第22話「二人」
前回までのあらすじ
王様との対話が終わって部屋に戻るとリーアがクファに膝枕をしていた。
「ああ、戻ったか。あのあとしばらく落ち着かなくてな。お前の知識にあったこれを試してみたのだ。気に入ったようですぐに寝息を立て始めた」
…。さいですか。
いいし。別にいいし。そんなこと気にしないし。嫉妬なんかしないし。
「クファに伝えたいことあったんだけど…その様子じゃ無理だな。俺は部屋に帰る……」
「おい待て、その前にこれをどうにかしてくれ。足がしびれて動けない」
っち。なんかクファの事なんかどうでもよくなってきたぜ。…冗談だけど。二割くらい。
クファの頭をゆっくり持ち上げて代わりに即席クッションを挟んでおいた。
起こさずに済んだ。よっぽど心に来たんだな。気持ちはわかる。が許さん。
「はあ、感謝する。硬い地面でするものではないな…」
「当たり前だろ。普通に足悪くするぞ。ほら立てるか?」
足をさするリーアに手を差し伸べる。それをしないほどひどい男じゃない。じゃない。
が、リーアはその手を掴まなかった。その代わりに両手を俺に向ける。
「無理だ。おぶってくれ」
「仕方ないなあ…ほれ」
役得。ってことで手打ちだぞクファ。一週間は恨もうと思ったが二日で許してやる。
背負ったリーアは前とそんなに変わらなかった。…いや、ちょっと大きくなったか?
「すけべ」
「すんません」
確かな感触を感じながら俺たちは部屋に戻った。
「よっこらせ」
「助かった。もう少し早く戻って来てほしかったのだが…」
「そらすまん」
いいじゃないか……。お楽しみだったんだから。
「はあ…とりあえず大きめの弾力があるクッションを出してくれ。できれば人一人寝ころべるような」
「朝には消すからな?」
「わかっている――おわ!!」
加減をミスって二メートル四方のクッションが生成された。あと少しでリーアが下敷きになるところだった。危ない危ない。
「すまん」
「まったく…」
帰ってきて二度目のため息をつきリーアは足を延ばして端の方に座った。
「何でそんな端っこ座るんだ?せっかくデカいのに寝ころべばいいだろ」
「これでいいんだ。ほれ来い、正座ではないが別に悪くはないだろう」
「へ?」
リーアは自分の太ももをぺしぺし叩いている。
ま、まさか…。
「しびれてるんだろ?いいって」
「少しの間なら構わない。それに痛いのは脛と甲だ」
「な、なら。お言葉に甘えて…」
もしかして大きめのクッション欲しいって言ったのこのためか…?
恐る恐る頭をリーアの太ももに乗せた。…ずっと憧れてはいたけど、いざとなると恥ずかしすぎる…。
「重くないか」
「人一人分の頭で重いと言っていたら旅などできないだろう」
確かに…?あ、でも言われてみればちょっと筋肉付いてるかも。柔らかいのに変わりはないけど。
「あ、あまり動くなくすぐったい」
「す、すまん」
やべえ。顔あっつ。
「鼻息荒いぞ?膝にあたるのだが」
「う…」
「何なら上を向けばいい」
それは無理です。合わせられる顔がありません。
リーアがどんな顔してるか気になるけど、きっといつものいたずら顔だ。絶対俺の反応みて楽しんでる。
「まあ、いい。で?王はどうだった」
「あ、ああ。俺が思ったのとは全然違ったよ。わかってたんだよな?」
「大筋だけだがな」
こころが読めるリーアにとってこのくらいの事情は楽に対処できる。解決するか、逃げるかはおいておいてだけど。
「きちんと話すようにだけ伝えといた。これでいいだろ……多分」
「そう思おう」
いいように使われている。なんて思わない。ま、今回は手のひらで踊ってる感はあったけど。
「あとは明日どう動くか決めよう。たぶんリーアの思った通りになるだろうけど」
「そこまで言われるほど私は優れていないぞ」
「俺からしたら十分すぎるくらいだけどな」
俺もそれくらいの回る頭が欲しかったよ。
「そろそろどくよ」
これ以上はリーアの足に負担をかけてしまうかもしれないからな。
俺は名残惜しく頭を持ち上げた。がリーアの手によってふたたび柔らかい感触に包まれた。
「まだいいぞ。もう少しだけ堪能させてやろう」
「はは、堪能てなんだよ…」
確かに名残惜しくはあったけど…さ。
「なんだ。てっきりお前はふとももが好きなんだと思っていたがな。違ったのか?それとも私では不服か」
「滅相もございません!てかなんで気づいた?」
もしかして視線…?いやそんな風に見たことないぞ。
それにリーアはずっとズボンをはいている!
