今日一番のデシベル数!
鬼の様な形相をして俺と対峙するなり、
「意味が分からないってなんでござるか!」
怒り猛る豚が吠える。
字面だけ見れば、完全に人間じゃねぇなコレ……
「マジで意味が分からないのはこっちでござる! 紅葉氏はどれだけ僕の邪魔をしたいでござるか!?」
「いや、邪魔はしてないと思うぞ。 オマエが過敏になって過剰に反応しているだけだろ? って言うか、オマエの集中力が足りないだけじゃねぇの?」
「イヤイヤイヤイヤイヤ! 僕のレポートを消しておいてよくもその様な事が言えるでござるな!」
どうやらお豚様のお怒りはおピークなお様子だ。
お腹空いているのかな?
これは処女な生贄が必要みたいな感じなのか?
取り敢えず拝んでおくか。
拝んでおけば色々と鎮まるだろ、多分。
ナンマンダブナンマンダブ……
「ちょっ!? なんで急に無言で僕を拝みだしているでござるか!? いきなり拝まれると物凄く腹たつでござるなっ! 今すぐに僕を拝んだ理由を言うでござる!」
「はぁ〜…… そんじゃ、オマエに良いモノ見せてやるよ」
ヤレヤレ、と俺は頭を振って、面倒臭いモノを見る様な視線を怒れるお豚様へと向ける。
「いや、なんでござるかそのあからさまに面倒くさいモノを見る目は!? と言うか先ずは僕を拝んだ理由を言えでござる!」
「ハイハイ。 ドードー。 コレ見て驚いてウンコ漏らすんじゃねぇぞ」
「ウソっ!? まさかの馬扱い!? ここでいきなり馬扱い!? と言うか驚いてもウンコは漏らさないでござるよ! 動物園の猿と一緒にするなでござる!」
「おいおい。 そりゃ〜、お猿に失礼だろうが。 オマエと一緒にされたら、お猿でも首吊って死ぬぞ?」
「紅葉氏が一番僕に失礼でござるよ! さっさと拝んだ理由を言えでござる!」
「まぁまぁ。 コレ見たらオマエも機嫌直すとおもうぞぉ〜」
って事で黒い線が入っている左手を見せる。
「はぁ? なんでござるかコレ? 暇すぎて手に落書きしたでござるか? 幼稚な落書きでござるねぇ。 紅葉氏は暇潰しすらも碌にできないでござるか? ぐふっぐふっぐふっ──」
桜田が俺が差し出した左手を見て、キモチワルイ含み笑いをしながら小馬鹿にした様な憎らしい笑みを見せる。
「っク──!」
──このクソ豚っ!
マジでムカつく!!
今から俺がやる事を見て驚いて、全力でウンコ漏らしやがれ!!
そして俺は目を瞑り、四角錐をイメージしながら左手に魔力を集中させる。
四角錐のイメージを固め、『カッ!』って目を開けると同時に俺の掌の口が『ぐわぱぁ〜』て開く。
「え?」
案の定って言うか、桜田の顔が驚きで塗りつぶされ、同時にいきなり掌の上に現れた漆黒の四角錐を見て呆けた表情となった。
「どよ? ヤバくねコレ?」
「は?」
「『は?』じゃねぇだろ? 驚いたらさっさと漏らすもん漏らせよ」
「いや…… カツアゲっぽく言われても、漏らさないでござるよ。 って言うかなんでござるかコレ? 掌の落書きがいきなり動いたって思ったら、変な真っ黒いのが出て来たでござるが…… 新たな手品か何かでござるか?」
どうやら桜田の怒りの矛先の転換ができましたよ〜っと。
チョロすぎてマジで豚だな。
「う〜ん。 新たな手品ねぇ〜。 オマエにはそう見えたか」
「見えるも何も、暇すぎて手品の練習をしてたのでござるか?」
ニヤリ。
いかんいかん。
これからの桜田の驚き具合を想像したら、思わず笑みが溢れてしまった。
「まぁ、じゃぁ、コレちょっと持ってみ?」
含みを持たせる様な言い方をしながら、
「は? なんでござる──」
四角錐を摘んで桜田の掌へと無造作に落とす。
「──ブヒぃ!? おっも!? ナニコレっ!?」
ブフゥ!
めちゃくちゃ驚いている桜田のブサイクな顔を見て思わず吹き出してしまい、反射的に腕で口を抑えて顔を背ける。
掌に落とされた四角錐が余程重たかったのか、作っていたキャラが崩壊し、素の口調になった普通の豚。
略して素豚。
お昼は中華にしようかな?
「…………どうよ? ヤバくねコレ?」
「ヤバいのはいきなりこんなクッソ重いものを平然と渡してきた紅葉氏の脳みそでござるよ!!」
ブフゥ!!
いかんいかん。
ツボったわコレ。
「よくこんな重いものを持っていて平気な顔をしていたでござるね!?」
実際、自分で出した魔力の塊の重さを知らない俺。
この太っちょにここまで言わせる程の重さってのがマジで気になる。
後で体重計にでも乗せてみるか?
