絶対痛いやつじゃんソレ!?
パシられた桜田たちと一緒にコンビニでのお買い物を終えて、
「クソ…… マジで行きたくねぇ……」
そのまま道場に連行された俺。
そんでもって、
「千羽 紅葉クン!! ジュークボックスが始まったよ!!」
「………………」
と、唐突に出会い頭に訳の分からない事を言ってきたウP主。
いきなりナニ言ってんだこの人?
ヤバいのキメてんのか?
ってか、なんだって?
「……は? 何が始まったって?」
「ジュークボックスって言うのは、箱の質を高める為のプロセスだよ! ボーナスステージだよ!」
「いや…… 全く意味が分からんし……」
前置きも詳細もなさすぎて、マジで意味が分からなさすぎて俺が困惑していると、
「旦那様。 ソレは、箱の眷属達のチカラを高める儀式。 妾も以前経験した事がある」
「え?」
ストーカーが更に俺を困惑させ、
「箱の眷属同士が争い、他の箱から世界の理を、理力を、チカラの源を奪い合う──!!」
「え?」
「──それが、ジュークボックスだよ!!」
ウP主が止めをさした。
「え? ナニソレ? なんでそんな事すんの?」
いや、マジで。
「うん! 箱のパワーアップさ!」
「何故に……?」
いや、平和でいこうよ?
ラブ・アンド・ピースでいこうよ?
「理力を集めて箱をパワーアップさせて、パワーアップした箱が更に多くの理力を集められる様になって、箱の眷属達に更に力を供給する為さ!」
「いや、それじゃ、本末転倒じゃね? 箱の数が多ければ多いほど、虚無と戦える人が増えた方が良いんじゃね?」
「うん。 確かに。 溢れた理力に合わせて、箱は常に増え続けて、チカラを得る人達も増えてはいるけど──」
ウP主が片目を瞑って、突き上げた人差し指を左右にチッチッチと振る。
コテコテであざとい動き。
ってか、リアルでやった人初めて見た。
「──でも、容量が小さい箱だと、分け与える量も小さくて、与えるチカラが弱くて、弱々だと虚無とまともに戦えない。 どうせ箱は増え続けるんだから、増えた箱を使って、箱を強化させようって寸法さ!」
「共食いかよ……」
「その言い方で間違ってはないね!」
怖っ!?
否定して!?
「って事は、私達は──」
横で缶酎ハイを煽りながら話を聞いていた戦闘民族のバーサーカーが食いつき、
「そうだよ雫ちゃん! 君が思っている通りだよ!!」
「──マジか!? 殺し合うのか!! ヒャッハァー!!」
奇声と一緒に破顔した。
そんなウP主と雫の会話に、
「ち、違うでござるよね……? 殺し合わないでござるよね……?」
豚がドン引き。
「「………………」」
俺もドン引き。
勇者もドン引き。
「葵よ。 文字通り殺し合うぞ」
「「「え”!?」」」
ドン引きしている俺たちの心情を他所に、一度経験した事があるらしいストーカーが、とんでもない事を言いやがった。
ってか、驚いているの男性陣だけってどういう事!?
俺的にはそこに吃驚なんだけど!?
「殺さなければ、箱のチカラの譲渡ができぬ」
「いや、人殺しはちょっと……」
クリリンの顔が引き攣る。
「通常、人が死すれば理力が世界へと帰り、世界からあぶれた理力は箱へと入る。 だが、虚無が人を殺めた場合、理力は世界へと帰らずに虚無が増す。 虚無が増せば、世界から理力の排出が更に増え、世界が更に自傷する。 だが、箱でチカラを得た者が、同じく箱でチカラを得た者を殺めても、チカラは増えるが虚無は増えぬ」
オイオイオイ……
ストーカーが、なんか、真面目に殺しのレクチャーを始めたぞ……
「増えた虚無によって世界の理力が増した場合、世界から増えた理力を吸収する事ができる大きな箱も必須となる。 その為に、必然的に箱の強化は虚無の増減を抜いても必須となり、世界に大きな箱をどれだけ増やせるかが、虚無を退く為、世界を維持する為の鍵となる」
この世の裏側はマジで共食いで弱肉強食な蠱毒だった……
ってか、どんだけ責任が重くなってくんだよ!?
俺には無理ぞ!?
こんなの無理ぞ!?
「ってか、今後も箱が増え続けるんだったら、数の暴力で虚無を減らせるだろ?」
「そうでござる! 質より量では、駄目なのでござるか?」
「そうだよ! みんなで力を合わせて世界を救えばいいじゃないか!」
俺と同じく、殺しとか重い責任から逃れたい桜田とクリリンがそう言うけど、
「現段階でのお主達では、人を媒介にした虚無を祓えても、虚無本体は祓えぬよ。 まぁ、我と旦那様は大丈夫として──」
「え?」
マジで!?
