18.白い刑務所
敷地側のドアを抜けると別の警備員が立っていた。
外﨑と誠太郎は「ご案内します」という警備員にしたがって学園の敷地に足を踏み入れた。
育愛会聖アンナ鈴蘭学園、と上品な学校名が付けられていても、やはり高校であることに変わりはない。校舎内から聞こえてくる放課後の喧騒はいつの時代も大差ない。
教務棟というプレートが掲げられた小さな校舎に入り、応接室の前まで来ると、警備員が「こちらです」、と言ってドアをノックした。
「シアワセファクトリー様です」と声を掛けると、なかから「どうぞ」という声が聞こえた。若水生徒会長だ。
警備員がドアを開けてくれた。
入室すると同時に、若水生徒会長が立ち上がって頭を下げた。
応接セットのテーブルの上にはタブレット端末が置いてある。
促されて着席するや、
「驚かれたでしょう」
若水生徒会長の表情は、いたずらが成功した童女のように屈託がない。
「入口、厳しすぎてヤバい兵器の研究所かと思いましたよ」
スーパー美少女のあどけない笑みに油断した誠太郎のひと言は、軽くスルーされた。バカめ。
「公立の小学校も、このくらい厳重だったらよかったんですが」
先日あった侵入狼藉事件を暗に匂わせた外﨑のことばは、裕福な学校に対する多少の皮肉を込めたものだが、若水生徒会長は反応しなかった。
「外から入れない、ということは脱出もできないので、わたし達は “白い刑務所 ”って呼んでるんです」
「なるほど。じゃあ、授業さぼってラーメン食べに行くなんてことは不可能なわけですね」
「いいですねそれ! やってみたい」
その口調には実感がこもっていた。
ここは誠太郎が軽口を挟みそうな場面だが、可愛そうに、出鼻を挫かれて意気消沈気味だ。だが、これは合コンでないのだ。外﨑が目で『仕事!』と促すと、彼は、持参のトートバッグからクリアファイルを出して若水の前に置いた。
「今日は、仰せに従って様々なカテゴリーで企画を考えてみました。初回ですので、企画の方向を掴めたらと思っています」
若水生徒会長は、誠太郎の目を見て、最後まできちんと話を聞いてから「拝見します」と言ってクリアファイルから文書を取り出した。
アイディアの数は、ラインで行ったブレーンストーミングの成果で、百以上集まった。似たようなものもあったので『少し絞った方がいいんじゃないか?』と助言したのだが、誠太郎は『絞らずに出して、評価を受けます』と譲らなかった。
ま、そう言うなら……、と全部持ってきたわけだが。
若水生徒会長は文書を見ながら、表情ひとつ変えずに、シャーペンで線を書き始めた。
ん、もしかして取り消し線?
「たくさん挙げていただきましたが、やっぱりそうですよねー」
確認が済んだ文書は、アイディア名のほとんどが、黒い線で消されていた。




