ナイス俺
朝から色々あったけど、色々スッキリしたからお家に帰る。
出すモンも粗相なく無事に出せたし、めっさ動いて汗かいたから、自販機でシュワシュワなエナジードリンクを買って一息つく。
飲み干した缶をゴミ箱に入れ、地面の蟻の行列が運んでいる赤い飴玉が目に入ったタイミングで、すっかり忘れていた事をフと思い出す。
「そう言えば…… 雫と待ち合わせしてたっけ?」
このままブッチしても良いけど、そうすると、次にアイツに会った時に絶対にグチグチネチネチグダグダ文句言われて、肩パンされたりとか、ケツにヤクザキックとかやれられるのは間違いない。
そうなったらなったで、被害者としてマジで然るべき所に即刻通報しても良い感じなんだけど、
「あんなヤツが、市民の安全を守るマンになってしまったとか……」
然るべきところのヤツが元凶だった。
ぶっちゃけ、これからの世の平和が不安でしかない。
アイツ一人のせいで、社会は、完全にチカラ(物理)がモノを言う世界になりそうだ……
って事で、恐怖に怯えながら、お家に帰る前に一度グラウンドに顔を出す。
居なかったらソレはソレで、グラウンドで自撮りして、俺は居ましたよって証拠を作ってSNSで送りつけてやれば良い。
って事で、5分と待たずにお家に帰る前提で、ちゃんとグラウンドに来てましたよって証拠の写真を撮りに行く。
日陰伝いに真夏日を避けながらグラウンドへと向かい、自撮りをする準備をする為にポケットからスマホを取り出そうとした所で、
「──!?」
グラウンドから、地響きみたいな重たい音と一緒に、聞き覚えがある奇声が聞こえてきた。
「──死ゃねぇあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
モクモクと立ち込める粉塵に向かって、鬼気迫る顔で真っ赤に燃え盛る爪を振いまくっている雫。
そして、雫とは別に、コレまた粉塵に向かって、
「紅葉氏を返すでござる!!」
遠目からでも分かるドピンクなワンドを翳して、クッソヤバそうな雷を連発して発現させまくっている桜田(魔法少女)。
そんな、天変地異もかくなこの世の終わりみたいな状況を、物陰に隠れてコッソリと見ているウP主。
「………………」
ってかウP主、俺に背後から見つかってて草。
グラウンドに到着早々、色々とツッコミどころがありすぎるけど、
「取り敢えず、証拠をっ、と……」
荒れまくるグラウンドをバックに、適当に自撮りをしてスマホをしまう。
そして、俺は何も見なかった事にして、そのままお家に帰る事にした。
………………
…………
……
…
お家に到着し、途中のコンビニで買ったエナジードリンクを飲みながら、改造している途中のガン◯ラを棚から取り出し、
「良い感じのパーツが手に入ったな」
これまた、帰宅途中で寄った模型屋で手に入れたジャンクパーツを取り付けて、外装の調整をする。
「うん。 これで、大体イメージ通りになった。 後は、細かくディテールを足して、洗って、サフ吹けば、次のイベントには間に合うな」
今日は沢山動いてとても疲れたから、残りはゆっくりやる事にして、
「お、新しいのやってんじゃん」
タブレットで新着アニメを観ながら、適当に雫にSNSで自撮りした写真を送る。
俺:
{さっきグラウンドにいたけど、なんか取り込み中みたいだったから帰った}
これで、次に会っても俺は悪くない。
寧ろ、取り込み中だった状況に気を使った俺に感謝して欲しい。
──2時間後──
新着アニメを観終わり、暇になった。
夕食にも早い時間で、さっきの作りかけのガン◯ラを進める事に。
スジ彫りしたり、ジャンクパーツをくっつけて、イメージ通りに形創って進めていたんだけど、
「この部分が寂しいな……」
脚の部分に物足りなさを感じ、プラ板とパテでパーツを作って足す事に。
マスキングテープをプラ板に貼り、パーツのパターン画を描いて切り取っていく。
左右の脚用にとパーツをプラ板から切り離した所で、
「………………」
左手の黒い線が目に入る。
そして俺は考える。
コレでパーツを創ってしまえば楽に早く作れるのではないだろうか?、と。
しかし、さすがに左手の真っ黒なヤツで作るのは重さがあるから無理だと悟り、
「右のキラキラだったら、塗装の時に色映えとかしたりしてイケるんじゃね?」
って事で、右のキラキラで試しに創ってみることに。
そうと決まれば目を瞑って創りたいパーツを脳内に思い浮かべ、瞼の裏で点と点を配置し、線を繋げ面を創り、魔力を込めた後に目を開いて手の平に集中する。
そして、軽い脱力感に襲われたと同時に、掌の上に想像通りの形をしたパーツが現れた。
「うん。 できんじゃん」
しかし、
「サイズがちょっと小さいな……」
脚の脛を覆う様なサイズをイメージしていたけれど、少し小さくて脛の部分に嵌らずに、別のパーツに干渉して浮いてしまう。
「ボツ」
って事で左手に創ったパーツを食わせて、再度サイズを調整したモノを作る事に。
そんなこんなで、サイズ調整で失敗し続ける事20回目。
小さなパーツのサイズの微調整が難かしすぎて、軽くイライラ中。
気持ちを落ち着ける為、休憩がてらにカロリーバーをモグモグしながら、エナジードリンクで喉を潤す。
「やっぱ、慣れない事はするもんじゃねぇな」
って事で休憩後に、さっき放置したプラ板を使ってパーツを作った。
ピッタリだ!
