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第19話「王子」

 王様との会食が終わって俺たちは与えられた部屋に戻ってきていた。


「なぁリーア…本気か?」

「ああ、私の実力がどこまで通用するのか試しておきたい。モンスターを生み出す女…相手に不足はないだろう?」


 旅の途中もモンスターの処理はほとんどリーアにやらせてた。リーアがやりたいといったからだ。


「まあ、いいけどさ。危なくなったら手出すからな?」

「それでいい」


 リーアは自分の杖を楽しそうに磨いている。新しく考えた魔術を試したくてうずうずしてるんだろう。


「でも、相手は人間かもしれないんだぞ?」


 モンスターは数え切れないほど討伐していると言っても人間となるとまた別だろうし。


「それがどうした?何の問題がある。敵は敵だろう」

「あ、ああ…」


 悪は罰せよ。まだ法律なんてないんだからこういうとこ躊躇ないんだ。

 俺みたいな現代人とは違って、人を殺すこともモンスターを殺すことも同じようなことなんだろう。

 だからと言って誰も彼もというわけではない。現に村の時は誰も殺してないし、俺が言わずとも魔術を止めていた。

 悪逆非道にならないようにだけ言い聞かせよう。


「モンスターを生み出す怪物か…もしかしたらお前の知り合いかもしれないぞ?」

「んなわけあるか」

「はは、この世界に来て初めて会ったのが私だものな」


 なんか気が抜けた。

 この現代社会から抜け出してこの世界に来てからどんどん常識が通用しなくなってきた。

 適応すべきか、それとも貫くべきか…自分の精神が歪まないようにだけ気をつけないと。


「作戦開始まで三日。侵攻を防いでいる砦まで二日。戦闘が始まるまで実質五日だな」

「それから女のいる海村まで一週間。それだけあればモンスターの殲滅を終えた後でも魔力は十分回復しているな。今すぐにでも行きたいくらいだ」

「落ち着きなさい」


 この国の周りにある壁が直接侵攻を受け止めているというわけではなかった。

 モンスターの出現する方向にこれより堅固な砦が建てられているらしい。今造っているは万が一に備えての物らしい。


「それにしても海か…この世界に来て初めての海産物が食べられるかもしれないな」

「海…水の魔導でみたあれか?」

「そんな感じ。近くで見るっていうか体で感じると驚くぞ」

「それは楽しみだな!」


 リーアにとって初めて見る景色だ。興奮するだろうな。

 海に入ってはしゃぐリーアの笑顔が目に浮かぶ。


「さて、今日はもう寝よう。体奇麗にするからじっとしろよ」


 一日の終わりは身体を奇麗にして服を着替える。旅の最中も欠かしたことはない。

 できるだけ清潔に。病気もケガもしないように徹底しなければ。



 次の日俺たちは王様に勧められて兵の訓練を見ることになった。

 と言っても魔法使いは全員砦の方に出払っている。俺たちが見ているのは武器を使った戦士の訓練だ。


「弱いな」

「ああ、マルティノスってちょっと強かったんだな」


 兵士の平均体力は650くらい、その他もマルティノスより少し低い。

 三人は少し高い人がいる。たぶん訓練長か何かだ。


「主戦力は砦の方って考えたほうがいいか」

「武器持ちの練度は私たちではわからないからな」


 ステータスだけじゃわからないこともある。信用しすぎないようにしないと。リーアに危険があったら堪ったもんじゃない。


「あれ?あの端っこにいる人…」


 訓練している兵士たちから少し離れた通路に近いところで一人剣を振っている少年がいた。


「昨日部屋に来た王子だな。剣の稽古をしていると言っていたが…」

「離れすぎてる。訓練に参加してるってわけじゃなさそうだな」


 兵士の誰もクファのことを見ていない。見てるのはそば付きらしき女性だけだ。

 汗を流して一生懸命素振りをしているものの…。


「あれじゃ剣士に憧れる子供だ」

「なぜ誰も見ないのか…何か訳がありそうだな」


 何かしたげな様子だな…でもこれは荷が重い。止めておくか。


「人様の事情に首を突っ込むのはよくないぞ」

「そういうものか?」

「そういうもんだ」


 好奇心が旺盛なのはいいことだけど。流石に他人のことを根掘り葉掘り調べるのはかなり礼儀知らずだ。人として良くない。

 まあ、ステータスをのぞき見している俺が言えたことじゃないけど。


「しかし王様が魔法使いである私たちに兵士たちの訓練をみるように仕向けた理由があるはずだぞ。お前はどう思う。私は王子のことだと睨んでいるが」

「ああ、確かに…。俺はただの暇つぶしだと思ってたけど……思いたかったんだけど…違うよな?」

「戦場に行くまであと二日だぞ。そんなことしている暇があるか」


 言葉も出ません。

 であるならば。王様が王子の稽古を見せるのが目的だとするならその理由は何だ?


