1.なんか用か?
ああ、タバコが吸いたい……。
それも今ここで。
外﨑実夫のデスクにあるノートパソコンの画面には、半世紀前の子供向けテレビドラマ “宇宙戦隊フェニックス” の特撮映画が流れている。
このシーン。
よく覚えている。
地球を防衛する宇宙戦隊の面々が、深宇宙からやってきた異星人の船団とどう向き合うべきかを検討している場面だ。
テーブルに嵌め込まれた3Dレーダーを見下ろす隊員たち。その中心にいる園田隊長が手にしているタバコからは紫煙が立ち上っている。
……精密機器のある密室で、喫煙。
その昔、喫煙はカッコいい男の象徴だった。
それはともかく。
五十年前の映画人が描いた百年後の未来には喫煙の自由があったのだ……。
「トノさん、手ぇ空いてます?」
反射的にノートパソコンを閉じた。
「おぅ、何だ」
慌てて井澤誠太郎を振り返ったのだが、彼の目はパソコンではなく、仕舞い忘れていた新聞に向いていた。
「スポーツ新聞って、まだ売ってんすね」
外﨑がスポーツ新聞を買い続けているのは、老眼でスマホの文字が見にくくなったからだ。
ある日、スマホの小さな文字に目を凝らしていたときのこと。派遣社員の浜波しず香が、「トノさんそれ、字ぃおっきくできますよ」と言うのでやってもらった。
確かに字は見えるようになったのだが、小さな覗き窓と化したディスプレイから字を拾い読みすると、今度は、書いてあることの半分も頭に入ってこない。
自分で元に戻すことはできないし、今さら「元に戻してくれ」と頼むのも癪だったし、そもそも字を小さくしたら読めないし……。
外﨑は誠太郎に意識を戻した。そして開き直った。
「お前ねぇ、モノゴトってのは俯瞰で見なくちゃダメなんだよ。ほらいいか、見てみろ新聞だとこういうことだって」
デスク一杯に、競馬のページを開いた。馬柱と呼ぶ出走表が全面に載っているページである。
「こうするとほら、全部の馬の成績が一望できるだろ。閃きってのはこういうとこから生まれるわけさ」
指さした先には赤鉛筆で◎や▲、丸囲みや矢印の書き込みがしてある。
「トノさん仕事中になにやってんすか」
「ば、ばか、お前が聞くから教えてやってんだろ」
と切り返したものの、はて、何を聞かれてたんだっけか、と数秒前のことに頭を巡らせ……、思い出した。
「なんか用か、俺に」




