オマエは俺の何を知ってるってんだ!!
「来客にウェルカムドリンクの1本もねぇのかよ? 酒を寄越せ、酒っ!」
「「………………」」
俺ん家でパーティーを開いた覚えも、客を招待した覚えも、ましてや、BARに改装した覚えなんて全くない。
それなのに、
「いや、俺ん家、酒の買い置きとかないから…… 普段から酒飲まないから……」
「チっ── モヤシかよ」
「「………………」」
押しかけられた上に、舌打ちされて文句言われるって……
マジ、なんなのコイツ……?
馬鹿の態度に軽くムカつくから、馬鹿の保護者である桜田に少し尋ねてみる事に。
「なぁ……」
「なんでござるか……」
「プラモで使う拭き取り用アルコールがあるんだけど……」
「流石にそれはマズイでござる、よ……」
「ダメ、か……」
何故かキッチンでジュースやお菓子の準備をさせられている俺は、
「なぁ……」
「なんでござるか……」
「ちょっと、薬局行って、睡眠薬とか麻酔薬とか買って来てくんない?」
「いや、今は良いとしても、バレたら後が怖いでござるよ……」
「ダメ、か……」
人ん家に入って来るなり、いきなりゲームをやり始めて、食い物を要求し、暴君と化している馬鹿を鎮める為の画策をしている。
「じゃぁ、ジュースに漂白剤とか乾燥剤とか混ぜて良いかな?」
「気持ちは分かるでござるが、流石に、殺人はマズイでござるよ……」
「俺的にはアリだと思うけど……」
「いや、無しでござるよ……」
「ダメ、か……」
しかし、鎮める手立てが全くない。
「もう、偶々、うっかり脚を滑らせて、偶々、うっかりテーブルの角とかに頭ぶつけて、偶々、うっかり死んでくんねぇかな……」
と、心の中で考えていた事を口に出してみて、思いが現実化してくれる奇跡を願うも、
「えらい具体的な偶々でござるな…… と言うか、うっかりで死んでしまう様なドジっ子なんて、早々いないと思うでござるよ……」
どうやら、そんなドジっ子はこの世にはいないらしい。
「オラっ!! 死ねやぁぁぁあああ!!」
「「………………」」
しかも、俺の願いの対象の馬鹿は、余程ゲームに夢中なのか、その場から座して一歩も動かず。
「じゃぁ、俺がうっかり水を溢して、うっかり漏電したドライヤーを落とすってのは……」
「大惨事になるでござるな……」
そんな、殺したいくらい嫌悪している第六天魔王様へと、
「急に来られても、こんなんしかないから」
モブな俺は、結局、何も抵抗できずに渋々お菓子とジュースを献上する。
「邪魔だ! さっさと退けよ!!」
「………………」
しかも、少しテレビの前を横切っただけでめっさ怒られた。
なんでも良いから、マジでさっさと帰ってくんねぇかな……
「取り敢えず、紅葉氏が無事で良かったでござるよ」
テレビの前に陣取ってる馬鹿とは違い、桜田の気遣いが心に染みる。
でも、ぶっちゃけ、2人ともさっさと帰って欲しい。
「ってか、安否確認ってなんでだよ? 朝の電話のアレって事?」
「そうで、ござるな……」
「一体なにがあったんだよ?」
「それがでござるな──」
そんな桜田から、今朝、東京タワーの地下に行って来た事。
そこで肉塊とかヤベー奴に遭遇した事。
俺がヤベー奴の標的になった事。
そんで、
「大学でそのヤベー奴とバトルになったってか……」
「で、ござる」
ストーカー VS 魔法少女と第六天魔王のタッグってか……
桜田からの話しを聞いて、マジであん時無視して帰って良かったって心から思った。
「そんで、そのヤベー奴はどうなったんだよ?」
コレ、結構大事。
あのストーカーがまた俺ん家に来たりとかしたら、マジで引越しを考える。
ってか、今直ぐにでも引越したい。
しかし、親になんて言えば良いのかマジで説明できないし、実家に帰ったとしても、新旧ストーカーがまたまた家にやって来て、親に迷惑かかるだろうし。
世の中と言うものは、チカラなき者にはマジで世知辛い。
「取り敢えず、僕と木梨氏で追い払ったでござるよ」
「マジでっ!? スゲーじゃん!?」
まさかのまさかで、なんとか首の皮が繋がった感じ?
