自立の一歩
『天鏡』を使って、凪の周りの人達の生活を覗いた日から数日が過ぎた。
凪は、私と一緒にいる事にもだいぶ慣れてきたようで、仕事中によく話しかけてくるようになった。
(プルクラ…この魂…)
凪は、今、資料作成に取り掛かっている、不憫な魂に心を寄せていた。
「凪、やってみる?」
毎日仕事を見ているから、資料の作成は難なく出来るだろう。
(私がやってもいいの?)
凪がドキドキしているのが伝わってくる。資料作りは好きだもんね。
「魂に興味が持てたなら、凪が考えてみて。勿論、ダメな時には私がチェックするわ」
私はそう言って、凪と入れ替わった。
凪がまとめてくれた資料は、私が作った資料と変わらない出来で感心してしまう。
(さすが凪ね。早いし見やすいわ)
私がそう褒めたら
「プルクラは、褒め上手よね」
と言って、はにかみながら笑っていた。
【 家庭 】
女と金にだらしない父と
無関心で無責任な母
産まれた時から虚弱体質
ネグレクト気味に育つが、
自力で生活能力を身につけた。
【 印象 】
育ちのせいか、認証欲求が強くなる。
責任感も強い為、利用されやすい。
精神的にはかなり強い。
【 性格 】
頭脳明晰
前向き、努力家、若干能天気。
空気読みが上手い。
勘が鋭い。
【異世界知識】
物語としての知識はある
【 死因 】
病死
病の発見が遅れ、手の施しようが無かった。
【備考】
利用されたくないので自分で店を出した。
ポテンシャルはかなり高い。
丁寧に書き出された情報を見ながら、凪は考えをまとめて話をしてくれた。
「彼女は、基礎能力がかなり高いです、今まで頑張ってきたから、能力を向上させて、平和な世界に転生するのがいいかと思います」
凪は、仕事になると、はっきりとした物言いになる。内容も概ね間違っていない。
(凪、いい感じよ、ただ、稀だけど既に転生先が定まっている魂もあるから、確認してね)
私がそう伝えると、凪は分厚い資料集を取り出して、年齢、性別、死因、能力の項目から所定の者か否かを調べている。
(適応者の魂の特徴としては、基礎能力が非常に高く、前世はかなりハードモードなのよ)
凪の作った資料を見る限り、所定の魂のような気がしたので、念の為、資料集を確認させてみた。
「あ、本当だ。プルクラ、ありました」
凪の指差したページに、魂の名前があった。
(あら?やっぱりこの魂、転生先の世界は、既に決まっていたのね?)
所定の魂は、世界の指定だけでなく、付加する能力や、時間も決められている事がある。
「プルクラ、この場合、どのように記入すればよいの?」
凪が、初めての事に戸惑っていたので
(ちょっと一瞬、変わるわよ)
私はスッと凪と入れ替わった。
「賢者…ねぇ?時間軸が違うようだけど…能力の覚醒時に記憶を取り戻せばいいのね?」
凪に変わり私が調べてみたところ、この魂には、色々な制限があった。
私はささっと、追加の情報を、凪に見せながら資料に記入して行った。
(この子、私に似てますね)
凪は、心配そうにしている。次の世界で、幸せになれるか気になるのだろう。
「そうね、強いて言えば、凪も彼女も父親がクズなのと、母親が無責任な所が似てるかしらね?後2人とも頑張り屋さんだわ」
私が、ぱっと見の共通点を挙げて行ったら、
(プルクラ、クズに無責任って、確かにそうだけど言葉にするとちょっと酷いわ)
と言って、凪はクスクス笑う。
凪は、鏡を覗いて現実を見た日以来、よく笑うようになった。
自分の、周りがおかしかった事、それを自分が増長させていた事を理解して、彼女なりに前に考えて進み始めた様だ。
「あら、私は凪の資料を見て言ったのよ?無責任って書いてあったし」
と、資料を見ながら言い返してやると
(え?私、そんな事…あ、やだ書いてるわ)
凪は、母は無関心で無責任としっかり記載してあるのを見つけた。
「凪、無意識で書いている方が、酷くないかしら?」
私はさっきのお返しに、言い返してやった。
(うっ…確かに)
凪は言い返す言葉がなく、負けを認めた。
そんなやり取りを楽しんでいたら
コンコン ガチャリ
「お、プルクラ、今時間あるか?」
毎度お馴染み、ギードがやってきた。
「ギード、あなた来過ぎじゃない?もしかして暇なの?」
私は、面倒だなと思いながらそう言うと、
「あぁ?失礼だな、俺は全く暇じゃないぞ?『能力開発部』が、新しい能力を見に来いってさ、ついでに声掛けに来た」
ギードは真面目に仕事をしていた様だ…
「また希望する能力が増えたの?」
私はまた、新しく覚えなきゃならない事に、ウンザリしてしまう。
「今回は、案内時に配布が間に合わなかったシリーズもだな」
ああ、あの、祈れば追加される能力ね…
準備が間に合わなかった場合、魂に神に祈りを捧げる事を伝えて送り出し、仕上がり次第能力を送りつけるの。
「私も見に行かなきゃダメ?」
なんなら、今は手一杯なんだけど…
「ダメ『能力開発部』のジジイどもが、プルクラを連れて行かないとうるさい」
ギードは、はぁ、とため息をついた
「面倒くさいわ…」
私がボソッと呟くと
「プルクラはジジイどもに人気だからなぁ、諦めてくれ」
と言って、私の手元の資料を取り上げ、手を引いて、あっという間に部屋の外に連れ出されてしまった。
「凪…変わる気はない?」
私は、興味がないから引っ込みたいので、凪に縋ってみたけれど、
(無理です)
あっさり凪に断られた。
凪…あなた断る事出来たのね…