「私に隠し事ができると思うな。お前の好みは全て把握されていると思え」
何それ脅迫?人質?
「…あんまり読まないほうがいいぞ。面白くもないだろ」
「深く読み取るつもりはない。ただ…ほんの少しだけ踏み込んだ。すまない」
多分あのことだよな…。
「だからあの時わかってるって言ったのか」
「…すまない。断片を見てしまったとき、どうしても知りたいと思ってしまった」
好奇心…ってわけじゃなさそうだな。偶然だったんだろう。
「お前は滅多に自分の話をしない。お前が考えているのは人のことばかりだ。だから、それが何故なのか気になった」
リーアが生きてきた中で見てきた人間は今まで村の人間だけだった。
そいつらは自分優位でしかなかったし、リーアのことなんて顧みなかっただろう。唯一の善心である母親は記憶の遥か彼方。父親に関しては存在すらあやふやだ。
だから自分に優しくしてくれる俺が何を考えているのか知りたくなったんだ。
「それで見過ぎたってわけか。別に俺がリーアに優しくするのは下心があった訳じゃないし、普通にしたいことだからだよ」
「それは…わかっている」
「ならそれでいいじゃないか。俺が自分のことを話さないのはこの世界で人生をやり直したいからだよ。別に嫌で話したくなかったわけじゃない」
記憶を掘り返されるのは嫌だ。
けどそれがリーアなら別にいいし気にしない。でもあんなのを視て悲しんで欲しくはなかった。
顔は見えないけど、その声が涙を含んでいることだけはわかる。
「聞きたいなら話すぞ?」
「いや、いい。すまない。嫌な思いをさせてしまった」
「謝んなくていい。ただ側にいてくれるだけで、それだけでいい」
「わかった。ではそうさせてもらう」
これは我儘なのかもしれない。それでもリーアが良いというのならそうして欲しい。
今俺が一番に願うことだ。
「そろそろどくか?」
「もう少しこのままでいろ」
「贖罪のつもりなら受け入れないぞ」
「私がしていたいだけだ。眠りたいなら眠るといい」
ではお言葉に甘えさせてもらおう。またいつやってくれるかわからない。もしかしたらこれが最後の可能性もある。心行くまで堪能させてもらおう。
…できることならすりすりしたい。
「ダメだ」
「すみません」
ピンポイントに…。
「てかリーアの魔眼また変化した?心を読むってだけじゃなくなってるだろ」
最初は言葉の真偽がわかるだけだった。
次は鑑定とまではいかなくても文字で情報を読み取ることができるようになった。
そして魔素の流れ、リアルタイムの心の声を聞く。その裏で考えていることも読み取れるようになった。
俺の見たちょっとした景色を見ることもできるって言ってたか。
でも今回のはかなり深くまで、それに過去。俺の記憶まで読み取ってる。……性癖すらも。
「ああ、なんといえばいいか…記憶を辿るといったところか。だがそれはお前にしか適用されないみたいだ。なぜかはわからん」
「全部筒抜けは俺だけってことね…」
なんだよ。俺のセキュリティーガバガバすぎんだろ。完全にフリーパス状態じゃねえか。
もしリーアと同じような魔眼持ってる奴に会ったらって考えると寒気がする…。
「…あんまりエッチなのは見ちゃだめだぞ」
「…全部見たと言ったら」
「死んでいい?」
「ダメだ」
あれもこれも見られたのか…いや、でもあんまり引いてる様子ないし大丈夫か。
性知識歪まなければいいけど…。
「心配するな深くは追及しない」
「そう言われるのが一番怖い」
「ではそうだな――」
俺はとっさに顔を上に向けリーアの口を手で塞いだ。
自分の性癖を誰かに言われるのは流石にダメだ。恥ずか死ぬ。
「おうあんあ、はあせ」
「ほんっとーにやめてください。お願いします」
このいたずらっ子め。したり顔で笑ってやがる。…ちょっと目の下赤い…か…みなかったことにしよう。
「仕方ない。では代わりにそのまま上を向いていろ」
「わかったよ…これくらいの辱めは甘んじて受けようではないか」
…こう見るとおっきくなったな。どこがとは言わないが。
なんて考えると俺の目にリーアの二本の人差し指が動くと刺さるくらいに近づけられた。
「私の指をご所望か?」
「いえ。目には結構です」
危なかった。リーアに対しては防御力普通の人間だ。えぐり取られるところだった…。
「ならば詫びに髪を触らせろ」
「いいけど…それって楽しいか?」
そういうシチュエーションは飽きるほど見たけど。訂正飽きてはない。
「触り心地はいいぞ…なぜ目を閉じる」
「そりゃ目の行き場に困るからだよ」
開きっぱなしだと再び指が飛んできかねない。
「そうか。ならば一生閉じておけ…いやダメだな。お前の目には私の成長を見るという義務がある」
「ははは、どんな義務だよ」
散髪の時も思ったけど人に髪触られるのって気持ちいいな。リーアだからか?
