5.めっちゃ、て何だ!
ハイアットホテルへの資材の搬入を済ませた外﨑は、デスクに広げたスポーツ新聞を眺めながら、カップベンダーで買ってきたコーヒーを飲んで寛いでいた。
ゴールデンウイークも過ぎて、暑い日が多くなってきたが、やはりコーヒーはアイスよりホットがいい。
それにしても。
コーヒーを飲むとタバコが吸いたくなる……。
外﨑が、パブロフの犬並みに単純な条件反射に従って屋上に行き、一服し終えて再びデスクに戻ったとき、ノートパソコンの蓋に付箋が貼ってあるのに気付いた。
『社長まで、急ぎで』
ったく!
「おい、これ貼ったの誰だ!」
現場で鍛えた外﨑のダミ声に、その場にいた六人が同時に振り返った。
「……あぁ、それ」
答えたのは、アニメオタクの二十五歳、大園大悟だった。みんなからは「大悟」若しくは、単に「大」と呼ばれている。
見た目はドラえもんに出てくるジャイアンみたいに逞しいが、実は極端な内弁慶で、一歩外に出たら、商談どころか挨拶すらまともにできないという。外回りの仕事では、おそらく使い物にならないだろう。
「あぁそれってお前。何で顔見たらすぐに言わないんだ!? それにあれだ、こういうのはメッセージのあとに時間と署名だろう。あとなんちゅう文章だこれ。だいたいなぁ」
「トノさん、メール見てくださいよ、電話も鳴らしたし。何のための携帯ですか」
孫でもおかしくない年齢で俺に説教か。
「だったらなおさらだ。伝言は正確に書かなきゃ正しく伝わらん。緊急度だってわからんじゃないか」
「だから急ぎでって書いたんですけど」
「だからって、失礼だろう」
それに、
「急ぎでってなんだ、でで何なんだ。でで終わる文章は美しくない! なる早でぇ? じゃあこっちの赤い方でぇ? まあ色々でぇ?」
下唇を突き出したサル顔で大悟に説教していたら誠太郎がカットインしてきた。
「トノさん、それよっか早く社長室行っちゃってください」
社長室に向かって歩き出したら、後ろから、なぜか凜華の声が追いかけてきた。
「めっちゃ腹立つぅ」
何でお前が口を出す!
一旦、怒りを飲み込んだものの、やはり振り返ってしまった。
「めっちゃってなんだ、めっちゃって。『すごく』とか『とても』という正しい日本語があるだろう。せめて略すな! 滅茶苦茶、とフルで言え! フルで!」
……もっとも、それはそれで腹立たしいが。




