勝ったな!!
桜田と雫が俺ん家に来てから2週間が経った。
二人は組織の仕事?研修?が忙しいらしく、ここ一週間、会っていない。
桜田とは電話とかチャットアプリとかで連絡を取っているが、
「じじぃ、入院してんのか……」
東京タワーの地下での出来事で、雫のじじいが大怪我したらしく、今はパパさんが二人の指導をしているんだとか。
御見舞いに行こうと思ったけど、
『関係者以外、面会は駄目みたいでござる……』
って桜田に言われたから、
「じゃぁ、元気になったら会いに行くから、早く元気になれって言っておいて」
って事で、夏休みをダラけている。
しかもあの日から、ストーカーもウP主も俺の前に現れていない。
当初はいつまた現れるかと気が気でなかったけど、今ではあまり気にしなくなった。
そんなこんなで暇すぎて卒論を完成させてしまい、作りかけのプラモも完成させた。
適度にアニメを観つつ、ゲームをやりつつ、
「こんなもんか?」
以前失敗した、魔力を結晶化させて作るプラモのパーツ作りに挑戦中。
悔しくてムキになった結果、細々としたパーツだけじゃ無く、フレームとか全部を、プラスチックから結晶化のパーツに置き換える事に成功。
成功させた方法も色々あったけど、中でも、パーツを見ながら宙空に指で描きながら発現させるってのと、手でパーツを握ってサイズを把握して発現させるってのがシックリきた。
手のひらサイズのパーツだと、手にパーツを握りながら魔力を込めたら、なんか、スキャナーみたいな感じでパーツが細かく把握でき、
「天才かよ、俺……」
自分の天才的発想に、その日は浮かれまくって調子にのってパーツを量産しまくった。
結果、魔力切れ寸前まで魔力を使いまくってしまい、軽い吐き気と目眩に襲われて、
「マジで死ぬかと思った……」
急いで量産した魔力のパーツを左手に食わせて事なきを得た。
って事で、最近では、右手で魔力を発現させる際は、左手で魔素を吸って魔力を補充させながら発現させている。
そうしないとマジで死ねる……
って言うか、結晶化はなんとか簡単になり始めてるけど、未だに魔法が使えない。
ってか、未だにPDFがバグってて続きが見れなくて、手探りで色々と試しているけど、雫みたいに魔力の結晶を火で炙ったり、水で濡らしたりしても、ソレらしい事にならなかった。
取り敢えず、桜田達みたいな魔法を使ってみたいから、何かアイディアが閃き次第、随時試していく予定だ。
そんな夏休みも半ばにさしかかった今日この頃。
家の近くの模型屋で開催された、プラモのイベントなう。
俺は自信作の魔改造作品でエントリー。
しかも、魔力結晶をフレームに使ったバージョンで、結構な自信作。
魔力結晶に色を塗ってみたところ、中々に良い感じになって、見た目もソレっぽくなったから、取り敢えず、魔力結晶を使っているのはバレないだろう。
言うなれば、俺は人間3Dプリンターで、欲しいパーツが簡単に作れる。
そりゃぁ、想像が形にできて最高なモノができるって訳だ。
って事で、鼻高々に模型屋のオヤジにドヤっ!
「紅葉クン。 今回の完成度、凄いね……」
「でしょ? 今回は色々とやってやりましたから」
「みためも凄いけど、フレームをフルスクラッチとか……」
「俺専用機って言うコンセプトで考えた結果、こうなりました」
頑張った甲斐があったのか、沢山の人に俺の作品が写真に撮られまくっている。
来店者による投票形式の審査がされてる中、俺の期待値もどんどん高まる。
勝ったな!!
………………
…………
……
…
「え~。 投票の結果…… 優勝は…… 栗林さんです! おめでとうございますっ!!」
「………………」
頑張ったのに優勝できなかった……
何故かって?
「栗林さんの作品は、見事、今大会のレギュレーション、コンセプトにマッチしつつも、誰もが目を引くギミックとテクニックを持ち合わせた作品でした!!」
俺の作品は大会のレギュレーションにもコンセプトにも全くマッチしていなかったのだ。
調子にノリまくって、完全に忘れてた……
完全にやっちまった感で落ち込む俺。
観客に讃えられながら、爽やかに笑う栗林。
「クソ…… クリリンのくせに……」
栗林は、所謂、俺のプラモデラーライバルで、小学校からの腐れ縁なヤツ。
学校では、常にカースト制度のトップと底辺っていう、交わることのない2人だけど、小学生の時に此処の模型屋で知り合って以来、学校以外、主にプラモ関係では、結構つきあいがある。
クリリンは今、防衛大学に行っていて、将来は自衛隊を目指してるらしい。
って言うか、性格がクソ真面目でマメでキチンとしすぎていてキモい。
防衛大学に行った理由も、日本を自分の手で護りたいとかって言う、意味がわからない正義感から。
しかも、
「薫クンすっごーい!!」
「優勝、おめでとー!!」
結構なイケメンなもんだから、常に女性が周りに居るって言う、当にリア充でカースト制度の最頂点の住人。
当に俺と栗林は、
──陰と陽。
──光と影。
──勝者と敗者。
あの野郎……
模型屋って言う、非リア充の憩いの場にまでリア充っぷりを持ち込みやがって……
爆死を願いながら怨嗟を籠めた目で睨みつけてやろうにも、俺にはクリリンが眩しすぎて直視できない。
って事で、もうどうでもいいから帰ってしまおうと、帰り支度をしていたところ、
「あ、紅葉じゃないか! 久しぶりだね!! 君も出してたのかい?」
「………………」
クリリンに呼び止められた。
イヤイヤイヤイヤ……
今まで俺が居た事にすら気づかなかったってか?
そんな広くねぇだろ此処。
そんな存在薄くねぇだろ俺。
「居たし。 ソレ出したし」
不貞腐れながら、仕舞おうとしていた目の前にある自分の作品を指差す。
「え? こ、コレ!? 君の作品!? スゴっ!? フレームフルスクラッチ!? マジで!?」
俺の作品を見て驚くクリリン。
「凄いけど…… 今回のレギュレーションもコンセプトも、全く掠っていないよね、コレ……」
続けて、呆れ顔で苦笑するイケメン。
いちいち絵になりやがる野郎だ……
「仕方ねぇだろ。 調子に乗って完全に忘れてたんだよ」
「アハハハハハハハハ── 全く、君らしいね」
笑い方が爽やかすぎる……
ってか、クリリンが大声を出して笑ったトコを見たことがないのか、
「か、薫クンが大笑いしてる──!?」
「ふわぁぁぁぁぁ~♡」
横にいる女供が、メスな顔になってクリリンを見つめ、めちゃくちゃ破顔しながら写真を撮りまくっていた。
「ハイハイ。 優勝おめでとう。 そんじゃ、俺、帰るから」
「ちょっと待ってよ。 久しぶりなんだから、この後、一緒にご飯食べに行かない?」
「え~……」
「プっ── ハハハハハハハハ── ホント、君って自分の感情に忠実だよね。 そんなに露骨に嫌な顔しなくても── クククク──」
何が可笑しいのか、腹を抱えて笑うクリリン。
ソレをみながら横でハァハァしているメス供。
ナニコレし……
意味が分からんし……
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