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トノさん、マジでちょっとウザいんですけど[うっせぇッ、お前ら言葉遣いくらいちゃんとしろ!]  作者: 伊藤宏


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18/45

18.白い刑務所

 敷地側のドアを抜けると別の警備員が立っていた。

 外﨑と誠太郎は「ご案内します」という警備員にしたがって学園の敷地に足を踏み入れた。 


 育愛会聖アンナ鈴蘭学園、と上品な学校名が付けられていても、やはり高校であることに変わりはない。校舎内から聞こえてくる放課後の喧騒はいつの時代も大差ない。


 教務棟というプレートが掲げられた小さな校舎に入り、応接室の前まで来ると、警備員が「こちらです」、と言ってドアをノックした。

「シアワセファクトリー様です」と声を掛けると、なかから「どうぞ」という声が聞こえた。若水生徒会長だ。


 警備員がドアを開けてくれた。

 入室すると同時に、若水生徒会長が立ち上がって頭を下げた。

 応接セットのテーブルの上にはタブレット端末が置いてある。


 促されて着席するや、

「驚かれたでしょう」

 若水生徒会長の表情は、いたずらが成功した童女のように屈託がない。


「入口、厳しすぎてヤバい兵器の研究所かと思いましたよ」

 スーパー美少女のあどけない笑みに油断した誠太郎のひと言は、軽くスルーされた。バカめ。


「公立の小学校も、このくらい厳重だったらよかったんですが」

 先日あった侵入狼藉事件を暗に匂わせた外﨑のことばは、裕福な学校に対する多少の皮肉を込めたものだが、若水生徒会長は反応しなかった。


「外から入れない、ということは脱出もできないので、わたし達は “白い刑務所 ”って呼んでるんです」


「なるほど。じゃあ、授業さぼってラーメン食べに行くなんてことは不可能なわけですね」


「いいですねそれ! やってみたい」

 その口調には実感がこもっていた。

 ここは誠太郎が軽口を挟みそうな場面だが、可愛そうに、出鼻を挫かれて意気消沈気味だ。だが、これは合コンでないのだ。外﨑が目で『仕事!』と促すと、彼は、持参のトートバッグからクリアファイルを出して若水の前に置いた。


「今日は、仰せに従って様々なカテゴリーで企画を考えてみました。初回ですので、企画の方向を掴めたらと思っています」


 若水生徒会長は、誠太郎の目を見て、最後まできちんと話を聞いてから「拝見します」と言ってクリアファイルから文書を取り出した。


 アイディアの数は、ラインで行ったブレーンストーミングの成果で、百以上集まった。似たようなものもあったので『少し絞った方がいいんじゃないか?』と助言したのだが、誠太郎は『絞らずに出して、評価を受けます』と譲らなかった。

 ま、そう言うなら……、と全部持ってきたわけだが。



 若水生徒会長は文書を見ながら、表情ひとつ変えずに、シャーペンで線を書き始めた。

 ん、もしかして取り消し線?


「たくさん挙げていただきましたが、やっぱりそうですよねー」

 確認が済んだ文書は、アイディア名のほとんどが、黒い線で消されていた。

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