14.提案だけのくたびれ損?
「予算は、修学旅行の予算を充てるつもりですが、二千万円は超えないようお願いします。ただし、全額使う必要はありません。お役所ではありませんのでね。余った方が、当校としてはありがたいです」
二千万円、という金額に思わず唾を飲み込んだ。
教頭は続けた。
「企画の採択は、生徒会長の若水に権限を委譲しています。実行は副生徒会長の小清水が窓口になります」
指名された若いふたりが揃って頭を下げた。
再び顔を上げたとき、若水生徒会長は、伏せていた目をぱっちりと開いていた。
「まずは企画案をいくつか、ご提案いただけますか。それから、先に申し上げておきますが、まだ御社にお願いすると決めたわけではありません」
ストレートな物言いだが、口元に笑みが浮かんでいるせいだろうか。今日初めて、愛らしさを感じた。
誠太郎は美少女に弱いのか、イマイチ言葉が出てこない。頼りにならないので、外﨑は、名刺を見ながら無難な質問を放り込んだ。
「聖アンナ鈴蘭学園様は、なぜ、弊社にお声掛けくださったんですか」
若水生徒会長への問いかけだったのだが、これには教頭が答えた。
「御社の先代の社長が、弊校理事長の旧知だそうでして、まずはこちらにお願いするようにと話があったものですから。なので、今のところ御社以外にはお声掛けしておりません」
「なるほどそうでしたか。それはどうも、ありがとうございます」
外﨑が頭を下げようとすると、教頭はそれを手で制して言った。
「しかし、若水はそういうところ、一切忖度しませんから気を付けてください。提案だけのくたびれ損になっても、どうかお気を悪くなさいませんよう。何しろ、切るときはばっさり切りますので」
教頭が、手刀で自分の首を斬る仕草をすると、若水彩菜がにっこり笑って頷いた。
芯のある短い黒髪がふわりと揺れた。




