俺、そんなの聞いてないんですけど?
結構時間も経ってたし、完全に追跡を巻いたと思っていたのに、
マジで勘弁してくれよ……
あっけなく見つかってしまった。
塩対応なコンカフェなんかに行かないで、さっさとアキバから離れてお家に帰ってればよかったと、今更ながらにめちゃくちゃ後悔しまくっている馬鹿な俺。
桜田とクリリンに、『ヤベぇヤツに見つかったから今すぐ逃げよう』と声をかけようとした瞬間、
「──っ!?」
桜田とクリリンの間をすり抜けて、先端が鏃みたいになった鎖が俺の顔面めがけて一直線に飛んできた。
「ぬ──!?」
咄嗟に手にしていたプラモを鎖と顔の間へと滑り込ませるも、
「──をぉおっ!!」
プラモの紙箱如きでは全く防げる訳がなく、容易に穴が空いて虚しく貫通。
プラモのお陰で鎖がズレて顔面直撃は防げたけど、
「「──!?」」
「俺のプラモがっ!?」
再入荷を待ちに待って受け取ったばかりのプラモは、組み立てられることなく御臨終。
プラモがイキナリ現れた鎖に貫かれて、ユラユラ滞空しているって言う不思議状況を見て、桜田とクリリンが慌てて背後を振り返り、
「ブヒィ──!?」「え!? 鎖がっ──!?」
同時に驚愕して声をあげる。
そんな俺達の目に写るのは、黒いハンチングを被り、ノースリーブの黒いコートを着ている男の腰辺りから伸びている──
──複数の長い鎖。
そして、鎖が生き物の様にユラユラと滞空しているって言う、不思議現象のおまけ付き。
コイツは、俺をアキバで追いかけていたヤベーヤツ。
ってか、見つかったのは百歩譲って仕方がないとしても、周りにいる沢山の人を気にせずに、堂々と街中でおっぱじめやがった。
マジでイカれてやがる。
「マジで手間かけさせやがって…… 呑気にお買い物とか、余裕かよ? ってか、人数増えてんじゃん?」
チャラチャラと軽く音を鳴らし、生き物の様にグネグネ動きながら滞空している鎖が嫌でも目立ち、何事かと、周りの人達が俺達に沢山の視線を向けている。
周りの人達には何かの撮影かなんかと思われているのか、写メられまくりのフラッシュ浴びせられまくり。
ってか、SNSにリアルタイムでアップされてるのは間違いない。
この状況を一言で表すなら、”クソ最悪”。
二言になってしまったけど、ソレくらい状況が最悪。
街中で目立ってSNSで顔を晒されるとか、ハコの眷属達に顔がバレたも同義。
ってか、俺の引き篭もり計画は頓挫したも同然。
取り敢えず、どうにかしてこの沢山の人目を避けたいんだけど、
「ハハっ──!! オーディエンスがスゲー事になってきたな!!」
「「「………………」」」
「であれば、ソレらしく、派手にいこうぜ!」
どうやら、相手はかなりの目立ちたがり屋さんらしい。
そんでもって、RPGでもそうそう拝めない、街中での突発的──
──開戦。
全くTPOを弁えてなさすぎて、
コイツ、マジで脳みそ腐ってんじゃねぇの!?
って心から思ってしまった。
せめて、人気がないところまで我慢して!!
「って事で──」
男が俺達に向かって徐ろに手を翳すと、腰から伸びているグネグネ動く鎖が全部、まるで、時間が止まったかの様にピタリと動きが止まった。
そして、一拍置いた瞬間、
「──派手に死ねっ!!」
結構な速さで一直線に俺達に向かって襲いかかって来た。
「ぬぉっ!!」「ブヒぃ──!!」
非力な俺(モブ)と桜田(素豚)は咄嗟に地面に身を投げ出して必死に躱そうとするけど、
「──っ!!」
クリリンが俺たちの前に出ながら瞬時に両手からヴヲンって音を鳴らして光の剣をクロスさせて発現させて、飛んできた鎖を剣で次々と弾く。
「それが、テメェの能力か? ってか、なかなかどうして動けるじゃねぇか」
「いきなり始めるにしても、場所は変えてほしいかな? 関係ない人達を巻き込むのは、違うだろ?」
光の剣を握って、俺と桜田の前に立っている勇者なクリリンがステキまくる!
能力を発現させたからなのか、クリリンの腕の ”勇者” が自己主張する様に強く光りだしたけど、七分袖で隠れているから恥ずかしい二文字は見えてない。
うん、残念っ!
ってかクリリンは、関係ない人を巻き込む事をなんとも思っていない鎖野郎に軽くオコだ。
そんな、光の剣を両手に持っている、ちょいオコイケメンにオーディエンスも目が釘付けで、応援する声が飛び始めている(主に女性から)。
ってか、見た目と顔と雰囲気と異能で、鎖野郎に野次が飛んで暫定ヴィラン扱いされ始め、
「どんなテンプレ主人公だよオマエ?」
軽く呆れとか嫉妬が混ざった様な事を言いながら、クリリンを睨む様に視線を固定させた。
鎖野郎の意見には俺も激しく同意するけど、流石に街中突発開戦ブッパは頂けない。
何が頂けないかって?
俺は目立ちたくねぇんだよ!!
襲うにしても、ひっそりと、さり気なく、目立たずに、こっそりやってくれよ!!
