ってか、もう俺、帰っていいかな?
今、俺は、全てを置き去りにして、地平線に向かって走り続けたい気分。
もしくは、深海の底へと向かって、深く深く潜り続けたい気分。
銀河の果てを目指して、永遠に宇宙空間を漂い続けるとかってのでもいい。
取り敢えず、ここ以外の何処かに行きたい。
勿論、俺一人だけで。
ウP主とストーカーのせいで、皆んなに注目されまくっている俺。
公園に居る黒い装備の人達も、黒い残骸を拾う手を止めて俺を見ている始末。
ランウェイを歩くファッションモデル以上に視線が集中されて、威力マシマシになっている視線で焼き殺されるんじゃないかってくらい、皆んなに注目されすぎていて、
「お、お腹が──」
引きこもり気味で目立つのが嫌いな俺には注目耐性が無さすぎな訳で、
「──痛い……」
極度の緊張でお腹がゴロゴロし始めた。
そんな、腹痛を訴えてお腹を抑える俺を見て、
「はーい! 千羽さんの痛いの痛いの飛んでいけー! お山の向こうに飛んでいけー! ビューん!! ブバーん!!」
ウP主さんが、お腹が痛くなくなる ”Oh! MAJINAI” をかけてくれた。
かの有名な、ケチャップを使ってやる、美味しくなるおまじないと同等の威力なアレ。
「………………」
人前でそんな事をされた日には、そりゃぁもう、注目度が追加でマシマシになってしまう訳で、
ありがとう……
ウP主さん……
余計お腹痛くなったわ……
ウP主さんからのバフは、俺にとって致死量のデバフだった。
そんな中、流石にこのメンツと状況と流れは看過できないのか、
「それじゃぁ、コレでお腹も治った事だし、色々と話してもらおうか?」
「………………」
こんなんで治るかぁぁぁあああ!!
容赦なく俺に質問してくるパパさん。
「旦那様。 治ったのであれば、早速、子作りを……」
「馬鹿かっ!? 作るかっ!! ってかもう喋るな!」
ってか、オマエだけ主旨が変わってるから!!
って事で、
「ウP主さん。 俺にした説明をみんなにもお願いします…… それと、何故にそのストーカーと一緒にいるのかも含めて、お願いします」
ウP主に丸投げ。
こうして、ウP主による説明会が始まった。
勿論、みんなで仲良く虚無を回収した後に。
………………
…………
……
…
「そんな事が……」
と、世界の仕組みを知ったパパさんが驚愕する。
ってか、なんで俺を見る……?
「世界の防衛と均衡調整でござるか……」
と、己の使命を知った豚の表情が曇る。
ってか豚、こっち見んなし!!
「と言う事は、もしかしなくても、僕もソレに巻き込まれたって事……?」
と、被害者面で恨めしそうに俺を見るイケメン。
オマエもこっち見んなし!!
「マジで面白くなってきたな!!」
と、血湧き肉躍り、アドレナリンがドバドバな馬鹿が俺を見る。
面白くなってねぇし!?
1ミリも笑えんし!!
「因みに、玉藻さんの前管理者は、既に他界していて、今はフリーなので私がスカウトしました!」
「は? タカイ?」
「はい。 もう死んでます!」
「イヤイヤイヤイヤ!? 世界の管理者って言うくらいだから、神的な、超常的な、神秘的な、不老不死で不透明でイモータルでアレな感じじゃないんですか!?」
「旦那様。 何を戯けた事を言うておる。 箱を管理する者達は、妾たちと同じ人間ぞ? 歳もとるし、病にもかかるし、死ぬ時は死ぬ」
「え?」
「旦那様は管理する者に何を求めて想像しておる? 厨二病とやらを患っておるのか?」
「なっ──!? オマっ──!?」
『何言ってんだこの馬鹿は?』と言わんばかりに、ストーカーに呆れた目で見られた俺。
「ってか、ウP主がそうだったとしても、テメーは人間のカテゴリーに入ってねーからな」
「そうでござる!! 手足が千切れて、心臓貫かれても生きていたでござるよ!! それをどう人間扱いしろと言うのでござるか!!」
雫と桜田がストーカーの体質に納得いかないと苦情を申し立てている中、
「らしいぞ? クリリン……」
「うぅ……」
その横で、ゾンビ勇者になって人間のカテゴリーから外れてしまったクリリンの人権がこの場で消えた。
「妾も人ぞ。 得た能力がそうだったと言うだけで、能力が使えなくなった時は普通に死ぬ」
「じゃぁ、今すぐ死ね。 死んで証拠を見せてみろ」
雫の頭の悪そうな暴論が酷すぎて草しか生えん。
って言うか、
「旦那様の子を成すまでは死ねぬ」
コイツ、マジで重っも……
って言うか、俺をガン見して旦那様って言うのマジでやめて……
この不毛な状況を見かねたのか、
「……玉藻さんでしたっけ?」
「うむ。 どうした糸目よ」
「……質問があるのですが、良いですか?」
「良い。 申してみよ」
「………………」
パパさんがストーカーに質問を始めた。
ってか、俺と同じ歳くらいの見た目のストーカーが、上から目線でパパさんにタメ口って……
「貴女は、赤装束、『花羅独楽ノ御前』の者ですよね?」
しかも、マジでガチなヤツ。
顔はニコやかだけど、目がマジで笑ってない。
そんなパパさんの質問に対し、
「何ぞ?それは?」
知らないと言った様子で首を傾げる。
「とぼけても無駄ですよ?」
「とぼけて等おらぬ。 すまぬが妾は本当にそのなんたらと言うのは知らぬ」
「知らない筈がない。 貴女を崇拝し中心とした、古くからある秘密結社ですよ」
「そう言われても、妾はずっと封印されておったし、目覚めたのも最近ぞ?」
「それこそ、貴女が封印される前からあったと、色々と記録が残っておりますが?」
「妾はその様な秘密結社など創った覚えはない。 妾を知る誰かが勝手に妾を祀り上げて創ったのであろう?」
ガチで知らない様子のストーカー。
対して、表情が険しくなってくるパパさん。
「では、何故、貴女は殺生石に封印されていたのですか? 古くから残っている記録には、貴女が多くの人を殺めたから封印されたとあるのですが?」
パパさんがズバリと核心を聞くけど、
「なんと……」
ソレを聞いて、何故か酷く驚くストーカー。
「妾が封印された経緯が、その様な事になっておるとは……」
そして、悲しげに俯きながら、
「うむ。 では、誤解を解く為にも、妾が封印された経緯を語るとするか……」
何かを懐かしむ様に遠くを見つめながら、過去を語り始めた。
なんだよこの茶番……
マジで聞きたくねーんだけど……
マジでどうでも良いんだけど……
ってか、もう俺、帰っていいかな?




