桜田サン! 殺っておしまいなさい!!
「先ずは一匹めぇ~」
クリリンのお腹に穴を空けて、周りにいたオーディエンスを殺して悦っている鎖野郎。
街中で突発的に戦闘を始めるとか、まるで、雫と同じ戦闘狂の様にも見えるけど、無関係で戦えない人達に躊躇なく手を出してしまっている分、雫の方が一応、良識はあったらしい。
ってか、良識があるバーサーカーって矛盾しまくってるよな?
と、鼻くそをほじっているかき氷頭の馬鹿面が脳内再生でチラつく中、周りから人気が無くなったのを良いことに、
「──マッダ☆レーナーぁぁぁあああ!!」
鎖野郎に見られない様に、コソコソと建物の影に隠れながら小声で呪文を唱えて変身を終えた、
「………………」
「さぁ! やってやるでござる!」
魔法少女が地味にササっと現れた。
「………………」
そこは、敵の前で変身する感じで、変身シーンでドキドキしながら盛り上がるトコじゃねぇの?
変身後に正義でキラっキラなキメ台詞言うトコじゃねぇの?
性癖剥き出しで魔法少女になったでござるって言っていたクセに、なったらなったで、設定も、ロールも台詞もガバガバな豚の化身に呆れ果てる。
昼夜問わずに頭を捻り、血涙や血尿を流して台詞や設定を考えている、魔法少女を創作している世界中のクリエイター達にマジで謝ってほしい。
あわせて、魔法少女を夢見る子ども達に向かって、熱した鉄板の上で土下座して謝ってほしい。
しかし、今の俺には余裕が無い。
設定がガバガバでも、地味でも何でも良いから、
「桜田サン! 殺っておしまいなさい!!」
某、宇宙の支配者なボスの名台詞で、魔法少女を後ろから鼓舞してあげる。
俺の会心の鼓舞によって、桜田に、物理攻撃耐性と仲間の身代わりになるバフがかかっている事を心からお祈り申し上げます。
「そこまでござる!」
早速、俺のバフが効いているのか、
「これ以上、暴れるのは止めるでござる!!」
良い感じで魔法少女キャラをロールし始めた桜田。
しかし、
「あぁあん? なんなんだオマエのその格好? 恥ずかしくないのか?」
「「………………」」
誰だ?とか、仲間か?とか、新たな能力者なのか?とか聞かれるよりも先に、出だしからイキナリ魔法少女な格好を罵倒され、
「………………」
敵からの思いもよらぬ痛恨の一撃を受けて、動きがピシって固まった桜田。
ってか、魔法少女に対する敵のファーストアタックは、俺がかけたバフの効果が全く及ばない、トリッキーすぎる精神攻撃であった。
ガンバレ桜田!!
心を強く持つんだ桜田!!
罵倒罵声は極上のご褒美だと受け止めろ!!
「ぼ、僕は! あ、アキバの住人でござる!! これがアキバの住人のデフォな格好でござるよ!!」
いや……
アキバの住人でも、そんなんデフォで着てねぇし。
ってか、オマエは魔法少女違うんか?
真っ先に魔法少女って言えし。
「はぁあ? どんだけイカれた住人の服だよ?」
「え!? もしかして、アキバのデフォと言うものを知らないのでござるか!?」
どうやら、俺の心配は杞憂で終わり、
「そんな無知なヤツはアキバ失格でござるよ! アキバの住人に土下座して、二度とアキバの地に足を踏み入れるなでござるよ!! グフっグフっ──」
キモく笑うアニ豚の面の皮はもの凄く厚く、どんな罵倒を浴びせられても腐食しない鋼のメンタルは健在だった。
ってか、魔法少女をガバガバ設定でロールしているオマエが、アキバの住人達に土下座して謝れ。
ってか、アキバ失格ってなんだよ?
