俺は逃げる!!
って事で、次の日。
俺は昼過ぎにクリリンの家に行く事になった。
大学に入る前は、偶にクリリンの家に行ってガン◯ラのパーツを漁ったもんだ。
と言っても、イケメンはサッカー部な上にリア充で多忙な為、大抵はクリリンからパーツ交換が必要になった時に俺にコンタクトしてくる感じ。
リア充なクリリンにとっては、人目を忍んで、モブで地味な俺と闇取引してるみたいな感じ。
まぁ、基本はパーツ同士の物々交換。
って事で、集合場所も、勿論、クリリンの家。
そうなると、必然的にクリリンの妹とも知り合いになる訳なんだけど……
そんな、めちゃくちゃ久しぶりなクリリンの家の前なう。
「おい、栗林って誰だよ?」
「僕も知らないでござる。 まさか、紅葉氏に友達がいたとは……」
「………………」
しかも、馬鹿と豚をお供に連れて。
お供どもは、インターンのソレらしく、小綺麗な黒いスーツに身を包んでいる。
これでサングラスをかけていれば、某特殊な管理局の管理官な見た目なアレ。
「いや、小中高で同じ学校だったぞお前ら…… ってか、俺にも友達くらいいるっつうの!!」
コイツらと一緒だと何しでかすか分からないのがマジで怖いけど、モブでビビりな俺は、クリリンに桜田と雫を連れて行くって言う条件を出したのだ。
『なんで…… 嫌だよ…… 木梨さんと桜田君って、小中高一緒でも、あまりって言うか、全く喋った事ないし。 それに、ちょっと…… 色々とアレだし……』
『いや、クリリンの言いたい事は分かる。 俺がクリリンの立場だったら、あんな奴らは断固拒否する』
『じゃぁなんで、僕がオッケーって言えるんだよ?』
『だって──』
──俺1人じゃ怖いしぃぃぃいいい!!
絶対、ホラーなヤツだしぃぃぃいいい!!
夜、トイレ行けなくなるしぃぃぃいいい!!
と、クリリンに俺の気持ちを正直に伝えたところ、クリリンは笑いながら俺をビビり扱いした。
でも、追加情報で、馬鹿と豚は、今、警察でインターンしてて、大学卒業後は警察に就職、内定も確定って教えたところ、
『それなら、大丈夫、かな……?』
と、眉間に皺を寄せながら快く?OKした。
って事で、勇敢なる馬鹿と豚に来てもらった訳なのだが、
「葵ちゃん。 小中高一緒だった栗林ってマジで誰?」
「僕も全く記憶に無いでござるよ」
基本、カースト制度の最底辺の者達は、最頂点に君臨する者の事など全く知らないし、一欠片の繋がりすらもない。
正に別々の世界に暮らす、別々の人種。
ぶっちゃけ、近所の模型屋での出会いがなかったら、俺もクリリンなんて、記憶にも、意識にも、眼中にすらもなかっただろう。
「思い出そうにも記憶に無さすぎて、逆に気になって気持ち悪ぃ。 ってか、会っても思い出せる自信がねぇ」
「僕たちの記憶に残らない程、モブ中のモブ、有象無象って事でござるな」
「葵ちゃん。 モヤシ以下のモブはいねぇだろ?」
「じゃぁなんでござるか? 逆に紅葉氏以下のモブとか、想像もつかないでござるよ」
「………………」
何故にここで俺がディスられているのか知らんけど、それが全く気にならないくらい、清々しいくらい最底辺の住人たちである。
あぁ、なんて哀れな奴らなんだ……
お前らはド底辺に居るんだぞ?
更に下とか無いからな?
