幼馴染は欲望に忠実
「スンスン……はあはあ……」
普段はちゃんと来ている制服を着崩し、だらしない顔で俺の布団に抱き着いて堪能している。
幼馴染の久木 弥生。
悲しいことに見慣れた光景である。
何度も注意したが止まらないので諦めた。幼馴染の俺しか知らない変態行為である。
基本的に弥生は要領が良く、人当たりが良い。
運動もできるし、勉強もできる。同じ学校の先輩からも後輩からも、もちろん同級生からもモテモテのハイスペック女子高生。
周りからは学校一の美少女といわれている。
唯一俺だけは学校一の変態と評価しているが。
弥生は男の匂いが好きらしい。
よく共感を求められるが無理。
俺は男の匂いの良さなんか知りたくないからな。
そんな変態行為をする幼馴染だが、常識はあるらしい。
男の匂いは好きだが、実行するわけにはいかないと。
だから幼馴染の俺の匂いで妥協しているらしい。
いや待て。酷い言い草だし、俺のでもやるなよ! と過去に言ったことがあるが、無理と断られた。
正しいのは俺ですよね? 無理ってなんだよ。
しかも、堂々と人のベッドの上で変態行為をやっている。
せめて隠れてやれよ! もちろん言ったことはある。
弥生からは、一回見られたら何回見られても同じだよ。
それで納得できるか!
その発言でわかったことは俺が知らないだけで隠れてやっていた時期もあるということだけだ。
俺が知ったのは中学二年のときだぞ。それよりも前となると、下手したら小学生からやっていることになる。過去のことだし、考えるだけ無駄なのでやめておこう。
頭痛くなってきた。
そんな弥生でもハイスペックであることには変わりないので、部活やら生徒会やら入らないのかと聞いたことがある。
幸せな時間が減るから嫌だと言っていた。弥生の幸せな時間とは俺のベッドでの変態行為である。本当にブレないな、この女。この芯の強さは別のところで活かしてもらいたい。
周りからは弥生と幼馴染だとうらやましがられたり、嫉妬されたりするが、本当の弥生を知らないだけ幸せだと思う。弥生の変態ぶりを知ったらきっと引き―――そうもないな。むしろ喜びそうな気がする。
俺の周りは変態しかいないのかよ。
思わずため息が出た。
「なあ、弥生。いつも俺の匂いを嗅いで飽きないのか?」
「え? 飽きないよ」
弥生がむくりと起き上がって座り直す。
シャツのボタンくらい閉めろよ。ちらっと胸から下着が見えるぞ。
「弥生って男の匂いが好きだったんだよな。たまには他の男の匂いを嗅ぎたいとかないのか? 弥生はモテるんだし、頼めば引き受けてくれそうだけどな」
そうそう、男は可愛い女に弱いんだから受け入れてくれるさ。
この変態を他の男になすりつけよう。
「ないよ。ゆーくんの匂いが一番落ち着くし。……本当に鈍いよね」
「鈍いってなにが?」
もうっと言いながら弥生が大きく息を吐いた。
急に恥ずかしそうにもじもじしだす。なんだトイレか?
「だ、だから照れ隠しだったのよ。男の匂いが好きっていうのは……本当は違うの」
俺の枕を持って強く抱きしめた弥生が真っ赤な顔をして、
「ゆーくんのことが好きなの! だからゆーくんの匂いを嗅いでるの! 気づいてよ、ばかぁ」
「無茶言うな! 気づけるか! やばい変態としか思ってねえわ!」
「なにそれひどーい!」
この後、弥生があの手この手で俺を攻略しようとするが、それはまた別の話。