9.仕事の基本?
「マジっすかじゃないッ」
「トノさんこれ、本気ですか」
言い直した佳奈美に、外﨑はゆっくりと頷いた。
さきほど配った裏紙のプリントには、バカでかいフォントで大方針だけを印字してある。
〔業務時間内の新ルール〕
■正しい日本語を使うこと!
■メールは原則禁止、ラインは厳禁!
これまで堪えていたのか、凜華がぷッと吹き出した。
「ウケるゥ。これじゃ仕事んなんないじゃない? だってライン厳禁ってトノさん、自分が使えないからってそんなの、あたし社長に抗議します」
「抗議するのは構わんが、俺はその社長からこの仕事を頼まれてるんだ。それに、悪いが俺だってラインくらいは使える」
「使えるってそんなの、家族の連絡とかそういうんでしょ?」
独身のひとり暮らしには、家族連絡の用はない。
……まあ確かに、使いこなしているとは言い難いが、それより、
「だいたいお前らグループラインなんて少人数でぼそぼそと、不健全なんだよ」
外﨑は、吐き捨てるようにそう言った。
別に、グループに入れてもらえないことを怒っているわけではない。本当の理由は別にある。
喋りことばを使うラインは、主語と目的語が曖昧になりがちなので、どうしても指示が不明瞭になる。それと、軽いやり取りのなかに、うっかり営業秘密が暴露されやすいことがリスクなのだが、それはまたいずれ。
「不健全なんて、そんなの言いがかりっしょ」
正平がブウたれたが、これは黙殺。
「オフィスにいる間は、相手の目を見て話せ。外出時の連絡は電話だ。大丈夫だ。これで充分、用は足りる。どうしても必要な場合に限ってメールの使用を許可するが、そのときは正しい日本語で書くこと。それと、必ずCC:に俺を入れること」
「はぁ~」というため息のコーラスに、「うっざぁ~」が混じる。
派遣社員のシズ姫は、何がおもしろいのか終始ニヤついていた。
「正しい日本語で、相手の目を見て話す。これが仕事の基本だ。以上、解散!」
メンバーが暗い顔をして社長室を出ていった。




