表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

第1話「夢と転移」

 眠りから覚めるとそこは森だった。

 いつもの暗い部屋じゃなくて天にある太陽が俺を照らしている。


「…夢か」


 こういう夢はよく見る。

 夢は現実世界で起こったことや記憶したことをもとに構築されると聞く。

 よく異世界モノを読んでいるからか、さっきの夢から続いてこれを見ているんだろう。


「涼しいな」


 クーラーとはまた違う涼しさ…。

 前を見れば湖があった。そのおかげだろうな。


「自然の匂い…もう随分感じてなかった…こんなだったけな~」


 ちゃんとは思い出せない。けど一度嗅いだことがあるから夢に反映されてるんだろう。


「リアルな夢。明晰夢ってやつか…」


 ここまで自由度の高い夢は久しぶりだ。

 ただ夢だというのに気持ちが落ち込んでいる。

 いつもはこうじゃない。夢を見ているときは気持ちが楽だ。

 現実に戻らなくていい。そう思えるから。

 だけど目が覚めると嫌でも体が、心が思い出して動かなくなる。

 今起こっているのはそれだ。


「てことは現実か……はは、なわけないよな」


 気分が持ち上がらない俺はもう一度目を閉じることにした。



 ――眠れない。

 

 普通なら、俺が知る異世界転移した人物なら真っ先に当たりを散策するはずだ。

 でも俺にはそんな気力がない。

 できるとしたら眩しい太陽から逃げるために木陰へ移動することくらいだ。

 それ以外はする気が起きない。


 それからしばらくたっても一向に夢から覚める気配がない。

 体感数時間は立っているはずだ。

 現に日が落ち始めている。


「これ、ほんとに転移したとか…」


 お腹も空かないし、汗もかかない。

 夢で見た神様に願った事が俺の体に起きている。


「…もう一回寝てみればわかるか」


 タイミングよく睡魔が訪れた。

 俺はそれに乗っかって目を閉じた――



 目が覚めるとそこはさっきと同じ森だった。周りは明るくなっている。

 朝だ。


「異世界転移…あれほんとに夢じゃなかったのか」


 自称神様と名乗っていたあの人は本当に神様だったみたいだ。


「お腹空いてない。地面に寝てたのに汚れひとつないし汗もかいてない」


 外にでたい。自然に触れたい。

 とは言ったけど森に放っておくか?普通。

 でも願いは叶ってる。

 丈夫な体…。

 俺は自分の方をつねってみた。


「イタヒ」


 痛みあり。

 血が出るかも確かめてみたいけど、これ以上の自傷は怖い。


「世界の一つをあげる…これがその世界ってことか?」


 家をあげるの規模がデカい版ってやつか。世界の半分を分けてやる――の全部版。

 神様は太っ腹なようだ。

 こんなちっぽけな存在に気をかけるとは…とんだお人好しなんだろうな、あの人。


「自由に生きろ…か。そういえば権能ってなんだ?」


 神様ができることなんだろうけど、どうやって確認すればいいんだ?

 異世界物のテンプレで言うとステータス――


「うわ!」


 ステータス。

 そう頭に思い浮かべただけで半透明のよくある画面が表示された。


「…完全に異世界じゃん」


 触って操作はできるけど行き過ぎると画面をすり抜けてしまう。


「ホログラム的な奴か?と、そんなことより…」


 ステータスだ。言葉に反応したんだったら見れるはず。


「えっと…」


 ホログラムには現在「ステータス・持ち物・図鑑」が縦に表示されている。


「ステータスに触って…いや思い浮かべただけで出てきたってことは…できた」


 操作は指でなくてもいいみたいだ。手が塞がっていても操作できるのはありがたい。


「どれどれ…なんだこれ」


 ステータス


体力 ――/――

魔力 7,999,998/80,000,000


攻 80,600 魔攻 80,600

防 ――     魔防 ――

俊 ――     運  ――

命中 ――    回避 ――%


権能<スキル> +



「何これ。表記されてないの多過ぎない?」


 3つしか詳細書かれてないんだけど。

 体力表記無し…これは多分「丈夫な体」ってことなんだろう。防御もそれで表記無しってことか?

