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トノさん、マジでちょっとウザいんですけど[うっせぇッ、お前ら言葉遣いくらいちゃんとしろ!]  作者: 伊藤宏


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24.エモい?

 だが、いくら誠太郎が再考すると言ったところで、チャンスをもらえる確証はないし、仮に次回があったとして、この高偏差値集団を論理的に説き伏せるのは容易ではない。

 このままだと、早々に「検討終了」を宣告される。そのことを危惧した外﨑は、意中のアイディアを口にした。


「あの、提案には入れてなかったんですが、ひとついいですか? 短編の八ミリ映画を作るのってどうでしょう。いくつかのグループに分かれて、題材には必ず、学校の何かを入れるってことにして。上映会もイベントになりますし」


「映画って、動画ってことですか?」

 発言したのは、さっき、他校の生徒のことを「ウザ~い」と言って顔を顰めた女子だ。


「いえ、いわゆる動画ではなくて、フィルムを使うんです。こう、ひとコマひとコマを連続で撮影するカメラで、映写した感じはそうですね、タイムラプスみたいな雰囲気になります。音声を入れるとちょっと難しくなるんですが、サイレントでも、インサートカットで字幕を入れればストーリー映画も可能ですし」


「すみません、ちょっとイメージ掴めないんですけど」


 外﨑は、誠太郎のパソコンで八ミリ映画のYouTube動画を検索して、正面のディスプレイに映し出した。

 今でもけっこうマニアがいるのだ。


「おぉ、なんだこれ」

「これってアイフォンの特殊効果じゃないの?」と室内がざわめくなか、

「昔は家庭でも撮る人が多かったんです。最近は流行りませんけど。フィルム映画は金と時間がかかりますからね。それと手間も。そもそもカメラが少ないですし、フィルムも普通のとこにはもう売ってません。どちらも貴重品です。現像所に至っては今や一箇所しかなくて、そこも存亡の危機にあります。編集は専用のカッターでフィルムを切って繋げる、という物理的な手作業になります。あと、敢えてモノクロで撮るっていうのも有りだと思いますよ。例えば……」

 外﨑がモノクロ画像を見せると、

「エモい!」「エモすぎる」という声が方々から上がった。


「随分と制約が多いようですが、実現できるんですか」

 と発言したのは小清水副生徒会長だ。


「できると思いますが……、早急に確認します。昔の仲間に好きなのがいるんで技術的なアドバイスもできますし、機材も贅沢言わなきゃレンタルでなんとかなると思います。それでも費用は掛かるんですが、逆に、こういう、ちゃんと予算が付く企画でないと実現は不可能なので、記念イベントにはおススメです」



 部屋がざわめくなか、若水生徒会長が言った。

「外﨑さん。この線で進めていただけますか」


「いいんですか、決めちゃって」と外﨑。議論も多数決もしないのが、拙速に思えたからだ。


「実行委員の顔見てください。大丈夫です、方向はこれで合ってるはずです」

 見れば、確かに。

 皆、流しっぱなしてしていた画面に吸い付くように見入っている。となると、あとは身内の問題か……。


「誠太郎、いいか。俺の案で進めちゃって」

 メンバーの顔を思い出したのだろうか。少しだけ逡巡する表情が見えた。


 すると、誠太郎が口を開く前に若水生徒会長が割り込んだ。

「正直言って、八ミリ映画のアイディアが出るまでは、御社には、この場でお断りしようと考えていました」


 このひと言で誠太郎の腹も決まったようで、自ら、受諾を口にした。

「わかりました。八ミリ映画の方向で、企画を詰めさせていただきます」


 救ったというか救ってしまったというか。とにかくこれで、外﨑は傍観者ではいられなくなった。


 聖アンナ鈴蘭学園を辞して直帰の途についたところで、気になっていたことを質問した。

「なあ誠太郎。エモいって、さっき誰か言ってたけどあれ、どういう意味だ?」

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