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トノさん、マジでちょっとウザいんですけど[うっせぇッ、お前ら言葉遣いくらいちゃんとしろ!]  作者: 伊藤宏


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8.マジっすか

 すぐに臨時朝礼を開こう思ったが、間野佳奈美は五歳の子供がいるので十時出勤だ。

 そのことを考慮し、外﨑は「十時に社長室に集合な! 緊急ミーティングやるから」、とメンバーに触れ回った。

 社長は今日、外﨑に気を遣ったのか取引先に直行訪問している。


 十時になり、メンバーが顔を揃えた。


 井澤誠太郎、二十九歳。

 肩書きは業務マネージャーだ。実際、仕事の依頼はすべて彼が受け、担当を割り振るわけだから実働部隊の取りまとめ役なのだが、メンバーからは「誠太郎」或いは「セイさん」と気安く呼ばれ、親しまれている。まじめで優秀だがちょっと臆病なところがあって、周りの雰囲気に流され易い。


 野上凜華、二十四歳。

 外﨑が凜華さまと呼ぶ新卒採用二年目の若手は、仕事はできるが生意気なところがあるので、実はメンバーから疎まれているではないかと疑っているが、本人に気にしているようすはない。

 愛称、というか自称「リンちゃん」、という元ギャル。


 間野佳奈美、二十七歳。

 外﨑から見ると天を衝くような長身。五歳の男の子がいて、保育園の送り迎えがあるので出社は一時間遅く、退社は一時間早い。中学高校、そして大学まで、ずっとバレーに捧げたらしい。

 バレー部では長年「佳奈美」と呼ばれていたらしく、入社後も「佳奈美と呼んでください」、と本人が希望した。


 琴平正平は三十六歳。

 社長と外﨑を除くと最年長なのだが、ぱっと見は十歳以上若い、というかそもそも社会人に見えない。ロッククンローラーとはこういうものらしい。

 年下にも「正平」と呼ばせている。


 大園大悟は二十五歳。

 この、気弱なジャイアンは、見る専門のアニメオタクだ。博物館並みの知識を誇るが、それが何の役に立つのか今のところ不明である。呼び名は「大悟」若しくは「大」


 浜波しず香、二十六歳。派遣社員。

 面倒な仕事を一手に引き受けてくれるありがたい存在。ヒラヒラ系のファッションを好むことから、メンバーからは「シズ姫」と呼ばれて重宝されている、唯一の常識人。


 外﨑は集まったメンバーをぐるりと見回してみたが、誰も目を合わせようとせず、黙ったままだ。仕方ないので、 

「さぁて、みんなもう発令を見て知ってると思うが」

 といきなり本題を切り出した。


「今日付けで、業務改革特命課長を拝命した。細かい指導は逐次出してくが、今日は方針だけ発表する」


 パワポを使うまでもないので、用意していたプリントを配った。


 それを見るなり皆の顔色が変わった。まるで化学変化の実験を見ているようだ。おもしろい。


 まず大悟が「ちょ」、と言ったきり、黙った。


「トノさんこれ」、と誠太郎。


「マジっすか」、と(のたま)ったのは、佳奈美だ。

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