第11話「勇者と真実の眼」
前回のあらすじ
外から男の声が聞こえてきた。
「出てこい!悪しき怪物!!!私が討伐してやろう」
成人していそうな男の声だ。
もちろん知らない。だってこの世界に来てあった人間はリーアだけだ。
というか悪しき怪物って…。
「…この声は」
「知り合い?」
「まあ…な。村によく来ていた腕の立つ旅人だ。外の話を聞かせてくれた」
旅人か…。腕が立つって聞くしほんとに怪物を倒しに来たんだなーって…。
「怪物って俺のことか…」
「そういえばそうだったな。普段の生活からかけ離れているから忘れていた」
リーアが来たのは贄としてだもんな。
「そういえば食べないのか?って聞いてきたっけ」
「あの時はそれしか思い浮かばなかったからな」
「あれから半年か~時間経つの結構早いな」
向こうの世界にいるときも一日一日早かったけど、今はまた違ったいい時間の進み方だ。
「出てこい!!ここにいるのはわかっている!!姿を現せ!!」
過去を振り返って浸っているというのに…。
最近作ったガラス窓から外をのぞくとそれらしい装備を身に纏った男が武器を構えて立っていた。あの装備…思っていた文明、時代と全然違う。それこそ中世ファンタジーに出てくるようなものだ。
「あいつ湖に向かって叫んでるよな」
「この家にいるとは思うまい。あれだけの魔法を扱うんだ、もっと巨大だと考えるのが妥当だ」
「確かに…今思ったんだけどさ」
リーアが来たのは魔導やら魔法を連発した後だ。
であるなら…。
「この間の氷塊のせいってことはない…よな?」
「いや、そのせいだな。あれは大きすぎた」
やっぱり…。いや待てよ。それ以前に二回目の魔導使ってるんだけど…もしかして気づいてなかったのか?
それとも恐れすぎてあの旅人が来て討伐してくれるのを待ったとかか。
…いや考えても仕方ないな。可能性が多すぎる。
今はあいつだ。
「また贄として人が送られてこなかったのは救いだな」
「…そうだな」
しかし、どうしたものか…。
「そういえば人間が怖いのだったか?私と話すのにも時間がかかったが…」
「ま、まあな…でもリーアと話しだしてから何とか。だからちょっと接触してみるよ」
「わかった。私もついていこう。何かあっても私を見れば落ち着くだろう」
それは俺のことかあの男のことか…。
どちらにせよリーアが隣にいるなら心強い。あと手を握ってくれればもっといい。
「よし。いくか」
「うむ」
家のドアを開けた途端男がこちらを振り向いた。
「何者だ!」
「あ、あや、あ…」
やっぱ無理。手を握ってもらっても無理。
「ふふふ」
「笑うなよ…」
「まあいい。私に任せろ」
リーアは俺の少し前に立ち男と対面した。
「何者だ。怪物の使いか?」
「はあ……まだわからないか。戦士とは心の眼で相手を見るのではなかったのか?マルティノス」
リーアは帽子とマフラーをとり、顔をさらした。
「む…っは!メリーアベル!!?生きていたのか!」
「おかげさまでな」
…リーアの顔、少し曇ってる。
話を聞く限り友好的な関係に思えたけど…。
「ではその隣にいるのは何者だ」
男はリーアから俺に視線を移し替えた。
めっちゃ睨んでるし…。
男はリーアが言った通り戦士風の恰好をしている。
緑の髪、目は…無理。俺より少し高いくらいのマッチョ。
手には剣を持っている。さながら怪物に立ち向かう勇者と言ったところか。
取り合えず鑑定しとこう。
鉄の剣 普通
攻120
鉄の剣…製鉄できるくらいには進んでるってことか?
いや、でも鎧の方……。
聖なる鎧 上
防 300 魔防 400
何ででいているかはわからないけど金属には違いない。異世界だからか?文明以上の装備がある可能性もあるか……。よくわからないな。
本体の方は…強くてもたかが知れてるだろうし…いや、サンプルはとっておくか。
マルティノスLv32 24 人間 男
体力 730/733
魔力量 129/129
攻 329(120) 魔攻 32
防 290(300) 魔防 261(400)
なるほど。旅をする戦士でこういう感じ…。リーアは腕が立つって言ってたしそこそこ強いんだろうけど…。
やっぱ俺人間じゃないな。
「おい、名乗りを求められているぞ」
「え、あ、無理」
「ふふ、なら適当に名をつけてやろう」
リーアのいたずらな笑み…なんか嫌な予感がする…。
「この方こそ、みなが恐れていた湖の怪物だ」
おいいいいいいい。敵対確定演出じゃねえかああああ!!!その男は怖くないけどこいつ旅人だろ?俺たちの事吹聴されて回られたらどうすんだああ!!!
