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第五話 愉快な仲間たち

 春の柔らかな陽射しの下、私は旅行先の広場で、見慣れた三人の姿を見つけて、思わず深いため息をついた。


 安原ミチル、千田貴翔、リオ。

 それぞれが私に対して複雑な感情を抱えている彼らが、どういうわけかこの旅行を機に自然と集まるようになった。

 そして、なぜか三人の間には、奇妙な友情のようなものが芽生え始めていた。


 ◆◇◆◇

 

「六花、さっきの集合写真、ちゃんと撮れた? 私が確認してあげようか?」


 貴翔が軽い調子で声をかける。


「いや、自分で確認するから大丈夫。」


 私がやんわりと断ると、すかさずミチルが割り込んできた。


「六花、俺も写真に写ってるよな? あとで一緒に見ようぜ。」


 そのやり取りを見た貴翔が、少しだけ眉をひそめる。


「お前さ、六花に無理やり絡むのやめたら? 彼女、困ってるじゃん。」


 貴翔の冷たい口調に、ミチルは挑発的に笑った。


「お前こそ、六花にベタベタしすぎなんじゃねえの? 見てて気持ち悪いわ。」


「……何だと?」


 火花を散らす二人の間に、私は慌てて割って入る。


「やめてよ、二人とも! ここ旅行中なんだよ。少しぐらい楽しく過ごそうって思わないの?」


 少しばかり気まずい空気が流れたが、そこへリオが手を挙げて口を開いた。


「お姉ちゃん、みんなでご飯食べに行こうよ。美味しいお店、調べておいたんだ。」


 その提案に、ミチルも貴翔も一瞬言葉を失ったが、やがて渋々頷いた。


 ◆◇◆◇

 

 その後、地元の名物料理を食べに行くことになった。料理が運ばれてくると、貴翔がスマホを取り出して写真を撮り始めた。


「ねえ、みんなで一緒に撮らない? せっかくの旅行だし、記念になるでしょ?」


「……別に撮りたくねえけど……まあ、六花が写るなら撮ってもいいけどな。」


 ミチルが素直じゃない言い方で答える。


「お姉ちゃんが真ん中ならいいよね!」


 リオも笑顔で賛成する。


 結局、私は三人に挟まれて写真を撮ることになった。写真を見た貴翔が驚いたように声を上げる。


「あれ? 意外といい感じじゃない?」


「確かに……悪くねえかも。」


 ミチルも小さく呟いた。


「ねえ、これLINEのグループアイコンにしない? 『六花と愉快な仲間たち』 みたいな感じで!」


「それいいね! でも、お姉ちゃんが嫌がるかも!」


 リオがクスクス笑う。

 私は深いため息をつきながらも、三人が笑い合っているのを見て、どこか安心している自分に気づいた。


 ◆◇◆◇

 

 旅行から帰った後も、なぜか三人が私を巻き込んで行動することが増えた。

 ある休日、彼らは私を誘ってカフェに集まった。


「そういえば、貴翔って演劇部だったよな? 舞台とか観に行ったら面白いのかな?」


 ミチルが何気なく尋ねる。


「え? 意外。お前がそんなことに興味あるとは思わなかった。」


 貴翔が驚いたような顔をする。


「べつに興味があるわけじゃねえけど……まあ、気にならないこともない。」


「じゃあ、次の公演に招待してやるよ。一緒に来いよ。」


 その時の貴翔の純粋な笑顔に、ミチルは少しだけ驚いた表情を見せた。

 一方、リオは二人のやり取りを見ながら静かに笑っていた。


「なんだかんだ言って、二人とも仲良くなってきたね。ちょっと嬉しいかも。」


 その言葉に、ミチルも貴翔も一瞬ぎこちない顔をしたが、やがてお互いに小さく笑い合った。


 ◆◇◆◇

 

 三人が仲良くなっていくにつれて、私は心の中で抱える葛藤がより大きくなっていった。

 彼らそれぞれに対して感じる気持ちが複雑で、どうするべきか分からなくなっていたのだ。


 そんなある日、リオが私に真剣な顔で話しかけてきた。


「お姉ちゃん、ずっと悩んでるよね。」


「……まあ、そうだね。」


「貴翔さんも、ミチルさんも、お姉ちゃんのことが好きなんだと思う。でも……お姉ちゃんは、誰が一番大切?」


 その問いに、私は言葉を失った。

 リオの瞳には、彼なりの覚悟が宿っていた。


「僕は、どんな決断をしてもお姉ちゃんを応援する。でも……一つだけお願いがある。」


「お願い?」


「絶対に、自分の気持ちをごまかさないで。」


 リオの言葉に、私はハッとした。

 これまで、私は誰かを傷つけないように慎重に振る舞ってきた。でも、それが本当の意味で誠実な態度だったのかどうか、自信がなくなってきたのだ。


 ◆◇◆◇

 

 翌日、私は三人を呼び出し、自分の気持ちを伝える場を作った。

 放課後の静かな教室。私は意を決して口を開いた。


「ミチル、貴翔、リオ。これまでいろんなことがあったけど、私は……自分の気持ちに正直になりたいと思う。」


 三人はそれぞれ緊張した表情で私を見つめていた。


「私は……」


 私の言葉が教室に響き、三人との関係が新たな形を迎える瞬間が訪れた。

 どんな結末になろうとも、私は初めて自分の心と真剣に向き合おうとしていた。

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