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第六話 リオの告白

夕食を終えた後、私は自室で宿題をしていた。静かな夜の空気の中、コツコツと扉をノックする音が響く。


「お姉ちゃん、ちょっといい?」


 リオの声だった。


 「どうぞ」と返すと、リオが部屋に入ってきた。

 彼はどこか落ち着きのない様子で、ドアの前に立ったまま私を見つめている。


「どうしたの? 何かあった?」


 リオは少し口ごもったあと、ベッドの端に腰掛けた。


「うん、ちょっと話したいことがあって……」


 しばらくの沈黙。私はそんな彼の様子に違和感を覚えた。


「リオ、何か悩んでるの?」


「悩んでるっていうか……ううん、悩んでるのはお姉ちゃんのほうかもしれないね。」


 突然の言葉に、私は一瞬戸惑った。


「私が? 何のこと?」


「お姉ちゃん、ずっと迷ってるでしょ? ミチルさんとか、貴翔さんとか……誰のことを大切に思ってるのか。」


 リオの言葉が、胸を鋭く突いた。

 確かに私は、ミチルや貴翔との関係の中で揺れていた。

 誰が一番大切なのか、自分でも分からないままだった。


「まあ……正直、そうかもしれない。でも、それがどうしたの?」


 私が苦笑しながら答えると、リオはまっすぐな目で私を見つめた。


「だから、僕も言わなきゃいけないと思ったの。お姉ちゃんに、自分の気持ちをちゃんと伝えなきゃって。」


 ◆◇◆◇

 

 リオの言葉に驚き、私は彼の表情をじっと見つめた。

 普段は穏やかで優しい笑顔を浮かべている彼が、今は真剣な顔をしている。


「お姉ちゃん……僕、ずっと前からお姉ちゃんのことが好きだった。」


 時間が止まったように感じた。


 リオの言葉が、私の心に深く響く。

 まるで世界の音がすべて消え去ったみたいに、何も聞こえなくなる。


「最初は、家族だからこんな気持ちを持っちゃいけないって思ってた。でも、お姉ちゃんが他の男の人と話してるのを見るたびに、胸が苦しくなって……」


 リオの声が震えている。


「僕は、お姉ちゃんが笑ってるのを見るのが一番幸せ。でも、同時に誰かに取られるのが怖いの。ずっと僕だけを見ててほしいって思っちゃう。」


 私は何も言えなかった。

 彼がこんな強い思いを抱いていたなんて、想像もしていなかったから。


 ◆◇◆◇

 

「リオ……それ、本気で言ってるの?」


 ようやく声を絞り出すと、リオは少しだけ目を伏せ、静かに頷いた。


「うん、本気だよ。」


「でも……私たち、家族だよ?」


 私は思わず言ってしまった。

 リオのことを大切に思っている。でも、それが“恋愛”なのかどうか、分からない。


「お姉ちゃんはどう思ってるの?」


 リオの問いに、私は言葉に詰まる。

 彼の気持ちを否定することもできないし、すぐに応えることもできない。


「正直、今は何て言えばいいか分からない。でも……」


「でも?」


「リオが私を大切に思ってくれてるのはすごく伝わった。それがどれだけ嬉しいかも分かる。でも、だからこそ簡単に答えを出せないんだ。」


 リオは私の言葉を聞いて、少しだけ微笑んだ。


「そっか、お姉ちゃんらしいね。すぐに答えを求めてるわけじゃない。ただ、僕の気持ちを知ってほしかっただけ。」


  ◆◇◆◇

 

 二人の間に、少しの沈黙が流れた。

 リオは自分の感情を整理するように深呼吸し、静かに続けた。


「これからも、僕はお姉ちゃんのそばにいたい。その気持ちは変わらないよ。でも、もしお姉ちゃんが僕を選ばなくても……」


「選ばなくても?」


「それでも、お姉ちゃんの幸せを一番に願うから。」


 私は胸が締め付けられるような思いを感じた。

 彼の気持ちを受け止めながらも、自分がどうするべきなのか分からない。


 ただ、今は――


「ありがとう、リオ。」


 それだけしか言えなかった。


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