「理由を探るために一度話しかける必要があるそうだな。お前は部屋に戻っていてもいいぞ」

「仕方ない、失礼がないようについていくよ…」


 話しかける口実を無理やり作ったってわけじゃなさそうだしな…。真偽はどうあれ、その線もあるかもしれないと思ってしまった。

 でも荷が重いのは変わらないんだよな…。

 あの王様、下手に出ていると思ってたけどとんだ食わせもんだったらしい。いいように使われてる気がしてきた。


「あ、ケルス様!」


 クファは俺たちが近づくと手を止め、大きく手を振った。


「えっと、そちらの女の子は…あ、もしかしてメリーアベル様ですか?」

「いかにも。メリーと呼べ」


 クファに対しても態度は変えずか…。リーアがちゃんとした態度とる相手どんな人か気になるな。


「お話は父上から聞いています。お二人とも魔法使いであるとか。父上が自分より強いと言われるのはあなた方が初めてですよ」

「当たり前だな!」


 自信満々だ。そりゃ一国の主より強いとなるとこうもなるか。

 魔術関連を除いたステータスだけで見たらペンダントを外したリーアより少し下って感じだ。

 ペンダントつけたら一捻りだろうけど…我ながらとんでもない物を作ってしまった。


「そんなことより、なぜお前は一人で訓練している。他の兵に混ざらんのか?」


 それを聞いてクファは剣を握りしめ苦笑いを浮かべた。


「父上から兵と共にするなと言われているんです。兵もそのように命令を受けています」


 この時代で16と言ったら立派な大人のはず、それにクファは男児だ。戦場に出ていてもおかしくない…でも訓練を規制されてるってことは何かあるな。

 いや、俺は首を突っ込まないぞ。


「それはなぜだ?」

「戦場に出したくないんでしょうね。兄弟とは違って私は魔法が使えませんから」


 ああ…そういう事ね。大体わかった。


「お前だけか…嘘ではないようだな」

「こんな嘘なんてつきませんよ」


 クファはまた苦笑いを浮かべる。この顔しってる。いや、あの時は口元だけだったけど知っている。

 リーアと出会って間もないころだ。魔法を使いたいのに使えない。そんなどうしようもないときに見せた苦し紛れな顔だ。


「なるほど兄弟で一人だけ魔法使いは遺伝…母親はどうだ?」


 リーア…そうじゃないでしょう…。

 こんな時でも研究熱心なんだから。


「母も魔法使いです」

「そうか。お前は相当特殊なようだな。クリ――先生紙をくれ」


 いや、ダメだろ。


「すまん…そうだった。おい、お前この後時間はあるか?」

「え、あはい。この後は何も」

「では後ほど私たちの部屋に来い。そこの女は連れてくるな。行くぞ先生」


 自分の研究のことだけ考えてたわけじゃないみたいだ。

 魔法が使えないなら魔術を使えばいい。どうやらクファに教える気みたいだな。

 初めての弟子か。いや、まて被験者第一号って線もあるぞ…。

 なんにせよリーアが人のために動くのはこれが初めてだ。見守ろう。


 部屋についた俺はリーアに支持されるがまま、インベントリから資料を出している。弟子にするなら紙の存在を知ってもいいだろう。まあ見せたらもう話さないけど。

 しかし何かに気づいたリーアの手が止まった。


「この資料の文字、全て私とお前しかわからないんだった…」


 盲点。


「じゃあ、片付けるか?」

「いいや、図と絵をかいている部分だけ出してくれ。あとは口で説明する」

「なるほど」


 俺は魔術に関してほとんど何も知らない。

 教えるのは全部リーアに任せることになる。


「この際俺も魔術使えるようになってみようかな?」

「む…」


 それを聞いてまたリーアの手が止まった。

 顔を見ると唇を尖らせていた。


「別に構わないが…お前には魔法があるじゃないか」

「あ、ごめん」


 流石に無神経だった。これは言っちゃいけない。


「ダメというわけではない。でもお前まで魔術を使えるとなると私の立つ瀬がなくなる」


 そっちかい。全然カワイイ理由だった。


「まあ、知識程度にさ。思い出としてとっときたくて」


 リーアはいずれ死んでしまう。だったら少しでも濃い思い出を残しておきたい。紙だけじゃ足りない思いもあるはずだからな。


「…そうか。なら座って聞いているといい。一緒に研究しても覚えられなかったお前にできるとは思わないが」

「それは言っちゃいかんだろ…」


 仕方ないじゃないか。一緒に研究したと言ってもほとんど魔法を見せただけなんだから…。

 ちゃんと勉強したらできるし。…多分。


 しばらくしてクファが部屋にやってきた。


「すみません。汗を流していたので遅くなりました」


 まだ水分が髪から取り切れてない。王族と言っても吸水性の高いタオルはまだ普及してないみたいだ。

 乾かしてやるか。


「わ、わ何ですか!?」

「そう焦るな。先生に任せておけ」


 黙ってやられたらそうなるわな。でもすまない。まだ喋る勇気はない!


「これはすごいですね。魔法はこんなこともできるんですね」


 自分のさらさらになった髪を触て感心している。そうだろう?魔法はすごいんだぞ。


「それで、私はなぜ部屋に呼ばれたのでしょう?ジャーヒ…そば付きは置いて来ましたが…」


 不用心な…そこはめちゃくちゃ引き下がって部屋の外で待機くらいはするだろ。普通。

 はてさて王子をほっぽり出してどこでサボっているのやら。


「呼んだのは他でもない、魔法の使えないお前に魔術を教えるためだ」

「まじゅつ?…とは一体何でしょう?」



 そして人類史上初めての魔術の授業が始まった。

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