…いじりすぎると禿げるっていうけど……いや、今の体なら大丈夫だな。
「髪、伸びてきたな」
「そういえば最後に切ったの半年くらい前か?そろそろ切ろうかな」
今回もリーアに任せるか…。練習は大事だ。
「リーアもそこそこ伸びてきてるよな。どうする?切るか?」
「お前は長いほうが好みだろう。手入れはめんどくさ…いや、この世界には魔術があるから関係ないな。一応腰まで伸ばす予定だ。それまでは梳くだけでいい」
確かに俺はロングが好みだが…それは二次元の中であって……いやリーアは例外だ。カワイイし。早く見たい。
「今のままでも好きなようだがな」
「自意識過剰はよくないぞ」
「そうか。なら切ろう」
「すみませんでした。失言でした。伸ばしてください、お願いします」
「ははは」
…流石に自分でも引いてしまう勢いだったけど、ま、笑ってくれたならいいか。
「…お前の容姿は記憶とは違っているな。これも願いの神とやらに頼んだのか?」
「いや、これは神様が勝手に…前の方がいいか?変えられるか試すけど」
「お前の好きな方でいい。どちらであってもお前はお前だ」
「ならこのままで」
最初にリーアに会ったのがこの身体だ。だからこっちがいい。…別に前のが悪かったわけじゃない…ぞ?多分。
「なあ、クリオラ」
「なんだ?」
「…いや、なんでもない」
その間……これは見たことがある。
”好きと言いかけて言えなかった乙女の間”だ!!命名は俺。おそらく。
「お前は本当に単純だな」
「だったら正解か?」
「気になるなら私の心を読んでみろ」
選ばれしものの言い返しだ。様になるじゃないか。
「ああ、それと残念ながら不正解だ。…いずれ否応にでも知るときが来る」
「そっか。それまで楽しみにしておくよ」
なんだか不安になる言い方だな……まさかホントは俺の事早く消えて欲しいとか思ってるんじゃ…。
「そんなこと思っていない。私を離さぬうちは側にいてやる」
「なんだよプロポーズみたいなこと言って。てかずっと心読むのやめろよな。恥ずかしい」
「嫌だ。今日はお前が寝るまで読み続けてやる」
恐ろしい娘だ事。であるならばであるならば、無心無心。
「おやおや、雑念が混じっているぞ。修行が足らんな」
「なんの修行だよ」
楽しいな。こうやってくだらないこと言い合って過ごす時間が俺は一番好きだ。
ま、心読んでたならわかってるよな。
「いや、言葉にしなくては伝わらないこともある」
「意地悪し過ぎでは?」
リーアは押し黙ってしまった。さっきまで頭にあった感触もなくなっている。
しょうがねえなあ。
今日のリーアはどこかおかしいけど聞きたいなら言ってやる。
恥ずかしがっても知らんからな。
その顔をも拝んでやる。
俺は目を開け暗がりに浮かぶリーアの顔をみる。見えないとでも思ったか残念暗視の権能を創れば丸見えだ。
さあ!初めての表情見せてもらうぞ!