「と言うか、掌の動く落書きと言い、このクッソ重くてクッソ真っ黒い物体といい、なんなんでござるか!? さっさと種明かしをするでござる! 僕は忙しいんでござるよ!」
だったら気にせずに論文書き続けろよって思うけど、どうやら桜田クンは “コレ” に興味津々のご様子だ。
「これなぁ〜。 うん、まぁ、これって〜、 所謂〜──」
ほんじゃまぁ、種明かしといこうかね。
「──俺の魔力の塊ってヤツ〜?」
「はぁあ?」
俺の言葉に目を細め、露骨にバカを見る様な視線でムカつく表情になった桜田。
「イヤイヤイヤイヤ。 『はぁあ?』じゃねぇだろ? って言うか本人を前にして、そんなに露骨にバカを見る様な表情を作れるオマエってホントスゲーよ。 今すぐ顔にビンタしてやりたいくらいスゲーよ」
「こっちこそイヤイヤイヤイヤでござる。 暇すぎて厨二MAX限界突破状態でござるか? 厨二メーター振り切れすぎて何周してきたでござるか? アホが天限突破したでござるか?」
「と思うだろ?」
「いや、思うなって方が無理でござる(キリっ)」
「ブフゥ──!? なんでそこでいきなり真剣な顔してんだよ!」
「そりゃそうでござる。 逆に、自分で進んで黒歴史を作り出している紅葉氏を尊敬するでござるよ。 もう、崇め、称え、祀って、薄氷でできた心の結界を破壊してしまわない様に、極力触れてあげないようにするしかないでござる(キリっ)」
「ブハっ!? 尊敬して崇めてる目じゃねぇだろソレ!」
桜田の露骨にゴミを見る様な不細工な真顔を見て、またしても吹き出してしまったじゃねぇか!
「ぶっちゃけ、こうなってくると、紅葉氏との今後の付き合い方を考え直す必要があるでござる」
「いや、それはコッチの台詞だろ? オモチャの魔法少女ステッキを保存用と使う用で購入している輩に言われたくねぇわ。 てか、ちょっとソレ貸してみ?」
このままだと目の前に居る変態に殺意が湧きそうだから桜田の掌の上にある黒い四角錐をヒョイって手に取って、重さを感じさせずに左掌の上でコロコロと軽く転がす。
「よくそんな重いものを軽そうに持てるでござ──」
そして──
「──ファァァァァァァぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」
──左掌の口が開き、ボリボリ音を立てながら四角錐を咀嚼し始めたのを見た桜田は、吃驚しすぎてメガネが盛大にズレ落ちた。
って言うか、ズレ落ちたメガネのブリッジが綺麗に鼻の穴に嵌っていて、興奮しながら吐き出された鼻息によってメガネのレンズが白く曇る。
眼鏡にとっては恥辱プレイに等しい扱われ方。
意図してか意図せずにか知らんけど、眼鏡の存在意義を完膚なきまでにぶち壊した豚。
そして、図書館で今日1番のデシベル数を叩き出した豚。
周囲は大声をあげて驚く桜田を睨みつけるけど、魔力の塊を咀嚼した俺の不思議なフシギな左手ちゃんを見た豚はそれどころじゃない。
それどころじゃないどころか、俺の左手もそれどころじゃない。
アニキモブタに掌をニギニギギュッギュッ、サワサワモミモミされまくって毛穴と言う毛穴が全開で開き、身体中の毛が根元からポロリと抜け落ちて死滅しそうな勢いである。
最悪にキモチワルイ。
気持ち悪すぎたから、
『──コォォ〜。 テヲ、ハナ、セェ。 ──コォォ〜。 コノ、ブタァ。 ──シュコォォ〜』
魔素呼吸でシュコシュコ言わせながら腹話術で掌の口をパクパクさせる。
「ブヒィィィィイイイイイ!! しゃしゃしゃしゃ、 喋ったぁぁぁあああ!! 手が喋りおったぁぁぁぁああああああああ!!」
おっとぉ、本日のデシベル数のレコード更新。
練習しててよかった腹話術。
って言うか、豚を睨む周りの視線に殺気を感じるのは俺の気のせいか?
「どうよ? ヤバいだろコレ?」
「なななななななな、なんでござるかコレっ!? 地球外生命体に手を乗っ取られたでござるか!? それとも、紅葉氏の遠い先祖は魔族だった的な先祖返り覚醒的なナニカでござるか!?」
いやはや、想像力が豊かすぎるお豚様ですこと。
でも、地球外生命体に手を乗っ取られたって言う豚と同じ想像をしてしまっていた事に、一瞬マジで死にたくなったわ……
「ちげぇーよ…… ついさっき魔力を使える様になったんだよ」
「ついさっきぃぃぃいい!? と言うか、今の流れの中で何処のどの部分が魔力ぅぅぅうう!? 全く魔力的な要素がないでござるよ!! クリーチャー要素しかないでござるよ!! この化け物!」
「サラッと人を化け物呼びしてんじゃねぇよ。 鏡で自分の顔を見てから言え。 お前の顔の方がよっぽど化け物じみてるわ。 お前の顔こそ地球外生命体に寄生されてんじゃねぇのか」
「ブヒぃ!? 辛辣ぅぅぅ!!」
鼻の穴にブリッジが突っ込まれて装着され、荒れ狂う鼻息によって曇りまくっている眼鏡。
その眼鏡が落ちない様に口や頬を動かして、表情筋がおかしな事になりながらも喋り続ける豚。
もう顔が自立してんじゃねぇのか?
