第24話「刻まれし魔術」
三日の旅路を経て最前線の砦まで辿り着いた。砦に近づくにつれて地面が揺れるのを感じる。
その間も数体モンスターが出たけど見つけ次第リーアが瞬殺、俺は素材を回収した。
「おーい!引継ぎが来たぞおおお!!!」
俺たち一行に気づくや否や一人の兵士が砦の上に向かって叫んだ。
そして周りから歓喜の声が聞こえてきた。みんな疲れているせいかそこまで大きくはない。
「やっと帰られる…」
「俺は後一か月だ…」
「死ぬんじゃねえぞお前」
兵役は一回二か月だ。
終われば解放というわけじゃない。三回のローテーションが組まれているから四か月経てばまた戻ってこなければいけない。
これが現状だ。もう数回繰り返されている。
俺たちと一緒に来た兵は元気だけど、これから帰る兵は二か月ほぼ休みなしで職務を全うしていた。目から光が消えかけている。
これが戦場か。
その時高さ二十メートルの壁の上から一つの塊が落ちてきた。いや、人だ。
土煙をあげて着地したのは二メートルほどの大男。王様やクファと同じ髪の色だ。いや、少し赤みがかっててるか。
男は立ち上がり仁王立ちをした。心なしか実際の身長より大きいような気がするぞ…。威圧感すごい。
「勤めご苦労!荷を置き次第、引継ぎを行え!!と言っても四月前とさほど変わらぬがな!!!ははは!!!」
豪快。その一言に尽きる。そこらの兵士とは比べものにならないほどに格が違う。
王族は進行が始まって以来、ほとんど砦に常駐している。戻るとするなら数日程度だ。にもかかわらずこの元気さ。
王族は兵の前に立ち士気を高める者というのが王様の、この国の考えだ。強いというだけじゃ務まらない。この人を見るとそんな気がしてくる。
「む?な、クファではないか!!なぜここにいる!?」
「お久しぶりです。叔父上」
やっぱり王族か。叔父上ってことは王様の兄弟だよな…確かに面影は……ある、か。
「父上より言伝を。”旅の者に助力を依頼した。二人とも信用のおける者だ”」
「……それだけか?」
「聞くより見る方が早いとのことで。私もそう思います」
書面にできればよかったんだけど石板持ち歩くより言伝の方がいいからこうなった。
さて、ここからはリーアに任せる。俺は深くフードを被っていろいろ遮ることにしよう。日差しもきついし。ちなみにリーアには”日焼けを抑制する魔法”をかけてある。完全に遮ったら病人みたいになるからな、程よく抑制だ。
「早速紹介しましょう。メリーアベル師匠と先生です」
「よろしく頼む。怪物は私の得意分野だ」
「あ、ああ。俺はツェタンだ……大丈夫なのか?こんなちびっ子が助力したとて戦況が変わるとは思わぬが」
ちびっ子っていうのは…大丈夫か顔色変わってない。何考えているかわからないのまま顔だ。
「大丈夫です。この侵攻も今日で終わると思いますよ。…殲滅であれば今すぐにでも……」
クファの顔から急に血の気が引いた。昨日のあれ見たらこうなるわな。
しかし、ツェタンさんはため息をついてクファの言葉を一蹴した。
「お前はこの戦場を直接視ていないからそう言えるのだ。先に上がって見ておけ。そのような考えも消え失せる」
そう言い残して引継ぎの兵士のを手伝いに行った。思ったより優しいな王族。
俺たちは一人の兵士に案内されながら砦の内部に入り上部にでた。
「これが戦場…ですか」
「数百…細かいのを数えると数千はいるな」
砦から戦場を見渡すと視界いっぱいにモンスターの群れが押し寄せていた。
これは地面も揺れるはずだ。砦にぶつかるモンスターもいる。でもびくともしてないな…魔法か?