見ようと思えば頂点から底辺を見る事ができても、底辺から頂点はマジで見えないのだ。
「……まぁ、会えば分かるんじゃね? ソレなりに有名なヤツだったし?」
「有名、でござる、か?」
「んじゃ、会っても分からなかったら、お前、飯奢れよ?」
「は? なんでだよ? そんなん、オマエが知ってても、知らないって言ったら終わりだろうが。 ムリゲーかよ? バカかよ?」
「は? バカって言った奴がバカなんだよ。 オマエ、そんな一般常識も知らねぇのかよ?」
「は? んじゃ、オマエの一般常識によると、俺にバカって言ったオマエもバカって事だよな?」
「は? バカじゃねぇし。 ってか、別にバカにバカって言われても痛くも痒くもねぇし? 無力なバカは不憫で可哀想だな」
「は? じゃぁ、オマエがバカで決定な。 バカにバカって言われても痛くも痒くもねぇんだろ?」
「は? 殺すぞモヤシ? ってか、死ねよ?」
………………
…………
……
…
こんな感じで、少しムキになって玄関前で馬鹿と言い争っていたら、
「…………紅葉? 家の中まで聞こえてるから…… ってか、近所迷惑……」
困った顔をしたクリリンが家から出て来た。
「あ…… ごめん……」
「とりあえずあがれよ」
って事で、クリリン家にお邪魔する。
しかし、馬鹿と豚はクリリンの顔を見ても何一つピンとこないのか、
『いや、誰だよ……』
『全く見覚えがないでござるよ……』
『なんでリア充臭ぇイケメンが、モブで陰キャなモヤシなんかと友達なんだよ?』
『きっと紅葉氏は色々と騙されてるのでござるよ。 モブが調子に乗って夢見てしまったんでござるよ』
『哀れなモヤシだな』
『哀れでござるな』
俺の背後でヒソヒソ会議を始めた。
「「………………」」
ってか、俺にもクリリンにも丸聞こえしてんからな。
そんなこんなでリビングに通された俺たち。
開放的で清潔感がある内装。
って言うか、物があまりない。
リビングにはソファーとローテーブルがあるだけで、テレビとか、普通、リビングにありそうな細々とした物が全くない。
「なんもねぇな……」
「殺風景でござるな……」
「………………」
しかも、それを堂々と口に出す、無神経な馬鹿と豚。
せめて、引っ越したばかりなのか?とか言えよ……
「アハハハハハハ── ちょっと、事情があってね」
クリリンが苦笑しながら俺を見る。
まぁ、俺は事前に話を聞いているから、なんとなく事情は分かる。
多分、穂花ちゃんに壊されたか壊されない為か、穂花ちゃんを傷つけない為だろう。
「そ、それじゃ、穂花、呼んで来るね」
クリリンと再度視線が合い、無言で軽く頷いておく。
そして、気を引き締めて、これからやって来る恐怖へと心の準備をしようとしたけど、
「………………」
「なかなかうめーなこのシュークリーム!?」
「ござるな!? これは、駅前の高いヤツでござるな!」
出されたシュークリームを遠慮なく食い漁っている無礼な奴らを見て、嫌でも緊張が解けて怖気が霧散した。
ってか、豚の食への情報がヤベー。
なんで、ソレだけで駅前で売ってるヤツとか分かるんだよ?
ってかお前ら、あんだけ知らんって言っていた奴の家で、よくもそんなにノビノビと遠慮なく寛げてんな……
自由かよ……
呆れを通り越して、なんか、コイツらを連れて来た事にマジで申し訳なくなってきて、罪悪感すら芽生えてきた。
でも、シュークリームは食べた。
いや、何これ!?
マジでうめー!!
チョコクリーム、生クリーム、栗クリーム、抹茶ムースの4種類の味があって、大変美味しゅうございました。
そんな、俺が色々な葛藤に悩まされている中、
「紅葉…… 穂花、連れて来たよ」
「「「──っ!?」」」
昔会った、明るくて活発そうな穂花ちゃんとは違い、俺の目の前に居る穂花ちゃんは、
「葵ちゃん!!」
「分かってるでござる!!」
「ま…… え……?」
頬がこけ、髪がボサボサで、ずっと斜め上、いや、視線だけが正面から背後を見るような感じでブツブツと何かを呟いていて、
「アレはヤベーぞ」
「流石にここでは狭すぎるでござるよ!」
「ウソ、だろ……」
背後に巨大な影みたいな黒い奴が居て、
「私がアイツを外に誘き寄せる! こんな狭くちゃやれる事もできない!! 葵ちゃんは先に外に出て広い場所を探してきて!」
「了でござ!!」
穂花ちゃんを背後から長い腕を伸ばして抱擁している。
ってか、ホラーだった方がマシだったってマジで思った。
頸がチリチリして、鳥肌が静まらん。
この嫌な感じは、イカレストーカーのワサワサ以来だ。
「え? 何してるの君たち?」
いきなり立ち上がって、ドピンクなワンドと拳を向けて、虚な穂花ちゃんに身構えた桜田と雫に驚く視線を向けるクリリン。
「も、紅葉?」
クリリンが俺に説明を求める様に声をかけるけど、
「と、取り敢えず、オマエ、ちょっとコッチ来い…… 理由は後で話すから……」
「え?」
瞬間、
黒い影の腕が動き、
「なん──」
真上からクリリンを叩き潰そうと腕を降り下ろす。
「──でっ!? ──っつ!?」
「──ぅグぅっ!?」
咄嗟にクリリンに向かって飛んでタックルして、
「紅葉氏!?」
「モヤシ!?」
なんとかギリギリで回避。
ってか、今の一撃で、リビングの床が軽く破壊された。
「外に出るぞ!! 桜田!! 急いで変身しろ!!」
「了解でござる!!」
「雫!! 殿しながら外に誘き出せ!!」
「オマエに言われなくてもやるわ!!」
咄嗟に思ったことを端的に告げて、急いで倒れているクリリンの腕を持ち上げて身体を引き起こし、
「そんじゃ、後は任せた!! 俺は逃げる!!」
クリリンと一緒に外に逃げる。
「テメっ!? モヤシぃぃぃいいい!!」
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