オマエは既に人間を失格してるだろうが。
そんな鋼メンタルな桜田は、
「そんな、アキバのデフォすらも知らずにアキバの地に足を踏み入れた不届き者は──」
ドピンクなワンドの先で鎖野郎をビシっと指し、
「──これでも喰らえでござる!!」
ワンドから魔法少女らしく、凄じい魔法を放な──
「ちぇぁぁぁあああ!!」
──たないで、
「………………」
「うぉっ!? 速っ!?」
そのまま高速移動して、油断していた鎖野郎のお腹にワンドを突き当てた。
「………………」
オマエが手にしているワンドと、魔法少女の格好の意味よ……
しかも、
「フハっ──!? こんなおもちゃの杖で俺を倒せるとでも──」
「ていっ!!」
「──!? アバババババババババババ──!!」
キラキラなエフェクトも派手さも全く無い、例の地味な電気ショック付き。
「………………ヒでぇ」
「てい!!」
「アバババババババババババ──!!」
「てい!!」
「アバババババババババババ──!!」
「てい!!」
「アバババババババババババ──!!」
「てい!!」
「アバババババババババババ──!!」
その光景はまるで、言う事を聞かない、生意気な囚人にスタンバトンで躾をする鬼看守を思わせる程に、
「………………」
「てい!!」
「アバババババババババババ──!!」
「てい!!」
「アバババババババババババ──!!」
何度も何度も地味で悪質な所業を繰り返す魔法少女。
「ハァハァハァハァ──!! 魔法少女を! 舐めるなでござる!!」
前にもこの見栄えが全くない悪辣な光景を見たけど、
「ヒデェーな……」
異能持ち同士の戦いとは思えない程の地味具合。
モブとかやられ役にとっては、死ぬよりも酷い扱われ方。
これには、オーディエンスの注目を浴びながら、テンプレ主人公っぽく、派手なエフェクト満載で派手に戦っていたクリリンが不憫で堪らない。
軽く復活したクリリンも、美少女が、ドピンクなワンドを使って敵をペチペチ叩いて戯れている様な姿を見て、完全にやる気も闘争心も失せていた。
敵だけでなく、味方の心をも挫くとは──
「──地味攻撃…… 恐るべし……」
ホント、アレだけは絶対に喰らいたくない攻撃だ……
………………
…………
……
…
そんなこんなで、我らが魔法少女桜田様が鎖野郎を無力化し、
「コイツでござる」
人目につくからとビルの地下駐車場に移動。
外は警察のサイレンが鳴りまくって大変な事になっているから、アキバに来ていた雫たちも、なし崩しで合流したなう。
合流するなり、雫が桜田の地味な電気ショックでノビていた鎖野郎を叩き起こし、
「オイ。 仲間の居場所を教えろ♪」
「教えぬと、死ぬよりも辛い目にあうことになるぞ?」
「っㇰ──」
「「………………」」
雫と、玉藻のイカれツートップが楽しそうに鎖野郎を脅しまくっている。
この光景にクリリンはドン引き。
脅されている鎖野郎もドン引き。
俺は雫と玉藻のイカれ具合を知っているからある程度耐性は付いているけど、
「紅葉…… 僕、犯罪者にはなりたくないよ……」
耐性がないクリリンのシックスセンスは、俺達が犯罪者予備軍になっている未来予想図がまざまざと視えてしまっているらしい。
「俺もそんなん全力でなりたくないし……」
ウP主はウP主で、まるで、玉藻の腰巾着の様に荷物持ちをさせられているくせに、
「昨日の今日で早速一人目とは、幸先が良いですね! このまま、この人を餌にして、他のハコの能力者達を誘き出すと言うのはどうですか?」
森の狩人も真っ青な悪魔の様な助言でもって、火にガソリンを注ぎまくる始末。
これにはクリリンの顔も真っ青。
「ウP主。 いいなソレ」
「うむ。 探し回るより、その方が効率が良いのぉ。 それに、此奴は、妾の愛しの旦那様を執拗に追い回したのだ。 全くもって羨ますぎて万死に値する」
オイっ!?
なんで嫉妬が混ざってるし!?
「そんな羨ましい奴は、本来であれば一月かけてじっくりと殺してやるところであるが──」
猿轡をされ、パンイチに剥かれ、手足を氷で拘束されている鎖野郎の顔は、クリリン以上にもっと真っ青。
「──今は、旦那様と妾の再会を祝して、旦那様、妾は接吻を所望する」
「ねぇわっ!? 馬鹿かっ!?」
ストーカーのダダ漏れな欲望に、俺の顔はもっとも〜っと真っ青。
鎖野郎がイキって俺を見つけて追い回し、終いには街中で派手に事を起こしてしまったせいと、
「先ずはコイツの仲間の捕獲って事でいいか?」
「うむ。 捕獲した其奴等も次の獲物の餌にする故、極力、生かしておくのだぞ?」
「では、捕獲した人達は、桜田さんに死なない様に氷付けにしてもらって、ドンドン集めていきましょう!」
ウP主の悪魔の提案が華麗にフュージョンしたせいで、
「良いでござるなソレ! 完全コンプして眺めてみたいでござるな!」
「うむ。 ソレはいと壮観であろうのぉ」
「ウヒヒヒヒヒ──♪ 集めた後に纏めて壊したら、マジで堪んねぇだろうな~♪」
「………………」
どうやら、タガが外れた魔女供の収集癖に火を着けてしまった様だ。
ってか、コンプした後が恐ろし過ぎる。
「ヤバいね…… 彼女達、かなり狂ってるね……」
「うん…… 素敵にマッドにイカれてやがる……」
「ある意味、僕はこっち側で良かったよ……」
「うん…… ソレには同意しかない」
勿論、鎖野郎に拒否権とか与えらる筈もなく、魔女供による魔女狩り狩りが始まろうとしていた。
え?
俺はそれで良いのかって?
まぁ、買ったばかりのプラモを駄目にされた恨みは海よりも深いのだよ。




