2.最近の若者の日本語ときたら……
「あ、そうでした。手ぇ空いてるんだったら、恵比寿のハイアットホテルまで資材一式運んでもらえませんかね」
誠太郎め、大先輩に向かって運転手の依頼か。
「んなもん新人の仕事だろ、凜華さまは何してんだ」
「リンちゃんは今、担当してる企画が煮詰まってるんで、そっちに集中させたいんですよね」
リンちゃんとは野上凜華のことだ。
去年の新卒採用だが、自分から「リンちゃんって呼んで♪」とアピールした厚かましい女だ。ただ仕事はできるらしく、早々に研修期間を終え、三ヶ月ほど前に独り立ちした。
仕事ができるのはたいへん結構だが、年長者を軽んじる態度が気に入らないので、外﨑は、軽い揶揄を込めて ”凜華さま” と呼んでいる。いちおう心のなか限定で。たまにポロっと出てしまうのはご愛敬、ということで赦してもらうおう。
あと、いちいち指摘するのも面倒だが、誠太郎の言う「煮詰まってる」、は恐らく誤用だ。なにしろ最近の凜華さまときたら、血走った眼でスマホの画面をめくるか、オンライン会議で不機嫌な声をまき散らしているかのどっちかだ。あれはどう見ても仕事が仕上げに差し掛かっている状況ではない。
正解はおそらく『行き詰っている』、だ。
ったく最近の若者の日本語ときたら……。
でもまぁ。
「いいよ、行ってやるよ」
外﨑はデスクの引き出しからクルマのキーを取り出した。
悲しいかな、このくらいしか手伝える仕事がないのが現実なのだ。




