今夜の悪夢はこれだな……
眷属の捕獲からの玉藻のカミングアウトと言う茶番が終わり、囮になっていた人達を野へとリリースし、
「なぁ、これ、捕まえたのは良いけど、何処に?、どうやって?、持って帰るよ?」
「「「「「………………」」」」」
俺の素朴な質問に対して全員が沈黙しているなう。
「え? もしかして…… ノープラン……?」
「………………。 さてと、さっさと片付けるぜ、玉藻?」
「そうするかのぉ、雫。 経験上、力は常に万全にしておく方が良い。 のぉ、ウP主よ」
「ですです! パワーアップは早めに行うに越した事はないですよ! 千羽クン!」
「………………」
コイツら……
捕獲した後は、マジで完全にノープランだったんか……
「それでは、先ずは、勝手知ったる妾が──」
って事で、玉藻が一瞬にして氷漬けになった眷属達を背後のワサワサを1本発現させて粉砕。
粉砕された眷属達は、まるで北国のスターダストの様に、砕けた氷が街灯の光を反射させてキラキラ光って辺りを覆って、蒸し暑い真夏の夜を幻想的な感じにさせたけど、
「綺麗……」
「うむ。 風流よのぉ」
「綺麗ぇ〜〜」
「綺麗でござるな」
「夏に舞い散る氷は、幻想的だね」
視覚的に、いくら綺麗とか、幻想的とかって言われたとしても、その実は、元は人間だったの氷が砕けて散っている訳で、
「………………」
現実に目を向けてない、頭の中がお花畑でサイコな奴らとは違って、俺だけ急いでTシャツの襟元を引っ張って鼻と口を覆って塞ぐ。
そして、
『おまえら…… ソレ、人間がカチカチだった氷が散ってるって、分かっててそんな事言ってんのか?』
バカ供に現実を教えてあげる。
「「「「「──!?」」」」」
全員が目に見えて狼狽だし、一斉にペッペと唾を吐いたり、氷を手で払ったり、豚とウP主に至っては、
「「オロロロロロロロロロ──!!」」
「………………」
嘔吐く溜め動作もなく速攻で嘔吐しまくっている。
そんな酷い絵面な俺たちの身体が、
「身体が、光ってる……」
不意にボゥって淡い光に包まれた。
「なんじゃ、こりゃぁあ!?」
「新手の眷属の仕業か!?」
不思議な現象に盛大にビビりまくる俺と、警戒心剥き出して首を振りまくって周りを見る雫。
「まぁ、待て。 そんなに狼狽えずともよい。 コレは──」
玉藻曰く、コレは──
「マジ、か……」
「へー。 眷属を殺ると、こうなるんか?」
俺達のハコがパワーアップしたって事らしい。
所謂、レベルアップである。
こうして、最悪な絵面で終わった、初めてのジュークボックス。
「葵ちゃんのリキャストが復活したら飛んで帰ろうぜ」
「でござるな。 ささっと、文字通り飛んで帰るでござるよ」
「マジかよ…… また、フワフワかよ……」
そして、今日はもう帰って寝ようって雰囲気になったのを、
「レベルアップ、おめでとう」
テンプレ的にブチ壊す、空気が読めない奴が、
「………………」
パチパチと手を叩きながら、いきなり建物の影から現れた。
子綺麗なスーツに身を包んで、髪をオールバックに撫で付け、妙齢な見た目の怪しい男。
見た目はマジで、どこかのイキってる商社マン。
ってか、今からみんなで帰ろうって時に現れて、
「少し時間いいかな?」
「あぁん?」
俺たちの帰宅に待ったをかける謎の男。
「無理。 もう帰ぇっからマジで無理」
ソレを速攻で拒否る雫。
ってか、出会い頭にレベルアップって言ってる時点で、見た目は商社マンでも、この男もジュークボックスに関係している事は間違いない。
「君たちにとって、凄く有益な情報があるんだけど? 少し、私の話を聞いてくれないか?」
「………………」
有益な情報とかって言ってるけど、こんなのって、総じて情報を渡して来る奴の方が得するってパターンだろ?
マジで有益だったら、他の奴にベラベラ喋る訳が無い。
ホント、見た目まんまの胡散臭いヤツ。
ってか、
「貴方は…… ハコの管理者です、よね……?」
「あぁ。 そうだ。 そう言う君も、管理者だろう? コレで少しは興味が湧いたかな?」
「いや、見た目に追加して、余計に怪しさが増えたわ。 ってか、情報云々抜かして、ハコの管理者が直々にマジで何しに来た?」
雫のアレなセンサーが反応して、情報収集モードに入ってしまったし。
「見た目って…… 君……」
「ウP主。 ジュークボックスってのは、ハコの管理者を殺ってもOKなんだよな?」
「雫ちゃん。 自分で言うのもアレですけど、OKどころか、眷属を倒すよりも高得点ですよ……」
「ほぉう── って事は──」
「いや!? 一旦落ち着こうか!? 先ずは私の話をきいてほしい!」
しかも、殺る気マンマンモードのスイッチもオン気味。
しかし、
「雫よ。 迂闊に動くでないぞ。 妾たちは既に囲まれておる」
玉藻が周囲を視線だけで見回し、
「だろうな。 高得点を持っているって言う管理者が、こうも無防備に1人でノコノコ敵の前に姿を現す訳がねぇ」
雫が確認する様にチラリと地面に視線を向けた後に、
「マジでラッキーじゃん」
「──痛ぇっ!?」
俺の背中を平手で叩く。
ラッキーじゃねぇし!!
雫が向けた視線の先には、リサイクルするのをすっかり忘れていた、未だに俺の魔力で敷き詰められている黒い地面。
雫は俺を叩いて、『オマエ、分かってるよな?』と、言外に伝えてきた。
これは、俺にこの管理者を殺れってことだ……
異能の瞬時発動は玉藻の方が早いと思うけど、周りを囲まれている今の状況では、不意をつくなら俺がやるって一択だろう。
ってか、この管理者は、俺の魔力の塊の上に立っているのに、何も気づいていないのだろうか?
攻撃すると同時に、みんなをドームで覆って守れって事だろうけど、他の異能で俺の力が打ち破られる可能性もあるから、実証なしでいきなり防御に使うのは心もとない。
ってか、それで全滅しても、絶対に俺のせいにしないでほしい!
あぁぁぁアっ!
クッソ面倒臭ぇ!
「君たちが今の状況が分かっているのであれば、私の話を聞くのが得策だと思うが、どうする?」
男が腕を組んで顎を触りながら、クッソ胡散臭そうな笑みを見せる。
桜田は未だに豚のまま。
再変身まではもう少しかかる感じ。
ウP主の横には玉藻とクリリンがいるから、もしもの時に、ウP主を守る肉壁として動くだろう。
雫は……
まぁ、自分でどうにかするだろ、知らんけど。
「まぁ、こうも熱烈に話を聞いてくれと言われちゃぁ、なぁ?」
仕方ないと言わんばかりに、太々しく両手を広げて肩を窄めながら俺を見る雫。
そう言うけど、コイツは、完全に話を聞く気はさらさらない。
はぁ〜……
マジでやりたくないけど……
痛いのも死ぬのも嫌だから、仕方ねぇ……
「ふむ。 こちらとしても、争いは避けたいから助か── グフぅ──!?」
はぁ〜……
クソ……
今夜の悪夢はこれだな……
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