29.サイッテー!
翌朝、社長室にチームメンバーを集めた。
今日は社長もいる。
覚悟は決まっていた。言いわけはすまい。
「みんなに報告がある」
神妙な顔が外﨑を見ていた。
実はもう、禁止したはずのラインで情報共有されているのかもしれない。だが、今はそのことを咎める気力も、確かめる気力もない。そもそも資格は……、まだあるだろうか。
「佳奈美は?」
「さっき郵便出しにいくって」と凜華が答えたそばから「遅れてすいません」と佳奈美が社長室に入ってきた。
よし、これで全員だ。
社長室の打ち合わせテーブルは、社長のデスクから見て左右から人が向き合う形に据えられている。
外﨑は、社長の対面に当たる席に着いて、
「昨日、凜華と大悟と一緒にイベント企画に関する講義に行ったんだが、申し訳ない。向こうさんを怒らせたかもしれないんだ。何か策を打たないと、たぶんもう、連絡はこないかもしれない」
一気にそう言って、頭を下げた。
「怒らせたって、誰を、ですか」
誠太郎だ。ということは、まだ何も知らないらしい。
「俺もよくわからん、が、あんな怖い顔初めて見た」
「それって、誰」
正平が端的に疑問を口にした。
「誰って、あれだよあれ、若水さん」
さん付けで呼んだらみじめ感が三割増しになった。『生徒会長』と言っておけばよかった。
「若水って生徒会長のJKでしょ」
「それがさ、なんか、すごい険しい目つきでさ」
「サイッテー! て言われちゃったんですか。何やったんすかトノさん」
「言われてねぇし、なんもしてないよ」
「じゃあ、なんで怒られたかわかんないってことですか」
「そうだよ」
胸を張って答えることではないが。
「で、どうするんすか」
「だから、それをお前らと相談しようと思ってだな」
外﨑は中途半端に口をつぐんだ。
短い沈黙のあとで社長が口を開いた。
「外﨑さん、みんなに相談する前に、わたしにもわかるように、最初から全部説明していただけますか? 大園君や野崎さんも同行してたんですよね」
ふたりが「はい」、と返事をしたのを確認して、
「じゃあ流れを外﨑さんお願いします。同行していたふたりは、足りない点があったら補足する形で。じゃあお願いします」
外﨑は、藁にも縋る思いで説明を始めた。
既にレンタル機材の手当てを始めていること。
同時に、早く発注書が欲しかったこと。
鈴蘭学園のイベント実行委員会のメンバーに、プロジェクトが進行中であることを意識してもらうことと、時間稼ぎの目的も兼ねて映画作りの講義を企画したこと。
それを、順を追って丁寧に説明した。
若いころ、初めてやらかした大ポカを、監督の前で懺悔したときのみじめさが甦ってきた。




