生は薔薇色。もう怖いものなど何も無かった。

 それで満足して終われば良かったのかもしれない。


 ある時、大手事務所から大々的な発表があった。

 SNSから才能の原石を見つけ出し、アイドルとしてスカウトする大型企画を始動すること。アマプロ問わず誰にでも可能性が有り、その目に止まれば事務所直々に連絡が来るとのこと。

 今にして思えば、経費をそこまでかけずに即戦力となる人材を見つけたい下心もあったのだろう。それでも大きなチャンスであることには変わりない。

 私は期待に胸を膨らませながら、より精力的に配信活動を行った。歌もダンスも、容姿だって磨きに磨いた。いつか訪れるその日を心待ちにしながら。

 その努力が実ったのか、チャンネルに載せておいたメールアドレスに大手事務所から連絡が来た。とは言ってもまずはオーディションを受けないか、という内容だったけれど。

 件名を見た瞬間に心臓が跳ねて、他のメールなんて全部無視して、丁寧な文面を最初から最後まで読み終えた後、その場にへたり込んだのを覚えている。

 勝手に体が震えて、動悸が激しくて心臓が痛かったし、息も上がっていた。体育の授業で友だちとムキになって全力疾走した後みたい、なんて冷静な私が他人事に見ていた。

 大慌てでお母さんに伝えたら、お母さんも慌ててお父さんに連絡して、お父さんも慌てて帰ってきた。その日は家族皆で浮き足立って、お母さんなんて嬉し泣きしちゃうくらい。私がずっとアイドルを夢見てボイトレもダンスの練習も頑張ってるのを見てきたから、感動も一入だったのだろう。

 その日が幸せの絶頂だった。後は落ちていくだけ。

 

 すぐにそのメールに返信して、親子三人で返信メールに記載された事務所へ向かった。両親は中に入れないからすぐ近くのカフェで時間を潰すことになり、両親からかけられた応援の言葉を背に事務所の扉を通った。

 通されたロビーの片隅で、スタッフから声をかけられるのを待つ。私以外にも声をかけられたらしき人達がそこで同じように待つのを眺めながら、あの人見たことある、あの人も、なんて呑気なことを考えていた時だった。

 控えめに肩を叩かれ、少し驚きながら触れられた方を見た。

 その瞬間、私の思い描いていた未来が音を立てて崩れていくのが分かった。


「MEGUさん、ですよね?」


 私の活動名を口にしながら、少し不安げにこちらを見る美少女。この部屋の中で誰よりも目立ち、華があり、周囲の視線を一身に浴びる彼女こそが美玲だった。


「そう、ですけど」

「やっぱり! MEGUさんがここに来た時からずっとそうなんじゃないかって思ってたんですけど、中々声かけられなくて。勇気出して良かったぁ!」


 人懐っこい笑顔で気さくに話しかけてくる彼女。言動から見るに、私のファンだったのだろう。けれど私は、いつもの神ファンサムーブも忘れて、引き攣った笑顔で相槌を打つしか出来なかった。

 友だちやファン達に可愛いと何度も言われていたこの容姿なんて、本物の宝石の前では石ころに等しいのだと言われたようだった。

 今まで宝物だと思って大事にしてきたものが、本当は取るに足らないものだと知った時のような感覚。井の中の蛙大海を知らず、って確か学校で習ったなって場違いなことを考えていた。

 それから少ししてスタッフからオーディションが始まる旨を告げられ、私は彼女から逃げるようにスタッフの後をついていった。

 早く早く、夢から覚めてしまう前に。

 それまで待ち遠しく思っていたのに、今は一刻も早くオーディションを終わらせたかった。じゃないとそれまで高まっていたモチベーションを保てなくなってしまいそうだったから。 