このままだと、そろそろマジで身体から独立しそうだぞ?
逆に、自分の身体に異変が起きていても、何故か落ち着きまくっている俺。
これぞ ”Japanese Wabi Sabi” ってヤツか。
「ほんじゃまぁ、俺の魔力ってヤツを見せてやるよ」
「うわぁぁぁあああ! そのセリフ、周りを気にせずに僕も言ってみたいでござるよ!」
うん。
俺も一生の内に一度は言ってみたかったセリフの中の一つ。
まさか、こうして本当に魔力を出しながら言える日が来るとは思わなんだ。
モヤモヤ状態の魔力であれば、ぶっちゃけもう、気合い入れなくてもチョチョイのチョイって息を吐く様に出せるっぽいけど、興奮している豚に見せつける為にソレっぽく左手で右手首を掴んで力を込める。
ンンンンンンンン──!!
「フン!」
広げた右手にポカポカした感覚が広がり、同時にモワァ〜ンって感じで透き通って虹色にキラキラ光るモヤモヤが現れた。
「ドヤ!」
消失感を感じつつも渾身のドヤ顔で桜田へと顔を向けると、豚は物欲しそうにキラキラトロントロンとした危ない表情で放出された魔力を見つめながら一言。
「き、綺麗でござる……」
「………………」
桜田の呟きと同時に吐き気と寒気が容赦なく俺を襲う。
アニメや漫画でよくある、豚の化け物に陵辱されそうなエルフっ娘の気持ちが分かった様な気がし、意図せずに嫌悪感が多分に含まれた言葉が溢れ出る。
「気持ち悪い。 死ね」
と同時に、自然と俺の右手が動いて、放出されて空中に停滞している魔力を霧散させながら豚の左頬を容赦なく叩く。
バチコン!
「フべしっ!?」
お?
眼鏡の位置が戻ったぞ。
よかったよかった。
「何故叩いたし!」
「いや、身の危険を感じて、身体が勝手に、な」
「ブヒぃ!? 紅葉氏は自動迎撃システム搭載!? と言うか身の危険ってなんでござるか!」
「喰われるかと思った」
「喰われるってなんでござるか!? 喰べないでござるよ!」
眼鏡のテンプルがあった部分が一際赤くなって、聖飢魔ツーな、反社会人的な感じの線が入っている豚。
「いや、そんな顔のヤツに言われても信用できないんですが」
「顔が理由で信用問題に発展するのでござるか!?」
「まぁ、元々ゼロの信用がマイナスに振れただけだから気にするな。 誤差だ誤差」
「僕は誤差の範囲でビンタされたとっ!? 誤差なのに叩かれたとっ!? 僕はそんなに信用されてないのでござるかっ!?」
この豚はポジティブ思考派なのか、常日頃からゼロやマイナスと言う言葉を口にしない。
それとも敢えて口にしてないのか?
言葉にしたら死んでしまうのか?
プラスが好きだからこんな身体してるのか?
「信用されてないって言うか、全く信用してないから。 オマエの信用度は最初っからゼロで、それがマイナスに振れてもどうせ同じだろ? 元々信用してないから気にするな」
「何故2回言うしぃぃい!! そんなの1回聞けば分かるしぃぃいい! 2回も言われたら心折れるからぁぁああ!!」
「いや、お互いの認識を擦り合わせておかないとアレだろ? 精神的に齟齬が出るだろ?」
「精神的齟齬ってナニ!? もう、この会話自体が成り立ってないでござるよ!」
「ふぅ〜…… ブーブー五月蝿いヤツだな。 静かにしろよ。 他の人に迷惑だろ?」
豚だけに。
「って言うか、もう皆んな居なくなってんじゃねぇか。 絶対お前のせいだぞ」
「違うから! もう12時過ぎてお昼の時間なだけだから! 皆んなご飯食べに行っただけだから! それよりも僕も魔力使いたいぃぃぃぃいいい!!」
本気で魔力を使いたいのか、駄々をこねながら縋る様な子供の様に上目遣いで俺を見つめる桜田。
まじでたまったもんじゃねぇな。
ただ見つめるだけで他人に殺意を植え付けるとか、この豚、ヘイト集めの天才かよ。
それか、相手に殺人衝動を起こさせる状態異常にさせるパッシブスキルでも持ってんじゃねぇか……?
「……しゃーねーな。 んじゃ、お前にも使わせてやるよ」
「ヤッフー!」
何がそんなに嬉しいのか、何故か昇○拳をしながら踊り喜ぶ豚。
自身は天高く回転しながらジャンプしているつもりなんだろうけど、足先はフロアから全く離れてなくて、1mmも飛べてなくて草。
ヤレヤレだぜ。
お読みいただきありがとうございます。
モチベになるので、☆とか、ブクマとかお願いします。