28.切るときはバッサリ切りますので
帰りは、タクシーで、途中の乗換駅まで同乗することにした。
外﨑の頭のなかは、若水生徒会長から受けた痛烈なことばが反響して幾重にも重なっている。なかでも “恥” というワード。そして “ストップ”。
まず恥……、て何だ。
どういうことだ。何がいけなかった……。
“ストップ” は? 中止って、これで終了ってことか……。
それにしても。
なぜ凜華も大悟も黙っている。あの場面はふたりとも見ていたはずだ。なぜ黙ってスマホをいじっている。どういうことだ。お前らの思考回路はどうなっている。
クライアントのキーパーソンに恥をかかせたということは、このビジネスが失われるかもしれないということだ。この危機的状況に、どうしてスマホで遊んでいられるのだ。仕事に対する思い入れが、元々ない、ということなのか。
当然、外﨑はそう簡単に割り切れない。
だから延々と理由を考え続ける。
理由は何だ、何が若水生徒会長に恥をかかせたのか……。
おそらくは、講義の内容がダメだったということだろう。
ならどこだ。どこがダメだった。それがわからなければ、リカバリーのしようがない。リカバリーしなければこの仕事は頓挫する。
「なあ大悟、今日の講義、俺、なんかダメなとこあったか?」
リアシートの真んなかで身体を小さくしていた大悟は、質問には答えず、下を向いたまま別のことを言った。
「やっぱ無理っす」
「何が」
「空気合わないんで」
「何の」
「絵コンテの講義、パスしますんで」
外﨑は大悟の上司ではない。だが、大悟に講師をやらせる件は誠太郎の了解も取っている。つまりこれは、業務命令と同じだ。それを、パスしますだと? 違背行為じゃないか。だが、
「トノさん代わりにやっといてください」
これではっきりした。
大悟は、外﨑のことを、直属の上司どころか上席者とも認めていない。あからさまな命令拒否は、外﨑の権限を認めないという宣言だ。
……自分は社長に頼られていい気になっていただけなのだろうか。
所詮は、時代遅れの役立たずなのか。
これが本当の自分の価値なのか。
考えれば考えるほど、外﨑の気持ちは沈んでいった。
最初に若水生徒会長に面会した日の、教頭のひと言が甦った。
『若水は一切忖度しません。切るときはバッサリ切りますので』
その前段には、若水自身の言葉があった。
『まだ御社にお願いすると決めたわけではありません』
わかっている。だから発注書を急いでいるのだ。講義は、そのための時間繋ぎの意味があった。
あ……、もしかしたら。
それを見透かされたのだろうか。
いや、だからといって、それが恥をかかせることには繋がらない。
今日の首尾は社長の耳に入るだろうか。ふたりのうちのどちらかが「トノさんがやらかしました」とチクるだろうか。
……恐らく、今日のことは社長の耳に入る。それは避けられない。社長だけじゃない。メンバー全員に、今日の失敗が共有される。
こうなったら覚悟を決めるしかない。だがその覚悟の裏側に『どんな言いわけをしたら責任を逃れられるだろうか』と考え、隠れている自分が見えた。それは、外﨑が最も嫌うタイプの人間だった。
窓際の凜華は相変わらずスマホに見入っていた。ディスプレイの上では、左右の親指がものすごい速さで動いている。
ダメもとで訊いてみた。
「なあ凜華、今日の俺って、なんか変だったか?」
スマホから目を上げた凜華は、なぜか満面の笑みを外﨑に向けると、ぷっと小さく吹き出した。