 その後のことは殆ど覚えていない。唯一覚えているのは、両親がお疲れ様会と称してお高めな焼肉屋さんに連れて行ってくれたことだけ。

 暫くしてオーディションの結果について連絡があった。てっきり落ちたと思っていたのに、その内容は合格の通知で。

 あれ以来自信を失って配信も途切れがちになっていた私だったけれど、その時だけはテンションが上向いて大喜びで両親にオーディションを通ったことを伝えた。

 私は選ばれたんだ、あの子に勝ったんだって、そう信じて疑わなかった。

 その先に待つ絶望の日々も知らずに。


 両親と連れ立って事務所と契約を結び、いざ他のメンバーとの顔合わせの日。

 事務所側からあの日オーディションを受けていた子達数名とアイドルユニットを組む、と聞いた時点で嫌な予感はしていた。


「MEGUさん!」


 他のユニットメンバーに囲まれながら、喜色満面に溢れた様子でこちらへと手を振る彼女の姿にその場から逃げ出したくなった。どうしているのって、そんなことばかり考えていた。

 素人でも分かる。これほどのビジュアルを持つ彼女をみすみす逃すなんて、プロなら絶対にあり得ない。オーディションであの子を落とすなら、その相手の目は節穴に違いない。

 彼女がここに居るのは当然と言えば当然だった。なのに私は愚かにも、あの子はこの場に居ないと直前まで信じて疑わなかった。

 人を惹きつけ、絶対に離さない彼女。現に今だってユニットメンバーに囲まれている。

 なのに私だけは彼女から逃げたかった。レッスン中も、それ以外の時も、どんな時でも屈託なく向けられる愚直なまでの好意に、何故か居心地の悪さを感じていたからだ。

 他のメンバー達は彼女に好かれる私を羨ましがっていた。私からしたら、他のメンバー達こそが心底羨ましかったというのに。

 透けて見えるほどの彼女からの好意に、金儲けの匂いを感じ取ったのだろう。事務所の方針で私と美玲は百合営業を売りにするよう、マネージャーから告げられた。

 冗談じゃなかった。そんな事をすれば、私はますます彼女から逃げられなくなってしまう。

 あまりにも分かりやすい売り込みはファンが冷めてしまうのではないかと必死に抗議したけれど、私の訴えは受け入れられなかった。

 せめてファンが拒否反応を示してくれたらと一縷の望みをかけたけれど、残念なことに美玲からの私に対する感情の重さは周知の事実で。むしろ公式が最大手だ、ミレメグだ、と熱烈な支持を受ける結果になってしまった。

 不動のセンターミレイと、彼女を支える不動の二番手メグ。私達の絶対に揺るがない立ち位置が決まった瞬間だった。

 美玲はいつも私の名前を嬉しそうに呼ぶ。その度に私は、ストレスによる胃の痛みを抱えながら控えめに微笑み返した。

 SNS発の叩き上げ実力派アイドルユニット『Lu-Venus』ことルヴィナスは、ルミウスとヴィーナスを掛け合わせた造語で、一番星のように輝くアイドルを目指すユニットとして名付けられた。


最強ビジュで不動のセンター、ミレイ。

彼女を支えるリーダー、メグ。

圧倒的歌唱力で癒し担当、ハルナ。

キレキレダンスの格好良い担当、アヤ。

トーク力で魅せる賑やかし担当、チヅル。


 そんな五人組としてデビューした私達は、瞬く間に人気になった。事務所の大々的な売り出しもあってか、知名度が高かったのも大きいかもしれない。

 時には自分達をイラスト化したアバターを用意され、そのアバターを使ってゲーム実況をしたり。時にはバラエティ番組顔負けなくらいの体を張った企画をやったり。

 とにかく人気を得るためになんでもやった。他のアイドルがやらないことをやり、てえてえ要素も百合要素もある、というブランディングが大当たりだったようだ。

 勿論実力派の名に恥じぬよう、歌もダンスも手を抜かない。時に可愛く、時に格好良く、それでいてオフでは抜け感があり面白い。そんなギャップがたまらないと話題になった。

 事務所が提供するコンテンツはどれも完璧で、誰もが私達を求めた。人気が上がるのに比例して、私達はどんどん仕事で忙しくなっていった。

 ラジオ番組やテレビ番組の出演に、チャンネルの新作動画と音源化に向けた歌の収録、ライブに向けた歌とダンスレッスン、グッズの監修に色紙のサイン書きと銀テープの手書きメッセージに、とにかくやることは尽きない。

