平凡ウェルカム!
「紅葉氏…… この痛々しいサイトはなんでござるか?」
痛々しい名前を掲げるサイトを見ながら、俺にまで痛々しい視線を向けるのはマジで止めてほしい。
痛いのは俺じゃなくて、“そのサイト” だから。
俺、じゃなくて、“その、サイト”、だから!!
「こんなサイト、どうやって見つけたでござるか? このサイトに辿り着く迄に、一体どれだけ拗らせたのでござるか?」
「いや、拗らせてないから。 見つけた俺が痛いみたいに言うな。 ザッピングしてたら偶々見つけただけだから」
「………………」
「オイ。 なんで無言になってんだよ。 取り敢えずなんか言えよ。 モノを食う以外で口を開けよ。 咀嚼音じゃなくて言葉を発しろよ。 そしてその温かい眼差しも今すぐ止めろよ」
ぶっちゃけ、立場が逆だったら俺も桜田と同じ反応をしていたのは間違いない。
間違いないのだが……
「……それで、このサイトと魔力が使えるのとどう言う関係があるでござるか?」
「いや、お前が論文で死に戻りしている間に色々あってだな」
「色々って言われてもでござるな…… 流石にコレはちょっと…… 時間を無駄にして黒い歴史を量産していたようにしか…… いや、コレはもうワンオペ的にブラックヒストリーと別呼称した方が──」
ブツブツと1人で俺の何かを勝手に決めようとしている豚。
もう面倒臭くていちいちツっこんでられん。
「……そんで、そこのサイトにあるヤツをダウンロードして読んだら、いきなり魔力が使える様になった。 以上。 終わり」
「色々無さすぎ! 無さすぎて薄すぎ! 週刊誌の後ろにある胡散臭い広告より酷すぎ! ダウンロードして覚えられる魔法ってナニ!? 僕はそんなにチョロくないでござるよ!」
桜田が俺を見る目は明らかに胡散臭い者を見る目であり、ムカつくけどその返答が正論すぎて思わず笑えてしまう。
「いや、分かるよ。 お前が言いたい事も思っている事もマジでスゲー分かるよ。 俺も最初は静かな図書館で笑いを堪えるのに必死だったよ。 マジで胡散臭いんだよソレ。 余りにもチョロ過ぎる話に聞こえるけど、ホントできちまったんだよ…… ソレで」
「………………」
「おい。 お怪しくてお信じられないのはお分かるですますけど、その胡散臭いって感情を思いっきり前面に押し出した様な表情をやめろ。 見るに耐えんどころか、下手したら通報されるぞ」
目を細めて鼻を突き出し、口をタコみたいに尖らせ、顔のパーツ全てが中心に寄ってしまっている桜田の顔はかなり酷い。
いや、違うな。
正確に言うと、余計酷くなった、だな。
ブサがマシマシのスペシャルメガ盛りだ。
「取り敢えず好きなの選んでダウンロードして読んでみろよ。 マジだから」
「『マジ』 でござるか……」
「オイ。 今言った『マジ』って一言にどんだけの意味と感情を乗せたんだよ。 いいからさっさとやれよ。 ファンタジーと二次元モノが大好物なアニ豚のクセに、なんでそこで引いてんだよ」
桜田は嫌そうな顔をしながら俺とスマホを交互に見る。
そして意を決したのか、スマホの画面をスクロールさせてサイトを読み始めた。
暫くして何かをタップした後に顔を顰める。
「紅葉氏…… なんかアイコンが1つだけグレーアウトして押せないのでござるが……」
そう言いながら桜田が俺にスマホを向けると、
【必見! 魔力マスター 完全版!】
のアイコンがグレーアウトしていた。
俺のタブレットに勝手にダウンロードされたヤツだ。
「……なんでだろうな。 俺はソレを読んで魔力が使える様になったんだが……」
って言うか、桜田のスマホに映るサイトは、俺が選んだ以外のモノがグレーアウトしてない。
何んでだ?