って事は、俺は不参加オッケーってこと!?
「──それに、薫も可能かのぉ?」
「「「「え?」」」」
「栗林氏もでござるか!?」
「なんでモヤシだけじゃなくて“ゾンビも” なんだよ!?」
「ぼ、僕も……?」
ストーカーの言葉に全員が驚く。
ってか、雫が目に見えてキレている。
ってか、俺を睨みまくっている。
ってか、なんでキレてるし!?
「そうなんですよ…… 虚無に勝てない人達がいくら数を増やして足掻いたとしても、逆に虚無に食べられて、余計な力を虚無に与えるだけになってしまうんですよ……」
ウP主が悲しそうな表情でみんなの顔を見る。
「だが、案ずるな。 この儀式の期間中、箱の眷属が、箱の眷属に殺されたとしても、2日程で蘇る」
「そ、そうです!! 一度、死と言う工程を得て箱の力の譲渡が行われ、譲渡が終わると蘇生します! 箱を強化する為に貴重な世界の人口を減らすなんて、それこそ本末転倒ですので! まぁ、能力は失いますけど。 なので安心してください!」
「「「………………」」」
いや、安心できないし!?
一回、死ぬし!?
ってか、絶対痛いやつじゃんソレ!?
「だったら、最っ高っじゃねぇか!! そんじゃ、思う存分、殺し放題だな!! 首狩り放題だな!!」
「「「………………」」」
ここにシリアルキラーな首狩り族が居た……
「ウP主さん? 因みに、怪我とか、大怪我とか、死なないけど、ヤバい大怪我とかしたらどうなるんですかね?」
俺は恐る恐るって感じで質問する。
ってか、コレ、マジで大事な事だから。
痛いとか無理だから!!
「例え死ななかったとしても、手足とか千切れたままの状態で生きていくとかマジ無理だから!!」
「大丈夫です!! 基本、1つの箱にはヒーラーが一人必ずいますので!! 死にかけても回復し放題、手足生やし放題です!」
「「「………………」」」
ウP主さんは自信満々にそう言うけど、全っ然、大丈夫じゃないヤツだった。
ってか、ヒーラーってナニ?
ってか、誰ぇっ!?
って思いながら軽く今いるメンツに視線を向けると、
「「「「………………」」」」
みんなクリリンを見て視線を止めていた。
そして、
「おいぃぃぃいいい!? マジでヤバいぞこれぇぇぇえええ!? ウチにそんな便利なのいねぇしっ!? 代わりに自己完結ゾンビ勇者しかいねぇんですけどぉぉぉおおお!!」
「紅葉…… ゾンビ勇者って…… 僕、そんな……」
「チっ── 最悪、手足の一本は覚悟するしかねぇか…… おまえらも潔く覚悟を決めるんだぞ?」
「木梨氏ぃぃぃいいい!? そんなの無理でござるよぉぉぉおおお!! 覚悟できないでござるよぉぉぉおおお!!」
「うむ。 なんとも騒がしい者たちよのぉ」
俺たちの大怪我不可避が決定した。
そんな俺達のスローガンは、一部の反発する首狩族の意見を跳ね除け、『いのちだいじに』に決定した。
こんなん、ガンガンいける訳がない!
って言うか、ジュークボックスは既に始まってるらしい。
しかも、昨日から1ヶ月間。
ってか、平和にゲームをして過ごす予定だった俺の夏休みが、
「巫山戯んな!! そんな大事な事を事後報告とかすんなし!!」
訳が分からん殺伐とした強化月間に変わった。
ハコの強化とかしなくていいから!?
そんなの望んでないから!?
しかも、昨日の昼に俺が感じた、ナニかを潜った様な、ヌルっとした感覚がスタートの合図だったらしい。
ってか、そん時、俺だけ一人ぼっちだったし!?
そんで、集まっていたみんなとは違って、一人で行動していた俺だけが死んでた可能性もあった訳で、
「俺のショボい能力でどう一人で生き残れと!? 死ねってか!?」
コレにはマジで激おこ!
それに、ウP主に、今日から1ヶ月間は、雫と桜田も含め、あまり警視庁に近づきすぎるな言われた。
「なんで?」
「どうしてでござるか?」
「え? だって、警視庁って別の箱の眷属の組織ですよ?」
「「「「………………」」」」
悲報:【ガチで警視庁を敵に回してしまった俺達】