「なんだと!!?その奇妙な恰好もその怪物のせいか!!」
奇妙て…一応あんたが来ている物より防御力は上ですが?
「メリーアベル!こちらに来い!呆けている今が好機だ!!」
好機って…俺そんな悪い奴じゃ…。
だがその時リーアは男の方へ向かって歩き始めた。
「リ、リーア?」
嘘だろ?なんで?どうして?
もしかして今までずっと戻りたいって思ってたのか…?
リーアは数歩歩いたところで立ち止まった。
「すまないな」
…。
「少し待て」
え?
「マルティノス。なぜ私が戻らなければいけない」
戻ら…てことは出ていかないってことだよな?よかった…。
力が抜けてその場に膝から崩れ落ちた。ビビらせないでくれよ全く……。俺はそのまま座って二人の会話を見守ることにした。
リーアがここに残る意思を見せたのなら安心だ。無理やり連れていこうものなら湖へ投げ入れてやる。
「なぜ…とは。お前の居場所はあの村ではないか。怪物に食われるよりもましだろう!?」
「怪物は人を食す趣味などないらしいぞ」
その通りだ!
別の意味でってことはあるかもしれ…いや、俺はまだリーアに欲情したことはない!まだ!
「な、ならばなぜ戻らない!お前を待つ村人もいるんじゃないか!?」
「ならば名をあげてみろ」
「な…」
男はそこで言い淀んだ。
待つ人が思いつかない…?
「そ、村長がそうだろう!お前がいなくなって大変な思いをしていたぞ!身寄りのないお前を育ててくれていたのだろう!?」
「私という道具がいなくなって今更困っているだけだろう?それにいらぬといったのは村長だ」
…。
「そ、それなら私が待っている!村に訪れるたびにお前との会話を楽しみにしていたのだ!!」
「私が贄にされようとしているときに遠巻きで眺めているだけだったお前がか?」
「な、なら友人は…」
「話にならんな」
…。
なんとなくだけどリーアが村でどんな立場だったか想像できてしまった。
もしそうだとすれば――…。考えたくもない。
「お前が旅の話をよくしてくれたのには感謝している。私があの時のままならお前についてこの場から離れていたかもしれんな」
「なにを言って…」
「私はな、ここにきて力が強くなった。また色んなものが見えるようになったのだよ。例えば…お前がどう考えを抱いていたかがな」
男はわかりやすく動揺しはじめた。
そりゃそうだろう。急に心を読まれたら誰でもそうなる。邪な心を持った者ならなおさらな。
「よく旅の話をしたのは孤独な私に優しく接する自分を見せつけるため…。私が縛られ連れていかれるとき傍観していたのは村人から反感を買って立ち寄れなくなるのを恐れたから…あの村によらなければ旅も大変なんだろう?お前の話で知っている」
リーアの口から言葉が発せられるたびに男は少しずつ下がっていく。
心当たりが…というより恐れてるんだ。心を読まれていることを。
「今回助けに来たのもただの英雄願望だろう?贄を出したにもかかわらず暴れる怪物を倒し首を持ち帰る…ついでに私を連れ帰ればさぞかし褒め称えられるだろうな」
「そ、そんなことは・・・!!」
終わり…か。
「私は戻らない。それからもう贄も英雄も必要ない。怪物は静かに暮らしたいだけだ」
俺には人の心を読むすべがない。だけど、リーアが今冷静を装いながら怒っていることだけはわかる。
「村長に伝えろ。手を出すのなら村が滅ぶと思えと」
「…」
滅ぶ…ね。リーアにひどいことした連中だ。その気になってしまえば、リーアが許しを出したなら出会わせてくれたことに感謝しつつ苦しみ与えず消し炭にするだろうな。
数秒たち男の口から言葉が漏れ始めた。肩が震え剣を握る力も強くなっている。怯えているわけ…ではなさそうだ。
「…わけ…い」
「なんだ?」
男は狼狽えながら俺に剣を向け構えた。
「そんなわけがない!お前は怪物にそそのかされているだけだ!そうだろ!?」
何言って――
「クリオラ!避けろ!」
「はあああああああ!!!」
男が踏み出した時には俺に剣の切先が触れようとしていた。
