ナイス俺の学習能力!!
「ハァハァハァハァ──!」
雲一つない、真夏の晴れた日の青空の下。
道行く人を避けながら街中を走る。
クソ!?
なんなんだよマジで!?
うまい具合に人混みに紛れ込んだ後に走る速度を落として歩き、途中でさり気なくショッピングモールに入る。
ショッピングモールに入ったと同時に、人を壁とかブラインドにして身を隠しながら、地下鉄と直結しているデパ地下へと降りていく。
デパ地下から改札へと向かう途中でトイレに入り、そのまま個室に直行して鍵をかけ、ズボンのポケットから急いでスマホを取り出して電話をかける。
3コール続いた呼び出し音の後、
「クソ!! 早く出ろって!!」
待つのに苛ついて、思わず声が出た。
そのまま待つ事7コールめで電話が繋がり、
『もしもしでござ──』
「──マジで助けてっ!!」
大声を出さずに叫ぶと言う荒業を駆使しながら、同時に心の底から助けを求める。
「ヤベ-ヤツに追われてんだけど! なんとかしてっ!!」
『え?』
そんでもって、電話しながらチャットアプリで現在地のマップを桜田に送る。
『え……? って言うか、なんでアキバに居るでござるか……? 昨日、『いのちだいじに』って事で、不要不急に行動しないって、紅葉氏自信が言いだしっぺでそう決めたばかりでござるよ……?
「………………」
『なんで家で大人しくゲームしていないのでござるか?』
「………………」
そう。
桜田が電話の向こうで言う通り、痛いのも一回死ぬのも嫌な俺は、ジュークボックスなるアホでイカれたキャンペーン期間中、俺が引き籠もってゲームをしててもお咎め無しになる様にと、みんなをチカラいっぱい説得したばかりなのだ。
しかし、
「そのですね…… 長い事注文してたプラモが入荷された言われましてですね…… そう言われれば、もう、行くっきゃないですよね?」
『自業自得でござるな……』
「……っスね……」
豚に一言で論破され、何も言い返せずに撃沈。
『それで、ヤベーヤツってなんでござるか? 追われているのはジュークボックス絡みでござるか?』
「うん。 多分、ジュークボックスなヤツで、ヤベーヤツってのは──!?」
と、続きを言おうとしたところで、
チャリン──
チャリン──
って、金属同士が擦れたり揺れたりな音が耳に入ってきたから、
「──ヤバい!? アイツ追って来やがった!? どうしよ!?」
咄嗟に両手でスマホのマイク部分と口元を包み込んで、声量を落として桜田に伝える。
『え!? 急いでみんなに伝えてそっちに向かうでござる!! 紅葉氏は、取り敢えず全力で逃げろでござる!!』
「何がなんやら分からんけど分かった!!」
って事で、通話を切って、急いで個室のドアのロックを外して、片足で便座の上に乗って、開いているドアの死角に身体が隠れる様に頭を低くしながら壁にもたれる。
なんでドアのロックを外したのかって?
そんなの、ドテンプレな ”トイレの壁ドンドン & 個室でピチュン" フラグを回避する為に決まってんだろうが!!
映画とかドラマで良くある、トイレに逃げてピチュンされるシーンを観て俺は学んだんだよ!!
居るのに居ない様な感じにしとかないと、居ますよって言っている様なもんで、ピチュン確定だから!!
そして、案の定、トイレに入ってきたヤベーヤツ。
チャラチャラ鳴っていた金属音が止み、足を止めて中に視線を巡らせているのが容易に想像できる。
ってか、個室のドアは全部開いているし、下から覗いても足とか見えない様に便座の上に立っているから、
チャリン──
チャリン──
俺の思惑通り、誰も居ないって思ったのか、トイレから音が遠ざかっていった。
フゥ~……
ナイス俺の学習能力!!
って事で、急いで逃げ──
「………………」
──ずに、その場にそのままの体勢で暫く留まる。
なんで急いで外に逃げないのかって?
そんなん、外に逃げたら見つかるだろうが!!
映画とかドラマ観て、俺は学んだって言ってんだろ!!
急いでトイレから出て、逃げて、見つかって、また追われて、ってのがトイレ逃げ込みテンプレのワンセットだから!!
取り敢えず、後10分くらいは此処に隠れているつもりだから!!
──10分後──
便座から降りて、個室のドアを閉めて鍵をかけて普通に座る。
──続けて30分後──
俺はそのままトイレの個室に隠れ続けていたけど、お隣さんから聞こえてくる景気の良い音と臭いに耐えきれなくてマジで無理。
って事で、何事も無かったかの様にトイレを出て、届いたって言うプラモを受け取りに行った。
途中で桜田に電話したけど、
『取り敢えず、今、栗林氏と一緒に向かっているでござるから、到着次第、合流するでござるよ』
「おなしゃしゃっス!!」
と、ナイスガイなカッコいい台詞が返ってきた。
「ってか、雫とストーカはどうしたよ?」
『木梨氏は…… ウP主と玉藻氏と一緒にアキバに向かってはいるのでござるが、玉藻氏がPDFをダウンロードする為のタブレットを買いに行くからって事で、パスらしいでござる……』
「パスってナニ!? そんなルールあったっけ!? ってか一回合流しろし!? ついででも何んでも良いから、襲われた俺を少しくらい気にかけろし!?」
『僕もそう言ったのでござるが……』
そう言ったってどう言った?
俺の救出は、お買い物のついででも良いからって言ったのか、コイツ、もしかして、マジで……?
『3人共に口を揃えて、『紅葉氏なら一人でも大丈夫。心配いらない』って言われたでござるよ……』
「一人でも大丈夫……? 心配いらない……? え……? 何が……?」
心配しろし!?
大丈夫じゃねぇんでやがりますですけど!?
俺的には、初めて自分の子供を一人でお使いに行かせた時の親の心情くらい?には俺の安否を思っているかと思ってたけど、
「マジでクソヤローどもだな……」
何を根拠に ”俺は一人で大丈夫” 枠に入っていたのであろうかが甚だ疑問で遺憾である。
まぁ、実際、今のところ、無事に事なきを得てはいるけど。
「取り敢えず、アキバ着いたら電話して。 俺は適当にカフェに居るから」
『分かったでござる』
って事で、アキバのカフェと言えば、メイドさんがいっぱい居るカフェでしょ?と思いつき、ルンルン気分でアイドル通り方面に足を進める。




