解放するタイミング
色々ギードには尋ねたい事もあるけれど、彼と凪の今後について考える事にした。
「プルクラは、確か仕事の手伝いが欲しかったから、凪を転生させたんだよな?」
ギードは席を立ち、紅茶のおかわりを注いでくれた。
「そうよ、ずっとひとりだったから、最近は凪がいてくれて楽しかったし、助かったの。凪がいなくなると…困るわ」
仕事もだけど…寂しいわ
「プルクラ、気持ちは分かるけど、凪は自由に出来る身体がないんだぞ?このままだと可哀想じゃないか?」
それを言われると…
「それに、このまま凪がプルクラの身体で俺にアプローチしてきて、万が一俺が手を出したら、困るのはお前だぞ?」
は?何それ、それは困るけど…
「そもそも、ギードなら間違いを起こさないでしょう?」
今まで、そんな事は一度も無かったし
「…いや、ダメだ。アレはプルクラであって、プルクラじゃないんだ。無理だ」
ギードは、両手で顔を隠し、絞り出す様に否定をしている。
「ギード、さっきから何を言ってるの?私なのよ?見た目も声も一緒じゃない」
そんなに違うのかしら?
「一緒だから尚更…いや、違う。とにかく、ダメな物はダメなんだよ。誓って間違いを犯すよ」
ギードはお手上げだと、両手を上げた。
「いや、その誓い、おかしいわよね?」
そこは、間違いを犯さないと誓うべきよ?
私がギードに問いただすも、彼は、一切目を合わせずに、話を切り上げてしまった。
「とりあえず、もう少ししたら、プルクラの仕事は人員が増える筈だから、凪の魂はそろそろ解放しろよ?彼女は人だぞ」
ギードは、この先の人員配置の事まで持ち出して、凪の魂の解放を促してくる。
それを持ち出されてしまったら、従うより他ない。
「そう言えば、ギードは初めから反対だったわね?そんなにダメだったかな…」
私はなんだか少し悲しくなってきた。良かれと思っていたのに、ちょっと違った
思わずしゅんとして下を向いたら
「違う!プルクラが悪いわけじゃない。アレはただ、お前が別人になるかもしれないのが嫌だったんだ。今もそうだ。入れ替わるとどう対応したらいいかわからなくなる」
ギードは、身を乗り出して否定してくれた。
彼なりに、魂が弱っていた凪に対して気を遣ってくれていたみたいだ。
——相変わらず良い奴だな
「ありがとうギード…確かに貴方が言う様にそろそろ凪を解放するタイミングかもね」
凪は、好きな人ができるほど、回復した様だし、もう大丈夫だろう。
私は、凪を送り出す気持ちが固まったが、拳をギュッと握りしめているのをギードに見られてしまった。
「…とりあえず、魂の回収班に、俺が話をしてくるよ。直ぐに戻るがこのままここにいるか?俺がお前な部屋に行こうか?」
ギードは、私の態度には何も言わず、私の代わりに、回収班の元に凪のデータを撮りに行ってくれるらしい。
「世界の一覧が見たいから、先に部屋に戻るわ。後から来て」
私はそう言って、先に部屋から出て行った。
いざ、凪を手放すとなると寂しい。
短い間とはいえ、ずっと共に過ごした。
この仕事に着いてからは、ずっとひとりだったから…楽しかったな…
部屋に戻り、ぽすんとソファに座る。
ボーっとしていたら、視界がゆらゆら揺れ、下を向いたら、パタパタと水滴が落ちた
——涙なんて、いつぶりかしら?
ポロポロと溢れる涙を、不思議な気持ちで見つめていたら
コンコン、ガチャリ
「あ…」
音がしたからつい、涙を流したまま振り返ってしまった。
「…プルクラ?どうした」
ギードは、一瞬躊躇いを見せたけど、近寄ってきて、私の横に座った。
「ん、ちょっと、寂しいなって…」
口に出したら、余計に寂しくなって、更にポロポロ涙が溢れてきた。
ギードは、ギュッと眉間に皺を寄せ、
「ちょっと我慢しろよ」
そう言うと、私の頭をガシッと掴み、彼の胸元に抱き込んだ。
不器用なりに、私を慰めてくれている様だ
「プルクラは、ずっとひとりだったから、きっと寂しかったよな。見ていたのに、気付いてやれなくてごめん」
ギードに理解され、本気で慰められたら、思わず私の涙腺は決壊した。
私はそのまま、ギードの胸元にしがみついて泣きじゃくった。
「…おい、プルクラ、そろそろ起きろ」
ゆさゆさと、ギードにゆすられ、私の意思がふわりと浮上した。
——あれ、寝てた?
「なんかだか、スッキリしたわ」
まだ、ギードにしがみついたままだった。
散々泣いたから、物凄くスッキリしたわね
「それは良かったな」
一方で、ギードの声はげっそりしている。
——なんか、ごめん
私はギードにしがみついたまま、泣きじゃくって、寝落ちしていたので、彼は身動きが出来なかったみたいだ。
「うん、泣かせてくれてありがとうギード」
私は、ギードの胸から顔を上げて、ギードの顔を見て素直にお礼を言った。
「っつ…お前、他の奴にも、こうやって泣き付く事があるのか?」
ギードは、私の肩を抱いたまま、顔を逸らして質問をしてきた。
「人前では私は泣かないわよ?ギードの前ですら初めてよね?」
私は普段から、あまり感情は動く方ではないから、本当に珍しい事よ。
「…そっか。ならいいか」
ギードが、フッと全身の力を抜いた。
「ん?何がいいの?」
最近のギードはたまによく分からなくなる。
「いや、お前は気にするな。もう大丈夫なら資料を見るか?」
ギードは、誤魔化した後、私の頭をぐりぐりと撫でて、凪のデータを渡してくれた。
「ギード、凪にこれから転生する事を知らせるべきだと思う?」
私は資料を見ながらギードに尋ねてみた。
「やめた方がいいだろうな。下手に言うと、自分は不用だと思いかねない」
やっぱりそうだよね…
「今眠っているけど、このまま送った方がいいのかな…」
私はかつての凪の書類を見る。
「プルクラはどうしたい?」
ギードは、横で私を見ながら、話を聞いてくれている。
さっき泣いたからか、いつもよりギードが優しい気がする
「そうね…もう一度話をしたいけど…っとギード、これみて!」
いざ凪を送ると決めて、通常通りに検索したら、凪は条件付きの魂だと判明した。
「マジか…期限、何とかなるか?」
ギードも、慌てて資料を覗き込んだ。
「この世界は、時間軸が変えれるから、指定された時間に送ればいいわ」
違う世界だったら不味かったわね…
「とりあえず、間に合うなら良かったな」
ギードも転生が間に合う事を知り、ホッとした様だ。
「ギード、この転生だと記憶保持よね?天界の記憶を消す時に、嫌な記憶も一緒に何とかならないかしら?」
もう一度凪に会いたいけど、会ったら泣いちゃうから、もう会わない方がいい
凪はギードを好きになれたのに、私のせいでもう会えないんだもの
望みが叶うなら、せめて悲しい記憶くらいは消してあげたい。
次回、本編終了。




