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トノさん、マジでちょっとウザいんですけど[うっせぇッ、お前ら言葉遣いくらいちゃんとしろ!]  作者: 伊藤宏


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26.盟友、矢島慎平

 ついこの間まで、オフィスを抜け出してタバコを吸うことしか考えていなかった外﨑が、俄かに忙しい身となった。


 今日向かったのは、かつて映画の街といわれた蒲田にある動画制作会社スタジオVIVIDだ。そこには、外﨑がまだ映画の仕事をやっていたころの仲間、矢島慎平がいる。

 矢島はフィルム時代からの優秀な映像技術者だが、最近はデジタル機器を使った編集もやる頭の柔らかい男だ。スタジオVIVIDは、こういう、フィルム時代のノウハウを持っている職人を、他にも何人か抱えている。


 約束の場所は、会社ではなく近くの公園を指定された。彼も愛煙家なのだ。屋外では少々暑いが文句は言えない。


「外﨑さあ、こういう話は夜にしてくれりゃ良かったのに。ホッピーが美味い店があるんだよ」

 矢島は、昔と変わらないロングピースの煙を深々と喫い込んだ。

 日陰のベンチに腰を落ち着けているが、じっとしていても汗が滲んでくる。そのせいか、話は自然にホッピーに吸い寄せられていった。


「ホッピーなんてどこで飲んだって一緒だろう」


「それが違うんだって。何だろなぁ。ほんと、こんなに違うんかっていう技を見してくれるとこがあるんだ。いろいろバリエーションもあるし」


「おもしろそうだな」

 気持ちとしては『今夜にでも』、と受けたいところだが、若水生徒会長の気が変わらないうちに発注書をもらわないといけない。そのために、やらなくてはいけない仕事が山ほどある。


「おもしろいっていえば、そっちの話もなんかおもしろそうじゃないか。八ミリで無声映画(サイレント)だって?」

 さわりのところは電話で話してある。


「おぅ、そいつをサポートしなくちゃならないんだ」


「で、キャメラか?」

 映画関係者は、カメラのことをキャメラと呼ぶ。


「だけじゃなくって、三脚とか照明とかレフ版とか一式。買い取りじゃなくて全部レンタルで頼みたい」


「まあ、いいよ、古い型でよきゃあ貸してやるよ」


「最低八セット要る」


 矢島が眉根を寄せて振り向いた。

「八セットだぁ? 特撮ものでもやるつもりか、それとも何か? 映画祭でもやろうってのか」


「まあそんなとこだ。だから正直、キャメラは予備も含めて十台は欲しい」


「そりゃ無茶だぞ」


「レンタル料はきっちり払う。そのかわり、素人の高校生でも使えるようなやつを、しっかりメンテナンスして揃えて欲しいんだ。期限はそうだな、十週間ってことで、保険も掛けといてくれ。それで、至急見積もりを書いて欲しい。仕事は会社で受けてもいいし、お前個人でもいい」

 矢島はビジネスの話ではなく、別のところに食いついた。


「今、高校生って言ったか?」


「うん、決まったら詳細は話す」


「見積りだけでいいのか」


「うまく行ったら発注する。……たぶん、うまく行く」


「周辺機材も込みか」


「おぅ」


「わかった。三日くれ。ひとりじゃ無理なんで仲間に声かけてみる。でもなんか、おもしろそうだな」


「機材以外でもなんかサポート頼むかもしれないんで、そんときは頼むわ」

 矢島は「ふん」っと鼻で笑うと、うまそうにロングピースを喫った。

 釣られて外﨑も喫う。


「相変わらずハイライトか」

 さっきまで機材の話をしていたので照明のことかと思ったら、タバコの銘柄だった。


「あぁ、労働者のタバコはやっぱりな、ハイライトでなきゃあ」

 外﨑はそう言って笑い、日を改めてホッピーの会を催すことを約して公園を後にした。



 今日は早く帰って脚本講座の準備をしよう。大悟の絵コンテ講座は、おそらく準備に少し時間がかかる。

 その間にプロデューサー業について講義してやるのもいいかな。頭のいい連中だからすぐに飲み込むだろう。

 でもまずは基礎の基礎である脚本。次の会で、大悟の絵コンテ解説。そのころには機材の目途もついているだろう。


 外﨑は、久しぶりに現役に戻ったような充実感を味わっていた。

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