「す――」
「好きだぞ。クリオラ。お前がいなければ今の私はない。あの腐り切った環境から連れ出してくれたお前は私の英雄だった。それだけではない。
私はお前の優しさが好きだ。
何かやらかしても笑って許してくれるお前が好きだ。
私の話を真面目に聞いてくれるお前が好きだ。
間違えばちゃんと叱ってくれるお前が好きだ。
私はな、お前への気持ちがわからなかった。お前が私に抱いている気持ちが何なのかわからなかった。だがこの眼をへてお前の記憶読みとりいろいろなことを知った結果、答えにたどり着いた。
私の抱いたこの感情は”恋”であると同時に”愛”であると――
だからな。クリオラ。
私はお前を愛している。離してなどやるものか」
多分今俺の顔は真っ赤だ。火を噴いていると言っても過言ではないはずだ。
勘弁してくれ…。
「いいや、お前の答えを聞くまで今日は寝かさない」
答えなんて分かり切ってるだろ…自分でも言ってたじゃないか…でもそれだと言葉にしないとダメだっていうんだろ?
俺も男だ。流石に覚悟を決めろ。
「答える前にその手をどけてちゃんと目を合わせろ。出会ったばかりのころとは違うだろう?今はできるはずだぞ?」
「わかったよ…」
俺はリーアのプロポーズまがいの告白――じゃない、告白まがいのプロポーズの途中で腕で顔を覆ってしまっていた。
仕方ないだろ。不意打ちだし。恥ずかしいこと延々と言われるし…嫌なわけじゃないけど。むしろ嬉しい。
腕を外して目を開けるとリーアが優しい顔で俺のことを見ていた。
恥ずかしくて頭を別方向に動かそうとしたらリーアは体勢を変えて太ももで俺の顔挟み固定してきた。
「言わないなら今からクファの部屋に――」
「わかったからそんなこと言わないで……あと太ももの締め付け緩めて…極楽ではあるけど潰れた顔だと閉まりない…もう逃げないから」
リーアは力を弱めて俺の両眼を見た。俺もそれを返す。
目をそらしたくなるけどそれはもやめだ。
「いうぞ」
「聞いている」
「リーア好きだ。愛している」
「…それだけか?」
「今はこれが限界です」
さっき言おうとしたのこれだけだし…。
「まあ仕方ない。今のお前の頭の中は私のプロポーズで混乱しているからな。今日のところはそれで許してやろう」
「不甲斐ない…」
「構わない。そういうところも愛してやる」
なんて男前なんでしょう。好きになっちゃう。
ああ、もう好きなんだった。
「いい気分だ。クファに膝枕してやった甲斐があった」
「確信犯かよ…」
「どうとでも言え。心を読むのはここまでだ。あとは勝手に思うなり考えるなり妄想するなり勝手にしてくれ」
「ありがとうございます……」
リーアは寝間着に着替えるために俺から離れていく。
はあ、全く…いつから、どこからこんなこと考えていたんだか…。
王様は上に立てっていったけど、無理だろ普通に。リーアに勝てるやつなんていないぞ。
しかし、あの裸を見られても全く動じなかったリーアがねえ…。
…あの頃は欲情しないって思ってたっけ…。
いや、もう無理だろ!しっかり栄養を取り始めてみるみる成長しだしたんだから!背はあんまりだけど…。
でも特段大きくなくてもあるんだもの。しっかり手でつかめそうなほどに!!背中でしか感じたことないけど!!!
それにもう十八だぞ!?意識し始めてからもずっと一緒に寝てるのに我慢してるの偉すぎるだろ!?
でも今日でちゃんと気持ちは確認できた。なら――
「ああ、エッチなのは落ち着いてからだ」
「読んだ?」
「目の前で着替える私も悪いがさすがに目線でわかる」
ぐうふ……。性知識も履修済みっと。……俺の知識でか?
我慢できんことはない。こちとら経験人数ゼロだぞ。襲える度胸がどこにある。
……はち切れるなよ。俺の息子。
「はあ…おやすみ」
「おやすみ」
その夜俺は背中に柔らかいものを感じながら眠った。
畜生…畜生!!!!
翌日は予想通り睡眠不足。
心配されたが魔術披露を中止するわけにはいかない。クファのこれからがかかってるからな。
ああ、あと君のことはもう何も感じてない。よかったな。
魔術披露は大成功だ。王様もクファも固まって動かなくなるほどにいい結果を残せた。
よくなかったと言えば俺の頭が冴えていないのをいいことにリーアが本気を出してしまったことだ。
国中大パニック。静まるまで何日かかるかなんてわからない。
思い切り頭をはたいてしまった。頭をはたくのは危ないから次はお尻にしよう。と考えたら杖でケツを指された。小学生かよ……
色々ゴタゴタはあったけどその次の日俺たちは砦へと向かった。
……過眠症だったころが懐かしく感じた。