気持ちよく締める事ができ、取り敢えず今日は此処までって事で、手を洗って風呂に入る。
丁度夕食どきとなるが、買いに行くのも、食べに行くのも、作るのも面倒くさいから、
「焼きそばあったよな?」
買いだめしていたカップ焼きそばを作る。
3分経って、お湯を溢して、ソースをかけたら、食欲を唆る匂いが部屋中に広がった。
キッチンからソファー前に運び、タブレットで読みかけの小説を開き、お箸で焼きそばを口下へと持ってきたところで、
ドンドンドンドンドン──!!
「んあ………………?」
めっさ玄関のドアが叩かれた。
コレにはマジで嫌な予感しかしない。
「………………」
って事で、何があっても良い様に、
「ハグハグハグハグハグ──!!」
急いで焼きそばをかき込む。
その間もドアは叩かれ続けているけど、2度ある事は3度あるかもだから、今朝同様に不測の事態が起こった場合を考えて、無視して急いで空腹を満たす。
軽く詰まる喉をエナジードリンクで押し流し、食べ終わって満足したところで玄関横のモニターに向かう。
「うわ…………」
モニターに映っていたのは、
「クソモヤシぃぃぃいいい!! 出て来いやぁぁぁあああ!!」
何処ぞのプロレスラーの名台詞を叫んでいるゲキ怒顔の雫と、
「き、木梨氏!? 近所迷惑でござるよ!?」
メガネな豚。
「………………」
さぁ、どうしよっか、俺……
と、脳内に居るであろう、もう一人の俺に質問してみる。
そんな俺の脳内に居るであろうもう一人の俺は、
『要件を電話して聞いてみれば?』
って返答してきやがった。
「………………」
オイ、もう一人の俺よ。
数少ない知り合いに対して、本当にそんな塩対応で良いのか?
と、脳内に居るであろう、もう一人の俺に尋ねてみるが、
『先ずは、同じ言語レベルで、ちゃんとコミュニケーションができるのかどうかを確認するのが先』
と、なんか怖い返答がきた。
何はともあれ、なんの対策も前情報も無しに面と向かって会ったところで、見た感じ、カナリ怒り狂っているヤツと冷静に対話ができるわけもなく、
「…………そう、だな。 ナイス俺」
って事で、取り敢えず、冷静っぽそうな豚に電話してみる。
『──も、紅葉氏ぃっ!?』
わずか数回のコールで電話に出た桜田。
モニターに映る面積大きめの顔は、驚きやらなんやらで表情が右往左往し、モニター越しでも見るに耐えん。
『ナニっ──!?』
急な桜田への俺からの電話に対し、横にいる雫の顔も、驚きと怒りが混ざっていて、
『テメ──!? モヤシっ!! なんでドア開けないで電話してきてんだよ!! 殺すぞ!!』
「………………」
いきなり殺害予告された。
「いや、なんの用? 俺今、手が離せないんだけど……」
モニターを観ながら、左手でスマホを持ち、右手でエナジードリンクを持っている、正に今、手が離せない俺。
うん。
嘘は言っていない。
『え? そ、その、紅葉氏の安否確認と…… ソレと──』
「ん? 安否確認?」
なんか、次第に桜田の声が小さくなっていき、モニターの向こうでは雫に背を向けて、
『──木梨氏が紅葉氏にもの凄く怒っていて、僕では制御不能でござる……』
続けて、小声で不穏な言葉を口にした。
「え“!?」
しかも、
「オマっ──!?」
そんな桜田の横で、人を殺す気満々なアブない目つきで、徐に無言で指をワキワキさせながら、不穏な印を組み始めた雫。
雫は完全に怒り狂っている様子で、完全に俺ん家のドアを壊す気だ。
どんな忍術が使われるか知らんけど、あの怒り狂っている様子からするに、俺ん家のドアは先ず死ぬだろうとして、ソレ以外の周囲への被害が予想できない。
いくら建物の主の孫とは言え、横暴が過ぎるって言うか、考え無しの無茶苦茶過ぎる。
そんなんマジでたまったモンじゃないから、
「ナニやろうとしてんだよオマエ──!?」
不覚にも俺は、
「紅葉氏!?」
「ほう。 死ぬ覚悟ができた様だな」
自ら、開かずの扉の封印を解いてしまった。
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