41.表彰式
表彰式は鈴蘭学園の思い出作り実行委員会が企画したので、シアワセファクトリーは一切関与しなかった。依って、これから何が起こるのか、外﨑たちにはまったくわからない。
ステージの上手側には、各作品の代表者が椅子に掛けている。やや下手寄りに据えられた演台には、司会進行役の若水生徒会長が着いていた。
「お待たせしました。それでは上映会第二部、鈴蘭学園映画祭、表彰式に移ります」
若水生徒会長の表情は明るく、声も楽しげだ。
「では改めて、本日上映された作品を紹介します」
軽い曲調のBGMが流れるなか、映画の静止画と共に上映作品が紹介されると各グループの代表者が立って一礼した。その度に拍手が起こる。
「最優秀作品には理事長賞が贈られます。でも、すべてのグループに何かしらの賞が授与されますから、安心してくださいね」
ここで小さな笑いが起こった。
「評価は、上映会で、スマートホンから入力していただいた項目評価と総合評価の得点を参考に、一年生と三年生から選抜された選考員が行いました。ひとつの作品に賞が集中しないように考慮する予定でしたが、実際、個性的な作品が揃いましたので、調整は必要なかったと聞いています」
外﨑は上映会のようすを思い出していた。
確か、上映が終わって拍手が静まる度に、みな一斉にスマホを取り出して何か打ち込んでいた。
あのときは、最近の高校生はああいう形で感想を言い合うのかと驚いたものだが、作品の評価だったらしい。
若水生徒会長は、小清水副生徒会長から封筒を受け取るとハサミで封を切って紙片を取り出した。
本当の映画賞を模した、なかなかの演出である。
「ではまず、アイディア賞から。アイディア賞は『鈴蘭学園 ラストフェス』。アイディア評価の項目がダントツの一位だったそうです。サイレントでダンスミュージックを表現したところが最高、というコメントをいただいています」
スクリーンには上映会のようすを写した動画が映し出されている。
やはりこのアイディアはすごい。無声映画でありながら、映像と観客を音楽で結び付けた。
代表者が一歩前に出た。
プレゼンターは学園長らしい。
「おめでとうございます!」
授与したトロフィーはタワー型のクリスタルで、鈴蘭学園のキャラクターラインの入った見事なものだった。
「続いて演技賞は……」
紙片を見た若水生徒会長が、苦笑を浮かべて額に手をやった。
「えっと、演技賞は『鈴蘭学園殺人事件 予告編』です。代表コメントを読みます。ええ、死体役が……って、死体じゃん!」
爆笑。
「えっと、死体の美しさの表現と、ラストの対比が見事、だそうです。あと容疑者の匂わせ演技も含め、総合的に演技力が高かった、ということです。やったね!」
若水生徒会長が拳を握ると客席の一角から歓声が上がった。
代表の男子生徒がステージの中央に進み出てトロフィーを受け取った。トロフィーは賞ごとに少しずつカラーデザインが違うようだ。
このあとも、技術賞、美術賞、脚本賞、撮影賞、ファンタジー賞、上映賞と続き、八グループすべてに何らかの賞が贈られた。
最後の “上映賞” というのは上映時のパフォーマンスに対する賞で、これは『鈴蘭学園の一日』が受賞した。
弦楽四重奏団によるオリジナル曲の演奏と、見事に役を演じ分けた活弁が評価された。無論、こうしたパフォーマンスは、映画本編のクオリティーが高くなければ成立しえない。
ここで、ステージが暗くなった。
「それでは、最優秀作品に贈られる、理事長賞の発表です」
下手から現れた理事長をピンスポットが追う。先ほど、気さくに話しかけてこられたときと雰囲気とは別の威厳、というかオーラを感じる。
理事長はマイクの前に立つと、まず賞の説明を行った。
「えー、皆さんの総合評価得点が最も高かった作品を、理事長賞として称えたいと思います」
若水生徒会長が恭しく封筒を差し出すと、受け取った理事長はハサミで開封し、紙片を取り出した。
会場中が緊張するなか、理事長が作品名を読み上げた。
「『魔法戦隊モフレンジャー 鈴蘭学園を護れ!』。おめでとう!」
拍手のなか、代表者は両手でガッツポーズを作り、理事長の前まで歩み寄ると、アップテンポのインストゥルメント曲が流れた。
トロフィーに添えられたゴールドが、照明に反射してきらりと耀いた。




