22.異文化の子たち
そして再提案の日となった。
二度目の学校訪問は、最初に作った入校証が再利用できたので比較的スムースに入校できた。
入校証の繰り返し使用は危険ではないだろうか、とも考えたが、各ゲートは入校証の読み取りだけでなくパスワード、顔認証のチェックもあるので、不正に入手した入校証で学校の敷地に侵入することは、まず不可能だ。
それに、ひとたびエラー音が鳴れば、そこら中に立っている警備員の誰かがすぐに駆け付けてくる。
今回、外﨑と誠太郎が通された部屋は、初回の応接室ではなくAVルームだった。
六、七十人は楽に収容できそうな広さがある。
三方の壁は黒一色で窓は無し。昼光色のダウンライトが点いているが、部屋全体を明るくするには不充分だ。
正面の、天然石を張り付けた壁の左右にはタワー型のスピーカーが聳え立ち、その二つに挟まれるように、大型のディプレイが据え付けられている。
正面に向かって扇形に並べられた机には、よく見ると、そこにも小型のディスプレイとキーボードが内蔵されていた。
高校のAVルーム、というより政府機関のミーティングルームだといわれた方がしっくりくる。
若水生徒会長がリモコンを操作して、全体照明を点けた。そして、
「今日は人数が多いので、こちらの部屋を用意させていただきました。おふたりはどうぞ、こちらのプレゼンター席に」、と我々を正面上手の席に誘導した。
「今日は、小清水や、その他の実行委員にも参加してもらいますので、よろしくお願いいたします」
そういうことか。
当初に示された『一次選考は若水生徒会長が行い、二次、最終と進むに従って多くの人の意見を聞く』という方針に従って進めているのだ。
前回の訪問ではビビりまくっていた誠太郎も少しは慣れたようで、プレゼンター席で粛々とパソコンの設定を進めている。
外﨑もその隣に座って心の準備を整えていると、いきなりドアが開いて喧騒がなだれ込んできた。
「今日のテストどーだった?」
「あれ予告なしはエグすぎっしょ」
「てかさぁ、今日の帰りコムレド寄らん? あそこのパンケーキ、フルーツモリモリで写真バエるらしいよ〜」
「えー無理ぃ、今日マサキくんたちと蕎麦行くんだって」
「蕎麦ぁ!? しぶっ! 手打ち系?」
「はにゃ。てかミヤビのインスタ。あれ、隣に写ってんの緑ヶ崎の制服じゃね?」
「やばいやばい、あそこマジでガラ悪い人多いし〜。近寄ってくんの100パーナンパ目的っしょ」
「うっざぁ~い!」
一斉に耳に入ってきた若もの言語は、六十二歳の外﨑にとっては完全な異文化だ。これが普通の高校生なのだと頭ではわかっていても、思わず半身引いてしまう。そのくらいの圧があった。
だが、生徒たちは、一歩AVルームに入って来客を目にした途端、
「よろしくお願いします」
「お世話になります」と、次々に、できる子モードにスイッチしていく。なかには「実行委員の長沼です」、などと自己紹介を始める生徒もいるが、名刺を差し出す相手でもなさそうだし、正直、どうしていいかわからない。
多少は年齢が近い誠太郎も状況は似たり寄ったりで、まともな対応はできていない。
室内に、パンパンと手を叩く音が響いて、
「はぁい、みんな静かにー」
と若水生徒会長がみんなに号令すると、AVルームは静かになった。
若水から目配せを受け、小清水副生徒会長が立ち上がった。
「騒々しくて申し訳ありません。これで全員……、ではないんですが、今日ここにいるのは、生徒会の “思い出作り実行委員会” のメンバーです」
全員が揃って頭を下げた。
「皆さん、今日はシアワセファクトリーの方が、思い出作りイベントのアイディアを提案してくださいます。あとで意見を聞きますので、まずは、説明をよく聞いてください。では! シアワセファクトリーさん、よろしくお願いします」
若水生徒会長がメインの照明を落とすと、室内は、ダウンライトが灯す最小限の光だけになった。
いよいよ始まる。