 必要ないくらいに高いってことなら後の4つも同じく…運の表記無はちょっと怖いぞ。

 魔力は一桁の部分の増減早すぎておかしくなってるし。

 これ使う速度よりと回復するほうが早いときに起きるやつだろ。


「権能<スキル>?それにこの+ってあれだよな。表記するものが多すぎて省略されてるってことだよな…あ…。」


 俺は突然の眠気に襲われた。日中何をしていても途切れるように眠ってしまう。そういう病気だ。

 まだ気になることがたくさんあるのに…また目が覚めたら確認しよう。


 …起きるのが楽しみなんていつ以来だろう。ちょっとは前に進めているのかもしれない。

 俺は電池が切れたおもちゃの様に眠りについた――



 目が覚めたら日が傾いていた。


「暗いな…森は暗くなるの早いんだっけ?」


 そんなことよりステータスの続きだ。画面を出してステータスを表示する。


「…そういえばステータスって言って一覧の画面出てきてそこからステータス開くってなんだ?」


 二度手間だ完全に無駄なことしてる気がする。いったん画面を閉じてと。


「後なんだろ…そういえば持ち物って表記あったっけ。じゃあ…」


 <持ち物>を頭の中で浮かべるとまたさっきの一覧画面が表示された。

 もう一度消して次は図鑑を頭に浮かべる。

 同じく画面が表示された。


「全部同じか。じゃあ…」


 今度は<ステータス>画面を直接浮かべてみる。


「成功。思い浮かべる事で表示されるものが変わるってわけか」


 <持ち物>と<図鑑>も同じように表示された。

 どうやら俺の中の<ステータス>って概念がこんがらがってバグを起こしていたみたいだ。


「持ち物…インベントリだとどうなるんだろ」


 思い浮かべてみると<持ち物>の画面が表示された。


「ご丁寧に<持ち物>が<インベントリ>に変わってるし」


 うーん。じゃあ初期画面出すとしたら…「ウィンドウ」とかか?

 想像通り初期画面が表示された。


「言葉ってより意思に反応してるみたいだな…って、そんなことよりステータスだ」


 ステータスを開いて眠る前に見損なった権能の部分を見る。


「さて、どれだけ省略されてるのか…ぽちっとな」





権能<スキル> -


<権能創造>


<言語習得> <鑑定> <物質生成> <清潔>


<四元魔導> +  <魔法創造>


<不老不死> <終>



「あれ?これだけ?」


 省略されているにしては少なすぎる。というかそのまま表示した方がいいんじゃないか?


「四元魔道も省略…」





<四元魔導> -


<火魔導> <水魔導> <土魔導> <風魔導>





「これは表示しなくてもいいからって感じか」


 こういう整頓されている感じ好きだ。自分の部屋は片付けられなかったけど。


「つか魔導と魔法って何が違うんだ?」


 どっちも変わんないような気がするけど…この世界では何かが違うってことか。

 まあ異世界だもんな。俺にわかりやすく表記するとしたらこうなったってだけかもしれないし、全くの別物って考えとこう。


「いやいや、まてまて。権能創造ってなんだよ」


 +マークが気になって前の部分をすっ飛ばしてた。

 これ、お決まりのチートってやつか?いや、それ以前に体がチートだったわ。


「何創れるかはあとで試すか。それ以外は…」


 言語習得。これは嬉しい…けどはたして人と話せるんだろうか。もう何年も他人と話してないのに。

 それはあとからのんびり考えることにしよう。

 鑑定。ド定番だ。一度使ってみるか。画面出すのは思い浮かべるだけだったからこれも見ただけで…


「お、成功だ」


 石


「落ちてる石はなんかこんなもんだよな。珍しい物見つけたら使ってみるか。あとは…」


 物質生成。これも聞いたことある。錬金術とかと同じかな?

 …表記が「<物質生成> +」に変わった。+を押すと案の定、<錬金術>が追加されている。

 これ権能創り続けてたらカオスになりそう…。気をつけよう。


「何か作ってみるか。これも同じく思い浮かべるだけで…」


 手のひらの上に集中して石を作り出してみた。


「成功っと。それから錬金術っていえば物質の変換だよな。じゃあ…」


 念じると手のひらの石が木の枝に変わった。


「すご…」


 ただ対象以上の価値のものには変換されないみたいだ。


「錬金術…物質創造できるなら使わなくね?」


 そう思った瞬間錬金術の表記が消えた。


「…ほい」


 念じると手のひらの木の枝は石に変わった。錬金術の項目も追加だ。


「創造したものはいらないと思えば消せるってわけか」


 それから<清潔>これはもう実感してる。汗かかないのもこれのおかげっぽい。

 清潔って表記だし汗はかくけどかいたそばから消えてるって感じかな。

 それから…


「<不老不死>……」


 死にたくない。そう願った結果だろうな。

 歳をとれば病にもかかりやすい。だから不老も追加されてるって感じか。

 俺の願い以上に叶えてくれてんな神様。


「そして<終>…」


 これが死ぬスキルってやつか。

 たった一文字の癖になんて存在感出してんだよ。


 考えなかったと言えば嘘になる。

 衝動的に消えたくなった時もあった。

 でも自分でする勇気もなくてただどうにかなってくれと願っていた。


 でもここに来て、人生に絶望していた俺がちょっと生きたいと思えるようになった。

 夢の中だけじゃなくて現実の世界で。

 だから、だからさ。


「見たくないよお前なんて」


 そう思ったときにはその文字は消えていた。


 多分欲しいと感じたらまた出てくるんだろう。

 生き続けるってのはしんどいだろうし、人生に満足したら使うことにしよう。


 ただ今だけはその空欄を見るだけで嬉しくなった。

 せっかくの異世界だ。少しは楽しんでみよう。


「星めっちゃきれいだな…」


 世界はいつの間にか夜になっていた。

 空気は澄んで、街を照らす人口の光もないその空は満点の星で埋め尽くされている。


「ひろいなあ。世界ってのは」


 自然と涙がこみあげてくる。でもこれは嫌な涙じゃない。

 これはそうだな…。



 たぶん、自分は今生きているということを実感したからだと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