第1話 黒猫に導かれた先で、なぜか“お客様扱い”されてます
今日が初投稿になりますが、勢いのままに1話も投稿することにしました!
0話に続いて、物語が少しずつ動き出します。
澪月たちの異世界での一歩、よければお付き合いください。
石畳の道に、異国の空気が香る。
クロ──黒猫が導いたその先には、まるで中世ヨーロッパのような街が広がっていた。
だが、そこにいたのは“人間だけ”ではなかった。
猫耳の女性が果物を売り、背中に羽根を持つ少年が空からふわりと舞い降りて荷物を運ぶ。
角の生えた青年が、人間の少女と笑い合いながら歩いている。
人間と異種族が、当たり前のように混ざり合い、生活していた。
「……すげぇ。これが、異世界……」
思わず呟いた澪月の声は、誰よりも静かで、誰よりも高鳴っていた。
「テーマパークのセットとかじゃないよね?」
詩乃が不安そうに袖を掴んでくる。
「いや、これはマジモンだろ。現実でこんな種族共存街とか見たことねぇし」
空汰は周囲を警戒するように歩きながらも、目はどこか興味深げだ。
「うおお……見ろよ!あれ絶対冒険者パーティ!剣!ローブ!商人!うっは、超テンション上がるー!!」
廻はまるで夢の中にいるかのように騒ぎ立てていた。
そんな賑やかな仲間たちの声をよそに、クロは黙って道を進んでいく。
4人はその背を追いかけるように、無言でついていった。
やがて、大きな広場に出る。
中央には石造りの噴水があり、その奥には荘厳な城がそびえ立っていた。
「すげぇ……あれ、マジの城じゃん」
廻が興奮気味に声を上げる。
「構造的に、観光用じゃないな。防衛線として実用性重視……城塞としてガチだ」
澪月は城を見上げ、まるで学者のような口調でつぶやいた。
クロは何の迷いもなく城門へと向かう。
4人も、それに続く。
門の前にいた守衛は、灰色の肌に蛇のような瞳を持っていた。
人間ではない。けれど、それが当たり前のようにそこにいた。
「止まれ。来訪者か?」
警戒した声に、廻が前に出かけるが──
「待て、こういうのは俺に任せとけ」
空汰が片手をあげて前に出る。
「“お城の門を通る時は、お静かに”ってな」
「……誰か今の止めて」
詩乃が真顔で呟き、澪月は目をそらした。
「すみません。俺たちは、この黒猫──クロ様に導かれてここまで来ました」
澪月が真面目に伝えると、守衛たちはクロに目を向ける。
すると、一瞬にしてその表情が変わった。
「……なるほど。では、どうぞお通りください。ご案内いたします」
門が音もなく開かれ、4人はそのままクロの後を追って城内へと足を踏み入れた。
•
中に入ると、城は外見の印象よりもずっと静かで落ち着いた空間だった。
石造りの廊下には過剰な装飾はなく、清潔で整っている。暖かな光が、淡く床を照らしていた。
そんな中、ひとりの女性が現れる。
ダークグレーの髪をまとめ、落ち着いた微笑を浮かべて立ち止まった。
「ようこそ、この城へ。あなた方は、こちらの世界に“迷い込んで”こられたのですね」
彼女──リサは、お辞儀をして丁寧に言葉を紡いだ。
「……ここって、俺たちがいた世界とはまったく違う場所ですよね?」
澪月が慎重に尋ねる。
「はい。あなた方がいた世界とは異なる“層”にあたります。別の理が流れる場所……と考えていただければ」
「戻る方法は……あるのか?」
空汰の問いに、リサは小さく首を横に振った。
「申し訳ありませんが、今のところ方法は不明です」
沈黙が落ちる。
だが、リサは続けた。
「ですが、ご安心ください。この城では生活に必要なものはすべて整っております。どうぞ、しばらくお休みください」
「……それ、信じていいのかよ」
空汰が警戒心を隠さずに言う。
「何もしなくていい、って言葉ほど怪しいものないしね」
詩乃も苦笑い。
「ま、牢に入れられてないだけマシってやつだな」
廻がぼそっと付け加える。
澪月は黙ったまま部屋の中を見渡していた。
──整いすぎた対応、丁寧すぎる言葉。
裏があるに決まってる。けれど、今は……動けない。
「警戒は続ける。でも、今は受けるしかない」
そう言って澪月は、クロを見やった。
その黒猫はすでに、ソファの上でまどろんでいる。
•
その夜、案内された客間に4人が揃った。
「なぁ、これからどうする?」
澪月が静かに口を開く。
「とりあえず情報集めだよな。ぶっちゃけ、今できることってそれくらいだし」
空汰が答える。
「せっかくこういう場所に来たんだし、何か動いた方が……私は落ち着くかな」
詩乃は膝の上のクロを撫でながら、そっと言った。
「ま、よし。布団が“ふっとん”だくらいの勢いで行こうぜ!」
「今じゃねぇだろ」
3人の総ツッコミが入る中、ノックの音が部屋に響いた。
扉を開けると、メイド姿のクララと、執事服のアレンが並んで立っていた。
クララは兎のような長い耳を持ち、アレンは淡く光る瞳を持つ青年だった。
「お休みのところ、失礼します」
クララが軽く頭を下げる。
「お部屋の居心地はいかがでしょうか。そして……ひとつ、お願いがございます」
「お願い?」
澪月が目を細める。
「実は、見習いのメイドや執事の訓練のため、皆さまに“練習台”になっていただけませんか?」
「俺らが?」
廻が楽しそうに身を乗り出す。
「それなら、まぁ……何もせずにいるよりはいいか」
澪月はクロを撫でながら、静かに言った。
「なんか、異世界っぽくなってきたな……」
空汰が笑い、詩乃も小さく頷いた。
こうして、4人はこの不思議な世界で、最初の“役割”を与えられることになる。
そしてまだ、この世界の本当の姿を、誰も知らなかった。
澪月「……“何もしなくていい”なんて、都合のいい言葉を信じるほど、俺は甘くない。
この城にいる連中──いったい何者なんだ?」
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それでは、また次の更新でお会いできることを願って──。