目にも止まらぬ速さ…。常人にはできなさそうなものだ。
でもこの程度ならステータスの差で避けられる。
はずだった。
反応するのが遅すぎた。俊のステータスは常人のままだ。
男の渾身の一撃は俺の顔面を完璧に捉えた。
「な、なぜ…なんだこれは…!?」
そして剣は柄まで粉々に砕け散った。
権能<武器破壊>
触れた武器を跡形もなく壊すもの。最近遊びで作ったやつだ。
だってこういうのかっこいいじゃん。
男は尻もちをついた。
驚きの表情を浮かべ空になった手のひらを見て、そのあと俺の顔を見た。
もちろん俺は目をそらす。
「は、あははは!」
男の後ろでリーアの大笑いが聞こえてきた。
俺が攻撃されたってのになんで笑ってんだよ。
「な、なぜだ…なにが…何が起こった!!?」
ちらっと男の顔を見てみたらあっちの世界では見たことない…いやマンガで見たなこういうの…。
目を見開いて震えながら後ずさっている。
そんな化物見る目で俺を見るなよ…俺だって理解してんだから…。
「これでわかっただろう?人間が勝てる相手ではない。諦めて引き返せ。私の一存で消し飛ばしてもらうこともできるんだぞ?」
「ひ、ひいいいいいい!!!」
男は四つん這いのまま森の中へ消えていった。
村があるのはあっちか、覚えとこ。
「すまないな。迷惑をかけた」
「いや、元はと言えば俺が原因だからな。ごめん」
まさか討伐しに来るとはな…。
まあでも怪物をどうにかするって言ったら倒すか贄を差し出しておとなしくしてもらうかだもんな。
信仰するってのもありそうだけど、交流が可能かわかってからだし。
「あの男のことだ、いつかは来ると思っていたが…話しておけばよかったか」
「そうだなあ。でも事前に知ってたとして話せるかは分からなかったから正直どっちでもよかった」
「ふふ、そうか。まずはその性格から直すべきだな」
性格…ってわけじゃないんだけどな。
ま、そういう認識でもいっか。
「そろそろこの世界の文明を知らないとな」
男が持ってた鉄の剣。
石器を使う時代よりは進んでるってことがわかった。
あの装備もそうだ。
あれだけのものがあるのなら紙くらいあるはず…。
何てアンバランスな世界なんだ。
「そうだな。私もこの世界のことはあまり知らない」
「え、そうなの?」
「ああ、あいつの話で聞いたことくらいだ。といっても武勇伝か旅で会った女の話だけだがな」
女の話って…少女に話す内容じゃないぞ…。
今日この話を聞くまでは旅の話を聞かせてくれて、村のために化け物退治に出るやさしいお兄さんって印象だったんだけどな…。
「なら俺らも旅するか…」
「なんだ、嫌そうだな…ああ、まあいいんじゃないか?人と接する機会を増やせばどうにかなるかもしれないぞ?」
「…だなあ」
ここに居続けたら来るなと言っても人が来る。それも敵意をもってだ。
毎回追い帰すのは疲れるし悪者扱いされるのもいい気持ちはしない。
リーアにとってもそうだろうし…出るしかないな。
「寒さはこれからもっと酷くなる。その間は誰も来ないだろう。その間に旅の支度を済ませようか」
「ああ、で?具体的には何を用意すればいいんだ?」
「私が知るわけないだろう」
「だよなあ」
初心者の二人旅…不安しかない。
でもまあ俺のチートがあれば何とかなるか。
当分の間、コミュニケーションはリーアに任せることになるけどそれくらいしてくれるだろう。
「まあ、お前と二人なら何とかなるはずだ。楽しみだな」
リーアは上機嫌で家に帰っていく。まったく、お気楽なお嬢様だ。
けどそれも悪くない。
むしろいいんだ。
今の俺にはずっと隣にいてくれて、どこかに連れて行ってくれる人、引っ張ってくれる人が必要だ。
この世界に転移してからもう半年。心に余裕ができてきた。
そろそろ次の段階に進むべきだとそう思う。
「俺も楽しみだ」
「何か言ったかー?」
「なんでもない。ちょっと冷えたろ?風呂入ってきな」
「わかったー」
これからもよろしくな。相棒。




