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第6話「贖罪と感謝」

 名前を聞いてから二日たった。

 コミュニケーションは順調だ…と思う。

 全くなかった会話が数回に増えた。ま、そのあとすぐダウンしてしまうけど。

 これも一歩ずつだ。リーアが愛想つかさない程度に頑張ろうと思う。


 さて、本日はリーアから頼みごとがあるらしい。


「私に魔法をもっと見せて欲しい」


 リーアは知的好奇心の強い子だ。湖の怪物と言われていた俺に臆さず話しかけるくらいだからな。


「え?教えてくれって言わないのか?」

「何を言っているんだ。魔法は選ばれた者しか使えない。そうだろ?」


 そうだったのか。確かにそういう設定の作品もあったな。漫画とかの知識を鵜呑みにするのはよくないか。

 何も考えずに使いまくってたけどまずかったのかもしれない。見られたのがリーアだけで助かった。


「ごめん。俺そういうことに詳しくなくてさ」

「ああ、そうか。ずっと一人で生きてきたと言っていたか…だとすれば…うむ」


 リーアには俺が一人で旅している流れ者だと説明してある。こう話しておいた方が楽だしな(漫画とかの知識)。


「使えはしないが見ることは好きでな。村の魔法使い共の魔法をよく見ていた。クリオラのような化け物じみた種類の魔法を使う人を初めて見たし、威力も回数も他とは一線を優に超えておる。だから頼むこの通り!」

「頭なんて下げなくたって見せてあげるよ。もう色んな魔法見せてるし今更だろ?」

「本当か!」

「ち、近い…」

「おっと、すまない」


 リーアは可愛いがまだ人に慣れてない俺には刺激が強すぎる。

 ちゃんと目を合わせて会話するのが直近の目標だ。


「で、何を見たいんだ?」

「そうだな…私がいた村に風の魔法を使うやつがいた。クリオラの魔法とあやつの魔法どちらが優れているか――…は言うまでもないな。とりあえずどこまで違うのか近くで見せて欲しい。嵐を起こすこともできるのだろう?」

「できるけど…何でそんなこと知ってるんだ?」


 まだ見せたことないはずだけど…もしかしてリーアも鑑定持ちか!?


