19.非情の一次選考
「線で消したアイディアは、わたし達が考えて没にしたのと同じです。プロなので大丈夫だと思ったんですが……」
若水生徒会長の眉間には小さな皺が寄っている。『案外素人なんですね、あなたたちも……』と続けなかったのは乙女の情けか。
目で隣を窺うと、プライドを打ち砕かれた誠太郎がうなだれていた。そこに、作ったような明るい声が降り注ぐ。
「でもさすがです。わたし達が思いつかなかったのも少しはありますから」
これが追撃のダメ押しパンチとなり、誠太郎は撃沈した。
外﨑は、場の空気を変えるべく会話に入った。
「今日は、副生徒会長さんはいらっしゃらないんですね」
「小清水は、今日は、別の案件で打ち合わせに出ています」
「そうですか。こう言ってはなんですが、普通、一次選考は下位のメンバーが行って、二次、最終と進むに従ってトップメンバーや特別審査員が参加するものだと思っていました。こちらでは、最初から生徒会長さんが選考されるんですね」
「わたし、一次を軽く見るのっておかしいと思うんです。だって一次選考でいいものを落とされてしまったら、そのあといくら頑張っても無駄になりますから。だから一次を他人任せにしたくないんです」
言外に、小清水副生徒会長は当てにならない、という含みを感じるが、それはいいらしい。
「なるほど。私どもにとっては、最初からきちんと見ていただけるのはありがたいことです。では、次回は、線で消されなかった企画に絞って深掘りしてきましょうか」
外﨑の問いかけに、若水生徒会長は黙った。
透き通るような無敵のスッピンは見ている分には綺麗だが、“待て” の状態で長く相対していると、なぜだが、胃がじわじわと苛まれてくる。
若水生徒会長は長い沈黙の末、
「いえ、失礼しました。アイディア名はわたしたちが没にしたのと似ていても、プロの方が内容を考えたら、実はおもしろいのかもしれません。最初に伊澤さんが仰ったように、今日は方向付けが目的だと、わたしも思いますので、今から、どうしてもダメなアイディア名だけにバツ印を付けます。で、残った企画を御社の方でグルーピングしていただいて、次は、深掘りした企画をご提案いただけますか」
と、静かに述べた。
ごくりと唾を飲んだ誠太郎が「わかりました」と答えると、若水は再び文書に向き合い、黙々とバツ印を付け始めた。
強い思いが筆圧に乗り移ったらしい。シャーペンの芯が、ぷつんと折れて飛んだ。




