見当違いだわ
凪を休ませたら、ギードと話をするために彼の執務室に向かう。
ギードの部屋は『転生の間』の近くだ。
「ギードは凪の事、どうするのかしら?」
私は、先程見た2人の様子を思い浮かべ、2人にとっての最善はなんだろう?と考えながら歩いていた。
「さすがに、私の身体を開け渡すわけにはいかないわよね…」
私の身体を使わせるなら、私は転生しなければならなくなる。
さすがにそこまでするつもりはない。
「いっそ、ギードに凪の魂を移すのはどうかしら?」
ギードの部屋の前についた時、ふと思いついて、口に出してみた。
なかなか、いいアイデアじゃないかしら?
ドンド… ガチャッ!! 「イテッ」
ノックの最中に扉が開き、扉を力一杯叩いていた手が空振り、そのままギードを殴ってしまった。
「あら、扉の側にいたの?ごめんなさい」
結構な力で殴ってしまったので、とりあえず謝っておく。
「あのなプルクラ、扉はそんなに強く叩かなくても、俺はノックの音は聞こえるぞ?」
私はギードから、呆れたように見下ろされてしまった。
「そうなの?前に、アースターの部屋をノックしたら、全く聞こえてなかったから、それ以来力一杯叩くようにしたのよ」
私だって、手が痛いから、できるなら軽くノックしたいわよ?
「ノックしてから入ったのに、ノックしろって怒られたわ」
私は、思わずギードに不満を伝えた。
「あー、それは、アースターだけだ。奴は様々な神と連絡してるから、集中すると周りの音が全く聞こえなくなる」
だとしたら、仕方がないのか
「ギードはどうしてるの?」
彼の方が顔を出す機会が多いはずだ。ギードも毎回、怒られるのかしら?
「俺はいつも、ノックして扉を開けたら入り口で、入っていいか叫ぶな」
その手があったか…
「ありがとう。おかげで、これから手が痛くならなくて済むわ」
密かにノックが嫌だったらから、助かるわ
「ああ、なら良かった。ところで、立ち話もなんだし、話をするなら中に入るか?」
ギードが半歩下がって、部屋の中に招き入れてくれた。
「そうね、お茶でも淹れてくれる?」
私はスタスタと中に入り、応接用のソファにボフッと座った。
ギードのソファはふかふかでいい感じだ。
「…プルクラ、もうちょっと…まあいい。紅茶でいいか?」
ギードは、お茶を準備しながら、私の前にクッキーの箱を置いてくれた。
「そう言えば、ギードから貰ったこのクッキー、凄く美味しかったわ」
前にギードから貰ってから、美味しいから大切に食べている。
「あー、それなら良かった。まだあるから持って行くか?」
ギードは紅茶と一緒に、新しいクッキーの箱を持って来て私に渡して来た。
「え!いいの?嬉しい。ありがとう」
私は素直に嬉しかったから、笑顔でお礼を伝えたのに
「うっ…、また欲しかったら言え」
なぜか顔を歪め、目を逸らされた。
——全く失礼しちゃうわ
ちょっとムカつきはしたけど、文句を言うほど暇ではない。時間は有限だ
「プルクラ、凪の事なんだが…」
私より先に、ギードが話を振って来た。
さっき部屋を出て行く時、ギードも話があるって言っていたわね…
やっぱり、ギードも凪を思っているのね?
「ギード、残念だけど、私の身体を開け渡すわけにはいかないわ」
私は『異世界転生を司る女神』でいたい
「は?どうしてお前の身体を凪に開け渡す話になるんだ?」
ギードは、意味がわからんと眉根を寄せた
——あれ、違った?
「そんな事より、プルクラ、凪はいつまでお前の中にいるんだ?」
ギードは、真剣な顔で私に凪の滞在期間を尋ねてきた。
「いつまでって…どうして?」
その言い方だと、凪が私の中にいてはダメみたいじゃない。
「プルクラなら、凪の気持ちが分かってるだろう?凪は俺を男として見ているよな?」
ギードに真っ直ぐ尋ねられ、私は言葉に詰まってしまった。
「…勘違いかもしれないじゃない?」
良く考えてみたら、私の口から、そうだとは言えないわ
私は、冷やかし半分で、ギードの凪への気持ちを聞きに来ただけだから…
「俺を見る表情がプルクラとは、全く違うからな、流石に気付くよ」
ギードは、ボフっとソファの背もたれに沈んで、ははっと力無く笑っている。
なんだか虚しそうね?
「どんな顔をしていたのか、私にはわからないけど、そうなのかも?」
私はどんな顔をしたのかと思い、自分の顔をむにむにさわりどうするか考えていた。
私が凪の気持ちがどうとか、知っていてもハッキリ言うのはちょっと違うわよね…
「プルクラ、凪は今までまともに恋愛すらしていないだろう?外に意識が向いたなら、魂が元気になってきた証拠だろう?」
ギードは、ソファにもたれたまま、こちらを見ている。
「確かに、そうかもしれないわね?」
そもそも凪は、ある意味ポジティブだ。魂がしっかり休んで回復したら、認識さえ変える事が出来たら、どこに出しても大丈夫だ。
「元気になったなら、凪の魂の救済は、もう終わりでいいんじゃないか?」
ギードは静かに伝えてくるけど…
「恋ができるまで回復したなら、そろそろ解放する時期だけど、ギードはいいの?」
ギードは、凪の事が好きなんじゃないの?
私は、核心はあえて聞かずに問いかけた。
「ん?なんで俺?」
ギードは心底理解してない顔をしている。
ダメだわこの男、ハッキリ言わなきゃわからないだなんて、朴念仁だわ
「だってギード、凪の事好きよね?」
私の言葉に、ギードは固まった。
——図星かな?
「私、2人が共に居るにはどうすればいいか考えたの」
私は、胸の前で祈るように手を組み、満遍の笑みで自分の考えを伝えようとした。
ギードが、ハッとして
「ちょ、ちょっとまて!プルクラ!」
ギードが私の言葉を慌てて遮ってくるけど、私は2人には幸せになって欲しい。
「私の身体はあげられないから、凪の魂を、ギードに移すのはどうかしら?」
いいアイデアでしょ?とばかりに伝えたら
「はぁー、プルクラ、お前が恋愛に対してバカで良かったと心底思ったよ…」
なぜかギードはがっくりした後、力を抜いたまま安心していた。
「何よ、一緒にいれたら嬉しいでしょ?」
私は、なんだかバカにされたのが悔しい。
「プルクラ、俺は凪の事が好きなわけじゃないから、魂を入れるのは遠慮するよ」
ギードは、疲れた様子でそう言った。
「違うの?」
私は予測を外した事がショックだった。
「違うよ。それに俺好きな人がいるから、そんな奴に凪の魂入れるのは残酷だろ?」
確かに、自分の好きな人が、別の人を見ているのを見るのは嫌だろうな…ん?
「え!ギード好きな人いたの?」
それはそれでびっくりだ!!
だとしたら、全くの見当違いだわ?
「いちゃ悪いかよ」
ギードは、物凄く嫌そうな顔をした。
好きな人の話をする顔じゃないわね?
「悪くないわよ。びっくりしたけど」
全く、これっぽっちも気付かなかったわ…
「話は戻るが、俺の事より、凪の魂はいつまでプルクラに留めておくつもりだ?」
やだわ、話が振り出しに戻ったじゃない。