「ああ、村から見えていたからな。私は見れていなかったが怪物が住み着いたと騒ぎになったよ」


 なるほど…だから俺のことを湖の怪物って呼んでいたのか。


「まって、それならリーアが生贄にされたのって俺のせいか!?」

「まあ、そういうことになる……だが恨みはしていない。村にいるよりもここにいる方が楽しい」


 俺のせいでリーアがこんな仕打ちを…。

 よく考えればリーアが来てすぐにわかったことじゃないか。衝撃が多すぎて理解してあげられなかった…。


「その…ごめんな」

「いいさ、ちょっと痛かっただけだからな」

「ほんとにごめん…」

「はは、冗談だ。罪悪感があるのなら私に魔法を見せてくれ。村が騒がしくならない程度で頼むぞ?私のような者が出るのは避けたい。クリオラも人が増えるのは嫌だろう?」


 いたずらに笑うリーアの顔をちゃんと見れない。やせ我慢をしているのかもしれないのに…。

 ここは目を合わせてちゃんと謝らないといけない場面だというのに。自分が情けない。


「そうだな。当分はリーアだけのほうがいい」

「…そ、そうか。では失敗しないように気を付けてくれ」

「わかった。…だけど今は休ませてくれ」

「ああ、また元気になったらでいい」


 リーアは優しすぎる。きっと生贄にされるときも率先して引き受けたに違いない。リーアが望まなくても贖罪しなければ。それが俺の自己満足でも。


 でもそうか。俺のせいで…。

 人に迷惑が掛かるかもしれないということを考えていなかった。怖がらずにちゃんと拠点の周囲を確認しておかなければいけなかったんだ。

 そうすればリーアが生贄になることもなかった。

 全部俺の責任。


 気持ちが落ち込んだ。



 それから数日何もできなかった。

 食事は取り置いた肉を使ってリーアが自分で何とかしている。

 魔法を見せると言ったのにそれもできずにいた。


「ゆっくり休め。元気になってからでいい」


 元気になったと思ったんだけどな。症状もましになった。睡眠障害もよくなっている。

 ゆっくり。ゆっくり。

 そう自分に言い聞かせているけど、それでも気持ちは焦るし落ち込んでしまう。


 それでも自分を保てているのはリーアがこうして寄り添ってくれているおかげだ。


 ……運動をしてみるか。

 こういう時は身体を動かせばマシになると聞いたし。


「少し歩いてくるよ」

「大丈夫か?」

「うん」

「…私もついていこう。最近少し食べ過ぎている気がする。このままでは太ってしまうかもしれない」


 リーアが丸く…?


「ぶふっ」

「な、何を笑っている!」

「はは、ごめんごめん。でもリーアはちょっと細すぎるよ。筋肉をつけるにしてももっと肉付けないと」

「そ、そうか?」


 しっかりと栄養を取り始めたとはいえまだやせ細ったままだ。太るって言われて笑ってしまったけど今はむしろ太らなければいけない。ただ太り過ぎないように見張っておこう。あと調味料の使い過ぎも徹底的に監視だ。


「そういえばリーアは何歳なんだ?」


 それを聞いた時リーアは不思議そうに俺の顔を見た。


「歳?歳とはなんだ?」

「え?何年生きてるかってこと」

「すまないが何を言っているかわからない」


 どうやらこの世界にはまだ暦の概念がないらしい。とりあえず紀元前ってことだけはわかった。これは…先が思いやられる…。


「そうだな…朝が来たらまた朝が来るだろ?それを一日としてそれが三百六十五日で一年ってことになるんだ」

「なる…ほど」

「何歳かってのは生まれてからどれだけの年を過ごしたかを知るためのものだよ」

「そうか。なら私の歳はもうわからないな。生まれて何日経ったかなんて覚えていない」


 覚えてた方が怖いぞ。


「にしてもそれを数えることに何の意味があるんだ?」

「あー、えっと。季節とか正確に把握したりして色んな事に使うんだよ。農業とかさ、その季節でしか育てられない物あるだろ?」


 そういう風にならったような気がする。もう何年も前だし全く使ってこなかったからちゃんとは覚えてないけど…。


「そういう事か。確かにそれを把握できるのは便利だな。星をよんでやらねばと思っていたが畑の管理がしやすくなりそうだ」


 好感触。他の人間と接触した時にも教えることにしよう。


「だがどうやって数える。少しでもずれたら意味がないだろう?」

「そういう時のカレンダ――…紙ってある?」

「なんだそれは」


 ないよねー。あったとしても絶対普及してないよねー。んー紀元前の歴史なんてわかんないぞ…?粘土板とか壁画とか…?


「今のところリーアと俺だけしか使えそうにないな…」

「そうなのか?」


 意味がないとわかっていてもちゃんと知っておきたいというのは俺が現代人だからなのかもしれないな。


「今のところ使い道はないけど、とりあえず祝うべき日は一年に一度祝おうか」

「祝うべき日?」

「誕生日とか…はわかんないんだもんな。じゃあ誕生日の代わりにリーアがここに来た日を祝うことにしようか」

「祝うほどの物か?そんな大事な日を適当に決めていいのか?」

「適当じゃないし、ちゃんと祝いたいんだよ」


 感謝を込めてな。経緯は褒められたものじゃないが、リーアが俺の前に現れてくれたおかげで楽しく生活できている。

 だからリーアがここに来た日は俺にとって特別な日だ。押しつけがましいかもしれないがここは譲れない。


「リーア」

「なんだ?」

「ありがとうな」

「?急にどうした」

「いいたくなっただけだよ。よし走ろうか!」


 リーアは意味が分からないという顔をしているがそれでも言いたかった。

 …人にちゃんとありがとうって伝えたのいつぶりかな…。

 思っていたとしても口にできてなかった。ちょっと成長したのかもしれない。



 気づけば落ち込んだ気持ちはなくなっていた。

 それが何故かなんて分かり切っている。


 大切にしよう。この日常を。

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