「さすがに師匠でも厳しいですか?」
「いや?細かいのはとり逃がしてしまうかもしれんが大方は殲滅できるだろう」
ま、楽勝だろうな。
リーアが放てる最大の魔術は村で使ったときの数十倍の威力のものになっている。
魔術披露で使った魔術は本気…ではあったもののまだ確立したてのものだ。得意な”アレ”であれば造作もない。
それにまだ広域殲滅用に作った大きいほうの杖を使っていない。
しばらくしてツェタンさんが上がってきた。
「どうだ。考えが改まったであろう」
「いや、逆に余裕ができた。さっさと兵を引かせろ。巻き込まれたい奴はそのままでいいが」
「は?」
もう見飽きてきたなこういう顔…。リーアは規格外だから仕方ないんだけどさ。
「この量の殲滅は全兵力をもってして一週間はかかるのだぞ……。戯言を言っていないで現状を聞け」
現状聞くのは当たり前か。急にやったら他の兵士も混乱するだろうし。
「う…早まったか…」
ぼそりとリーアの口から漏れ出した。魔術を使うとなると急に思考回路が退行するからな…リーアは。
「まずは司令部に連れていく。クファのことはそこで聞かせてもらうぞ」
「は、はい」
流石にこの気迫にすごまれたらクファも縮こまる。まあこれは心配からくるものなんだろう。受け入れなさい。クファ。
俺たちは砦の内部へと戻り、おそらく中心部にある指令室まで足を進ませた。
「クファ!?なぜここにいる!!?」
中には王族の証である冠を付けた人が三人ほど待機していた。
「お久しぶりです、クレア姉上」
クレアと呼ばれたクファの姉は長髪にクファより少し薄い色の髪に碧目をしている。
仰々しい装備から除く腹は日に焼けていた。
それにしても王族が付けてる装備この時代に似使わない物ばかり……迷宮産か。
「二宮から出ても大丈夫なのか!?」
「体はどうだ?体調は!?」
クレアを押しのけて同じ顔を二人がクファに近づく。たぶん双子だな。
「アクェン兄上、アツェン兄上もお元気そうで何よりです」
ピンクがかった髪に青と赤の左右非対称のオッドアイ。
装備も多分対になってる奴だな。色は違うけど装飾とかほとんど一緒だ。
三人とも俺より若い。王様が四十代なんだから当たり前か。いや…一番上は俺と同じくらいでもおかしくないか。この時代は十代前半でも子供持つこと全然あるし。
「再開の挨拶はそこまでだ。話がある」
三人はクファから離れツェタンさんに向き直った。
「助人がきた陛下からの紹介だ」
「メリーアベルだ。こちらは私の先生」
お辞儀は…しなくていいか。王様の時跪けってのはあったけど今回はこっちが助力する側だからな。
「小さいな…大丈夫なのか?」
「ああ確かに。まだ子供じゃないか」
「クファよりも歳は下だろう?」
…顔は見えないけどリーアから変なオーラを感じる……大丈夫だよな?
「これでも貴様らよりは腕が立つ…なんならここで証明してやろうか」
あ、キレてる。流石に言われ過ぎたらこうなるか…リーアは立派な女性だしクファより歳は上だぞ!
「師匠落ち着いてください!!流石にここであれをされては!!」
「冗談だ。落ち着け」
半分以上本気だったろ…。最近わかり始めたけどリーアはわりと短気だ。
アイタっ…だからその杖結構頑丈なんだって…。
「師匠の強さは父上のお墨付きです。あと…それから私も…」
「なら大丈夫だな」
「「心配いらないね」」
この兄弟クファに対して全肯定らしい。こっちが心配になってきた。
「はあ、まったく…お前たち兄弟は…」
クファみたいな境遇だと王様からの愛情を独り占めにされて嫉妬の嵐が吹き荒れてそうだったんだけど…こいつら年も近そうだし。
現実は甘々デレデレだった。王様より過保護かもしれない。
「それで?メリーアベルとやらはその杖で戦うのか?先生とやらを小突いていたし杖術使いか」
「いえ、師匠は魔術師…魔法使いのようなものです」
魔法使いよりも優れている…って言いたげだけど何とか堪えている。
さっきやりすぎそうだったからな。変にいざこざを起こすのはよくない。自制できて偉いぞ。
この場はクファに任せた方がよさそうだな。なんでも信じ込みそうだし。リーアもそういう考えだろ。
リーアは小さく頷いて応えてくれた。
「魔術師?それが何かは知らないがクファが言うなら早速見せてもらおうじゃないか。上に行くぞ」
クレアは誰の意見も求めることなく部屋を出ていく。
「クファ、私の魔力にも限りがある。一撃で決めたい。話をつけろ」
「わかりました。お願いしてみます」
嘘おっしゃい。ギリギリまで込めても休めば十分くらいで元通りでしょうが。
「あれに最大威力の魔術を打ち込むのはロマンというものだ。これ以上の機会は滅多にこないだろう。いいじゃないか」
皆先に行ったからってボソッというなよ…。わかるけどさ。大量殺戮の快感に目覚めるのはやめてくれよ?