 目が回るような忙しさだった。蓄積されていった疲労で、油断もあったのだと思う。


 マネージャーに自宅の前まで送ってもらった時のことだった。

 実家バレを避けるため、デビューしてから暫くして事務所が用意してくれたマンションで暮らすようになり、すっかりそこでの暮らしも慣れた頃。

 走り去る事務所の車を見送った後。疲れと寝不足で注意力も散漫していて、重たい瞼を擦りながらマンションのエントランスに向かって歩いていたら、背中に衝撃があった。


「お前みたいなブスがミレイと仲良くするんじゃねえよ、俺の彼女なんだぞっ!!」


 殆ど喚き声ばかりで上手く聞き取れなかったけれど、確かにそんなことを言っていた。ミレイの過激なガチ恋ファンとして、事務所から危険視されていた男だ。まさか攻撃の矛先がこちらに向くなんて思ってもみなかった。

 カッと焼けるような激しい痛みが背中に走り、何が起こったのか理解出来ないまま動けず、その場に崩れ落ちる私に馬乗りになって、その男は握っていた刃物を何度も私に振り下ろした。

 その頃には痛みも熱さも何もかも通り越して、ただ滅多刺しにされる衝撃だけが私の体を襲っていた。男は尚も喚いていた。それを私は他人事のように見つめていた。

 酷く眠たかった。ああ私このまま死ぬんだ、とやけに冷静に受け入れていた。

 正直、安堵感もあった。これでやっと美玲から逃れられる。ファンやメンバーから向けられる妬み嫉みからも。

 私は疲れていた。望んでいないのにたった一人から向けられる熱烈な好意と、それに波及するかのように向けられる複数人からの悪意に。

 結局最期まで美玲関連の死因なのも、何処まで行ってもあの子から逃れられないようで嫌だった。でも、もう仕方ない。諦めよう。

 ああでも、こんな私をずっと応援してくれていた両親とお別れするのは寂しい。


 お父さん、お母さん、こんな形で死んじゃってごめんね。


 誰にも届かないだろう謝罪。はくはくと力無く開いた口から、ちゃんと言葉が出ていたかは分からないけれど。

 途切れそうになる意識の中、駆けつけてきた警察官達が男を押さえ込み、いつの間にか周辺に出来ていた人集りが最期に見た光景だった。


 そして私は、この世界でフェリシアとして生を受けた。水面に映る自分の顔を見た時、私は存在するかも分からない神様に感謝した。

 前世とは比べ物にならないほど良くなったビジュアルに、アイドルと無縁の世界。何よりこの世界にはあの子が居ない。それだけで最高だった。

 なのに、どうしてこの世界にもあの子は居るのだろう。


「メグ、今はフェリシアって名前なんだね。私は前世と似たような名前でね、ミレーっていうの」

「容姿も前世と変わらないのね」

「そうなんだよね。でもメグ……あ、今はフェリシアか。フェリシアに私だって気づいてもらえるから、それでも良いかなって」


 どうしてこの子は平然と話しかけてくるのだろう。前世の私は美玲が原因で死んだというのに。


「ようやく見つけた、これからもずっと一緒だね!」


 ああ、ようやく分かった。

 どうしてこの子から向けられる好意に居心地の悪さを感じていたのか。

 こうやって私の気持ちを無視して好意を押し付けてくるところ。私の意見なんて関係ないとばかりに勝手に決めるところ。全部が独りよがりで、そこに私の意思は無い。

 美玲のそういう所、本当に嫌いだ。


「ううん、今度は別に生きていきましょう」


 にっこりと笑って告げれば、彼女はきょとんとした顔でこちらを見る。どうしてと言いたげに口を開くので、これ以上の会話は不要とばかりに踵を返して路地裏を出た。

 あの子が私を呼ぶ。前世の私の名前を。

 メグは前世で死んだ。今の私はただのフェリシア、もう美玲とは無関係の存在だ。当然ミレーとも。

 きっとミレーはこの世界でも人気者になれるだろう。彼女と一緒に居ればその恩恵に授かれるかもしれないけれど、生憎私はもうあの子に関わるのは真っ平ごめんだ。

 私を待っていた仲間達に手を振り、駆け寄る。パーティーのリーダーでもある私の夫はもう良いのか、なんて言っていたけれど構わない。

 私はこれからもただのフェリシアとして生きていく。この世界で。

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