「なんて無難なモノを選んだでござるか……」
俺の言葉に桜田がチキンヤローを見る様な見下す視線を向けてきた。
「う、ウルセー! 無難OK!平凡ウェルカム!っつうのっ!」
「こんなサイトを見ておきながら……」
「黙れ豚ぁぁぁあ! 人間、建前と本音ってのがあんだよ! 俺の事は良いからさっさと選べよ!」
「……となると。 コレ以外の4択でござるか……?」
桜田はテーブルの上にスマホを置いて、真剣な顔で何度も画面を上下にスクロールさせる。
そして意を決したのか、アイコンをタップ。
そんな桜田がタップしたアイコンに俺は驚愕。
「オイ…… そこのお前…… 何故ソレを選んだし……」
「そこのお前って…… いや、僕の超嗅覚がコレだと……」
「違うだろ? 色々と違うだろ? 嗅覚じゃなくて感覚だよな普通は? って言うかお前の嗅覚は食べられる物と食べられない物しか嗅ぎ分けられないだろ?」
「いや、僕の嗅覚は確かでござる。 普段は封印されている超感覚とリンクしていてでござるな──」
「──そんな隠し設定とか要らないから。 取り敢えず、ソレを選んだ理由を言ってみろし」
「あうぅ……」
俺の向かいに座っている、何故か急にモジモジしながら俯きだした桜田は、
【変身! マジカル 魔法少女!】
を選びやがった。
「だから、僕の嗅覚が──」
「── んじゃもうソレでいいから。 それで? 4択とは言え、他にも色々あるのに何故にソレを選んだし?」
「魔法使いっぽいのがこれしかなくて……」
「あぁ。 “ソレ” も一理あるだろうが、違うだろ? 本音を言え。 本音を」
「………………」
更にモジモジする豚。
そして、俯きながら恥ずかしそうに口を開く。
「──でござる……」
「はぁ? なんだって?」
「僕は──ゴニョゴニョゴニョ──で、ござる……」
「声が小さすぎて聞こえなさすぎなんですけど〜? もうちょっと大きな声で、聞こえる様に言ってもらえませんか〜?」
「っク──!?」
俯いていた桜田が顔を上げ、
「僕は──!」
恥ずかしさや怒りが混ざったような完全に開き直った顔を見せる。
「──魔法少女になりたいでござる!」
「ですよねぇぇぇえええ! ソレを選ぶって事はソレしかないですよねぇぇぇえええ!! お前の願望にマジで引くわっ!」
心底、ドン引きだわ!!
「そそそそそそ、そもそもぉ! 僕は男でござるしぃ! こんなので魔法少女になれる訳がないでござるよっ! なれても普通の魔法使いが関の山でござるよ! 魔法使いっポイのはこれしかなかったでござるよ! サイト名も『魔法使いになろう』ってあるから、これが大正解で大当たりの筈でござるよ!! 紅葉氏の様なフっつぅ〜でチキン野郎な考え方と一緒にされるのは侵害でござる! 普通過ぎる自分の平凡な考え方を一生悔やむが良いでござる! モブはモブらしくペラッペラな薄い人生をひっそり短く生きていけば良いでござるよ!」
完全に開き直った豚。
そして、何故かディスられた俺。
興奮して喉が乾いたのか、空になったパフェもどきを必死に吸い込む。
いや、もう無いからソレ。
コイツは虚無をも吸い込んで糧にするつもりなのか……?
って言うか完全に色々とおかしくなってんぞ……?
桜田が俺をディスりながら紡ぐ言葉は、正にインチキ宗教やネズミ講なアレに完全に騙されているヤツが言う、「自分は騙されていない。自分は満足してるんだ。他人を自分の価値観で測るな」と宣っているのと同じであった。
「僕の選択は正しいでござる!」
「………………」
俺から促しておいてなんだけど、って言うか俺は何もしてない筈なのに、なんだか桜田が俺の被害者に思えてき──
「魔法しょ── 使いは正義でござる」
「………………」
──んな訳あるかぁぁぁぁあああ!!
あぶねぇあぶねぇ。
スッカリ忘れてたぜ。
コイツが子供向けの、しかも女の子向けのアニメ、特撮問わず全ての魔法少女グッズを買い漁っているド変態なヤツという事を。
ってか今、絶対に魔法少女って言いかけてたし!
「黙れ変態! お前が如何にそれらしい正論を述べようとも、此処ぞとばかりに俺をディスろうとも、魔法少女好きのお前の願望や欲望がダダ漏れすぎて、選んだ理由を有耶無耶にする事は不可能だと言う事を知れ!」
「ち、違──」
「──違くない! お前は今、魔法少女になりたいと自分で言ったじゃないか! この選択で、お前は、俺以上に拗らせ、捻じ曲がり、湾曲しまくっている、って事がハッキリしたぞ!」
「ぼ、僕は──」
「──黙れ変態」
「ち、違──」
「──違くない」
「うぅっ…… 男の──」
何かを言い淀む桜田の顔が悲しげに歪む。
「──男の僕が、なんで魔法少女を夢見て憧れちゃダメなんでござるかぁぁぁああああ!!」
「………………」
完全に吹っ切れたのか、願望保管庫から産地直送された激キモい叫び声を上げながら、現実から逃げる様にテーブルに突っ伏すと言う、マジで救い様のないキモ豚。
どうやら桜田は、手の施し用がない程拗らせまくっていた様だ。
しかも触れちゃダメな方向に。
所謂、一線を超えてしまっている、マジでヤベーヤツ。
「……もういい。 ここだけの秘密にしといてやるから──」
「………………」
「──おかわり買ってこい」
「──ハイっ!! 喜んで〜!!」
犯罪係数を測られたら確実にドミネートされるであろうキモ豚は、おかわりを購入する為に嬉々としてカウンターへと走って行った。
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