42.すべては終わり、そして
これで、すべて終わった。
やはり表彰式は重要だ。
表彰式で思いが凝縮され、初めて、感動と達成感は心に刻み込まれる。
最初の提案時、確かに『上映会もイベントになる』という話をした。特に、凜華などはこういう企画は得意だから、彼女に任せたらもっと洒落たものにすることはできた。
しかし実行委員会は、ここは人任せにしたくなかったのだろう。その気持ちは理解できる。
今日の表彰式には、高校生らしい手作りの良さがあった。
すべての制作グループにトロフィーを授与するための賞の設定、選考のためのシステム作り、オリジナルトロフィーのデザインを考案する過程で行った議論や手を動かす過程、それが表彰式の一体感を作ったのだ。
いいものを見せてもらった。
退出する前に、若水生徒会長にもう一度礼を言おう、と外﨑が腰を上げたとき。
「続いて特別賞の発表に移ります」
まだあるのか。
ピンスポットに浮かび上がった若水生徒会長の姿を、会場の全員が注視している。何なのだ、特別賞とは……。
「特別賞は……、シアワセファクトリーの外﨑実夫さんです!」
突然のことに何が起こっているのか理解できなかった。
シアワセファクトリーのメンバーも同様らしく、呆然とした顔を、そのまま外﨑に向けた。
だが、どの顔も笑っていない。
正平など口をあんぐりと開けたままだ。
会場の拍手は、主に二年生のエリア、つまり制作者席から起こっていた。歓声と、鈴蘭学園の校風には似つかわしくない指笛まで混じっている。
「この賞は、わたしたち制作者から出た意見をもとに実行委員会で決定した特別技術賞です。外﨑さんは、くまなく撮影の現場に立ち寄り、カメラワークの技術を始め、光の使い方や、時には演技についても、プロの貴重なノウハウを惜しみなく教えてくださいました。外﨑さんの助言がなければ、作品のクオリティーはここまで高くできませんでした。外﨑さんどうぞ、ステージにお上がりください」
う、嘘だろ……。
気が付けば、メンバーからも拍手されていた。隣に座っていた誠太郎が肩でぐいぐいと押してくる。
わかったよ、行くよ。
外﨑は震えそうになる膝を宥めながら、下手側の階段からステージに登り、若水生徒会長の前に立った。
「実行委員の代表として、トロフィーは、わたしから贈呈させていただきます。おめでとうございます! そして、ありがとうございました!」
授与されたのは、作品賞と同じ形のトロフィーだった。
“第一回鈴蘭映画祭” の下に “特別技術賞” と刻印されている。
映画人生で、初めての受賞だ。
絶対に泣くまいと堪えていた涙が、顎を伝って、ステージの床にぽとりと落ちた。両手でトロフィーを受け取っているので拭うことができない。
「ひとこと、お願いしてもいいですか?」
いたずらっ子のような目をした若水生徒会長が、笑いながらハンドマイクを向けてきた。
こんなときに。ったく意地の悪い……。
会場はしんと静まり返った。
何を言えばいい。
どうしよう。まったく、考えが浮かばない。
外﨑の体感時間にして、一分にも達しようかという長い沈黙のあとで、ようやく出てきた言葉は「めっちゃ……、嬉しいっす」だった。
万雷の拍手のなかに、聞き覚えのある笑い声が混じっていた。




