27.恥
三度目の聖アンナ鈴蘭学園訪問は、誠太郎の代わりに大悟を同行させた。それと凜華も。
大悟を連れて行くのは、いきなり絵コンテ講師をやらせたらテンパりそうなので雰囲気に慣れさせるため。凜華の同行に具体的な目的はないが、まぁお守りというか……、心の支えだ。
「はぁ~、こういう学校ってリアルに存在するんですね」
「とにねー、もうファンタジーだわ。あたしが通ってたガッコなんて都立の底辺だったからさー、ギャルとヤンキーばっかだったし……。にしてもここの生徒の親ってどんだけ金持ってるんだろね」
大悟も凜華も、少しは緊張するかと思ったら、入館登録も迷うことなく済ませ、さっそく校内ウォッチングだ。
「アニメの世界にはわりとあるんですよ、こういう雰囲気の高校。転生ものとか令嬢ものとか、わりとお嬢様学校が多いんですけど。でも共学もいいですよねー。適度に普通の感じがあって」
楽しむ余裕があるってか。
約束の午後三時三十分、B校舎のエントランスで若水生徒会長と落ち合ってAVルームに入ると、生徒はもう着席していた。
小清水副生徒会長の「起立!」という号令に続いて、そこにいた全員が起立した。
空気が一気に張りつめる。
我々が、プレゼンター席の位置に付くと「礼!」という声に続いて全員の頭が下がった。
四十人近くいそうだ。
最後列には教頭の姿もある。
若水生徒会長が、立って挨拶した。
「外﨑さん、今日は映画作りのご指導をいただけるということで、ありがとうございます。わたしたちも課外授業のつもりで勉強させていただきますので、よろしくお願いいたします」
予想していたのと違っていた。
前回のように、ワイワイ砕けた雰囲気でレクチャーできるものと思っていたから、資料はそれほど作り込んでいない。
でも仕方ない。
こうなったらやるしかない。
外﨑は覚悟を決めた。
「え~、今日は脚本について基礎的な話をしますが、その前にフィルム映画を作る際の注意点なんですが、撮り直しで経費が嵩むことです。ですから入念な準備が必要になります。具体的にいいますと、完成された脚本なしでカメラを回すことはありえません。映画の脚本では、セリフやト書きの前に柱書きというのがあります。柱というのは、シーンの場所指定ですね。これがないと撮影計画が立てられませんし……」
このあとプロットの作り方や起承転結、ト書きによる表現手法などを、脚本の実例を見せながらレクチャーした。
講義は四十分に及んだ。
質疑応答タイムでは、覚悟していた厳しい突っ込みや批判もなく、最後の「礼」が終わると、受講していた生徒たちは、黙ってAVルームを出ていった。
若水生徒会長が近付いてきた。
外﨑は、労いのことばを掛けられると思って笑顔を作ったのだが、生徒会長の表情は、見たことがないほど険しかった。
「外﨑さん、わたし今日は、たいへんな恥をかきました。次の講義の計画は、ちょっと、ストップしていただけますか」
若水はそれだけ言うと、踵を返して部屋を出ていった。