「そうなったならお前が止めてくれ」
それだけ言ってリーアはスキップで皆のほうに向かっていった。
ちゃんと言い聞かせないと…。
クファがお願いしてからはとんでもない速さで場が動いた。
どうやら兄弟全員クファに甘いらしく、ものの一時間足らずで全兵を砦の中へ避難させることができた。
俺は避難が完了するまで砦にモンスターが近づかないように”モンスターを遠ざける魔法”を使って援護した。この砦は横に数キロの長さがある。余すことなく掛けたら数十万魔力を持ってかれた。
使うのやめたら元通りになったけど。
「さあ、舞台は整えたぞ!魔術師とやらの力を見せてくれ!」
今この場にはクファの兄弟が十二人全員揃っている。リーアの魔術を見に来た――ではなくクファに会いに来たの方が正しい気がする。皆クファのそばにいるし。
さて。遂にリーアの晴れ舞台だ。こうなったら思う存分撃っちまえ。
緊張していないか見てみると大きいほうの杖を握りしめてだらしない笑顔を浮かべていた。
大丈夫だなこりゃ。
「見ていてくれ」
ぼそりとつぶやいたその声は多分俺にだけ聞こえていた。…気のせいでなかったら嬉しいな。
「では、いくぞ」
リーアは空に向け杖を掲げた。
快晴だった空が黒雲に覆われていく。瞬く間にあたり一面に雨が降り始めた。
「雨…か?…まさかこの子が…?」
皆上を向いている。クファにしか興味がなさそうだった兄弟たちもこれには驚きを隠せないみたいだ。
雨はどんどん強くなり、暴風がモンスターの群れに向かって吹き始めた。
多くの兵はヘリにしがみつき耐えている。
雲の中では紫色の雷が走っている。それが鳴らす轟音に怯える者も少なからずいる。
そして一瞬の間に静寂が訪れる。雨は止み、吹き荒れていた暴風は静まり、雷は身を潜めた。
「”神をも屠りし雷”」
リーアが呟いた刹那、熱風が肌を駆け、視界は白以外の色を認識できず、耳鳴りと体がしびれる感覚だけが世のすべてとなった。
俺は知ってたから対策してたけど――。リーアを信じなかった砦の連中が悪い。周りにいた連中は余すことなく倒れている。ツェタンさんはさっきのポーズを保ったまま後ろに倒れていた。
超級、絶級の上。複合極致級魔術。「神をも屠りし雷」今リーアが扱う中で一番威力と範囲が大きい魔術だ。……俺の名前使った理由は聞いてない。でも多分思い入れがあるからなんだろう。ちょっと嬉しい。恥ずかしさもあるけど…。
「どうだった?」
リーアは自慢気に俺の方へ駆け寄ってきた。まるでピアノの発表会を終えた子供のように。
「どうもこうもこんな魔術起こせるのはリーアだけだろ。魔法使いであってもこれを超えるのは無理だ」
ってだけじゃまた杖で殴られる。
「成長したな」
&頭を撫でまわしておこう。
うん、正解だ。満足そうに受け入れてくれている。
「凄いな~偉いぞ~」
「それは気持ちがこもっていない」
アイタっバレた。
「しっかし、大きいほう使うとここまでなるんだな」
俺は視界の先には落雷の中心から数百メートルに渡りガラス化している地面がある。
肌で感じるくらい気温が上がるほどあの中心では高温の爆発が起こっていたらしい。
「ああ、私も驚いている。お前が対策してくれていなければ自分の魔術で気絶するところだった。自身で対策できるようになるまでこれは封印だな」
リーアが雷の魔術が好きなのは派手だからってのと俺の知識を見て強そうと思ったかららしい。
普通に水とか風とかにしてほしかった…雷とか危なすぎる。
そのあと砦のみんなは数十分して少しずつ回復していった。
皆リーアに恐怖心を覚えてしまったみたいだ。国の英雄ぞ?称えたまえよ。
数時間後、リーアは道案内のツェタンさんを引き連れて怪物討伐へと向かった。
片道一週間…いやリーアが本気を出したら二日でつく距離だ。ツェタンさんもその速さについていける魔法使いだから最短で四日――もか……。
話し合いで決めた通り俺はお留守番だ。ほんとは心配だし付いていきたいけどリーアの意思は尊重しなければならない。
……お守り持たせてるし何とかなるだろ。
俺は生徒の無事を祈り待つ先生を演じるために砦の上からリーアの向かった方をじっと見つめることにした。
別に他の兵士と顔を合わせるのが嫌な訳じゃない。
嘘ですごめんなさい。