「なんか、途中で魔力切れ? とかになって、暫く身を隠してチカラを溜めるとか何とか言って、去って行ったでござる……」
「いや!? ナニソレ!? なんで逃してんのオマエ!? ってか、ちゃんと逮捕してよ!?」
「無茶言うなでござるよ!! あんな、手脚が千切れても直ぐに生えてきたり、木梨氏が心臓を抉っても動いてたりする様な化け物とか、どうやって捕まえるでござるか!?」
「そこはアレだ、アレ!! お前の魔法でなんとか上手い具合いにパパッと」
「それこそ無茶でござるよ! 分厚い氷に閉じ込めても、なんか、見えないチカラで無理矢理こじ開けられたでござるよ!」
「マジか……」
桜田の氷に閉じ込められて生きてるとか、マジで化けモンじゃねぇか……
「ってか、ソイツ、背後から変なのウニョウニョさせてなかった?」
「いや、そう言うのは無かったでござるな?」
「俺ん家で、めっさ黒い尻尾みたいな触手みたいなのワサワサさせてたんだけど?」
ってか俺、ソレと剣で撃ち合ってたんですけど……
「そんなのは一切無く、不可視な不思議すぎる攻撃に酷く梃子摺ったでござるよ……」
「は? ナニソレ? もしかして、別人か? どんな奴と戦ってたんだよ?」
「赤いジャケットを着た、黒髪の女性?でござるな」
「同じヤツじゃん……」
一体、何が起こってたし……
なんで、ワサワサ出してないし……
俺が舐めプされたのか?
それとも、桜田達が舐めプされたのか?
あの場にいなかったから、マジで訳が分からん。
でも、取り敢えず、暫くは大丈夫って事なのか?
桜田からの報告を聞いて少し安心していたのも束の間、
「モヤシテメー!! 私が電話したら、ちゃんと1コールで出ろや! なんで私と葵ちゃんが朝からテメーに粘着コールしなきゃなんねぇんだよ!!」
眠れる第六天魔王が急に飛び起きた。
ってか、大人しくゲームやってろよ!!
「寝てたし! ってか、お前らが逃したせいで、俺、殺されかけて、食われかけたし!」
「んな訳あるか! あのイカレ女、攻撃しながらずっとお前の事を愛してるとか何とか言ってたぞ!」
しかも、第六天魔王は起きて早々、意味が分からない寝事を言い始めた始末。
「フザっ──!? それこそねぇわ!」
「いや、本当でござるよ…… 紅葉氏に近づく雌供は、肉片たりとも残さず駆逐するって言っていたでござるよ……」
「は?」
「あぁ。 アレはマジでイっちまってたな…… 色んな意味でヤベーぞアレは…… オマエ、まさか…… アイツとヤったのか?」
「ヤルかぁぁぁあああ!! 人をなんだと思ってんだ!!」
「木梨氏。 流石にソレは無いでござるよ。 そもそも、紅葉氏にそんな勇気も度胸も男気も無いでござるよ」
「黙れ豚ぁぁぁあああ!! オマエは俺の何を知ってるってんだ!! お、俺だって、やる時はやってやる、っつうの!!」
「あ、コレ、いざとなっても絶対ぇできねぇヤツのパターンだな」
「紅葉氏。 その時が来ると良いでござるな」
「オマエにだけは言われたくねぇわ!! ってか、お前ら、もう帰れぇぇぇえええ!! 2度と来んなぁぁぁあああ!!」
マジで何しに来たか分からん二人を、怒りに任せて勢いだけで家から追い出し、そして、俺は、
お星様!!
どうか俺に!
普通で普通な、普通の彼女をくださいませっ!!
心からの切実なる祈りを夜空でキラキラと輝くお星様へと捧げながら、悲しみの中眠りについた。
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