大半は容姿端麗なクリリンに視線が行っているけど、その渦中に居る俺のメンタルがガリガリ削られて、次第に持病のお腹痛い痛い病がやってきた。
「お腹、痛い……」
そんな豆腐メンタルな俺が腹痛を訴えてお腹を擦っていると、
「紅葉氏…… こんな時に……」
桜田が呆れた顔で俺を見た。
「こんな時も何も、豆腐メンタルの俺を舐めるなよ!」
「そう威勢よく僕に言われても、全然迫力が無いでござるよ……」
腹痛を訴える俺を他所に、
「テンプレヒーロー!! どこまで耐えられるか見せてみろ!!」
テンプレヴィランがテンプレなセリフを言いながら、沢山の鎖をクリリンに向かってけしかけた。
「こんなに大勢の人達が居る場所で!?」
それを両手にある光の剣で何度も弾くクリリン。
ってか、クリリンの動きがマジでおかしい。
完全に人間を辞めている動きと反応速度。
いくらクリリンが防衛大学にいて、実践訓練とかトレーニングとかを人より多く経験してるって言っても、こんなガチな対人戦とかはした事無い筈、多分。
異常な反応速度もアレだけど、クリリンの両目が白く光っているってどう言う事?
なんて言うか、白い炎が両目から漏れて溢れ出ている感じ?
「なぁ、桜田よ…… クリリン、なんかおかしくね? 目が光ってんだけど? 俺の気のせい?」
スーパー疑問形で桜田に訪ねてみたところ、
「アレは、理力を目に集めて、相手の動きを良く見る事ができる技でござる」
「は?」
スーパー意味が分からない回答が返ってきた。
「この前、玉藻氏に教えてもらったでござるよ」
「は?」
「他にも、理力で身体能力を底上げするヤツとかも教えてもらったでござる」
「は?」
イヤイヤイヤイヤ!?
ナニソレ!?
「基礎ではござるが、みんな、色々と理力の使い方を教えてもらったでござる」
イヤイヤイヤイヤ!?
教えてもらったって、え!?
俺はっ!?
「栗林氏の異能は僕や木梨氏とは違って、パパさん達みたいに通常で使われている理力の使い方と親和性があったようで、いとも簡単に使いこなしていたでござるよ。 しかも、普通に扱われる理力と違って、効果マシマシでござる」
「いや…… ってか、俺、そんなの聞いてないんですけど?」
「え? 紅葉氏は異能に全く興味がなさそうだったから」
「………………」
自業自得とは言え、俺は完全に蚊帳の外で仲間外れだった様だ。
そして、最弱ゾンビは、たった数日でテンプレ勇者になってしまっていたっぽい。
ガンバレ勇者!!
ガンバレ肉壁!!
テンプレ勇者が、テンプレヴィランとアキバのど真ん中で戦っている。
って言うか、桜田から聞いたクリリンは、パパさん達みたいに理力を使って身体強化とかできる?できてる?らしいけど、相手の鎖野郎も、多分、何かしらの方法で身体強化しているっぽい。
ぶっちゃけ、二人とも人外的な動きすぎてヤバス。
そんな、人外な動きをしている二人が操る鎖と剣の打ち合いが苛烈になってきて、店のガラスが割れたり、壁とかアスファルトが抉れたりとか、近くの店とか道路にも被害が出始めた。
ソレを見ていたオーディエンス達も、流石にコレが撮影とかじゃないって思い始めたのか、徐々に二人を囲んでいた輪が大きく広がり始めた。
そして、
「グゥっ──!?」
「クリリン!!」「栗林氏!!」
鎖野郎の手数に押されて、クリリンの左脇腹に鎖が刺さった。
「ヒュぅ~! やっと当たったわ!」
そして、鎖が抜かれた勢いで、脇腹から流れ出る血がアスファルトの歩道を赤く染め、クリリンの動きが止まる。
コレには周りの人達(主に女性)から悲鳴があがり、
「オイオイ!! 動き止まっちゃってんぞオマエ!!」
「がぁアっ──!?」
続けて腹のど真ん中を鎖に貫かれて貫通したクリリンを見て、男女問わずに更に大きな感嘆の声があがる。
そして、
「いい加減、キャーキャーウザいから退けよお前ら」
鎖野郎が無造作に放った5本の鎖が近くにいたオーディエンスの頭に突き刺さり、
「オマ──!?」「な──!?」「ブヒぃ──!?」
頭を貫かれて持ち上げられて宙に浮いている血まみれの5人を見て、
『『『………………』』』
周りが一気に静まり返った。
「そうだ。 無力なゴミ供は、そうやって息を潜めて静かにしてろ」
そう言いながら鎖野郎が無造作に5人を道路に投げ捨てた瞬間、
『『『~~~~~~!!!』』』
止まっていた時間が動き出したかの様に、周りにいた人達が悲鳴をあげながら我先にと逃げ回る。
「イヒヒヒヒヒヒ──! カオスだなぁあ!! 世紀末だなぁあ!!」
腹を押さえて道路に蹲るクリリン。
「クリリン!!」
ソレを見てアワアワする俺。
クリリンはゾンビだから腹に穴が空いたくらいではその内治るから心配じゃないけど、
「桜田!! オマっ! 早く変身しろって!!」
「わ、分かったでござる!!」
「このままじゃ俺に矛先が向くじゃねぇか!!」
無力な俺に鎖野郎の魔の手が向くのが大心配である。
「………………え?」
そんな慌てる俺を見る桜田の目は、まるでゴミでも見るかの様な目だった。
実に遺憾である。




