動けるオタクは最強!
背後にある黒いナニカをザワザワさせながら、いきなり不穏な事を言い始めたイカれストーカー。
しかも、完全に目が据わっていて、
「殺し合うってなんなの!? 一体、俺が何したってんだよ!?」
「お主の…… いや、世界の理から外れた事を恨むがよい」
社会になんの影響も与えられないモブな俺が、こんなヤツに狙われる理由が分からなさすぎる。
ってか、世界の理から外れたってナニ!?
「世界の理ってなんだよ!? そんなん知らんし!?」
今すぐにでも背中を向けて此処から逃げたいけど、ソレはソレで、背後から何されるか分からないから、思いっきり逃げる事もままならない。
ってか、
「──!?」
俺の質問を完全に無視して、
「──うぉぉぉぉぉぉおおおいぃぃぃ!」
イカレの背後にある黒いワサワサが、俺めがけて飛んできた。
そんな、当たったらガチでヤバそうなモノを、力の限り、頭から思いっきり右に飛んで必死に躱す。
あれは避けないとマジで死ねる!
そう直感して避けた背後から、何故か大小様々な石が飛んできて、頭とか背中に容赦なくガシガシ当たるけど、頭から飛び込んだ勢いのまま、カエルとか犬みたいに両手両足で数度地面を蹴って、逃げる為に距離を取る。
そして体勢を立て直して、地味に痛い背中と後頭部をさすりながら立ち上がって背後を見ると、
「ふァッ──!?」
地面のコンクリートが割れて抉れて酷い事になっていて、避けた時に俺の背中にビシビシ当たっていた石の意味を理解した。
「逃げるでない」
「無茶言うなし!!」
「しかしお主、死を目の前にしても怯まず身体を動かす事ができるとは、なかなかの胆力よのぉ」
「アホか!! 殺される理由を知らずにいきなり死ねるか!!」
「うむ。 見た目はアレだが、腐ってもこっち側の者と言う事か」
「見た目がアレってナニ!? 腐ってもってナニ!?」
殺されかけてる上にディスられるとか、
「見た目云々とかじゃなくて、俺は極力目立ちたくねぇんだよ!! 無難にひっそりと生きたいんだよ!!」
モブな俺を舐めんなよ!!
「ってか、なんで俺がこんな目にあってんだよ!? 巫山戯んなし!」
「それはハコの者に聞くが良い。 まぁ、生きておれば、だがのぉ」
ってか、たわいもない会話をするかの様に普通に返答しながら、
「──ぬぉぉぉおおおい!?」
ワサワサをけしかけて来るのは止めてもらえませんか!!
そんな、またしても、イカれの背後から矢の様に直線的に飛んで来たワサワサを全力で避ける。
って言うか、今度は連続でワサワサが降ってきた。
もう、アレよ?
先が尖った土管みたいな太っといのが次々と降ってくるんだぜ?
「ㇶィィィいいいいいいぃぃぃぃ──!!」
これはマジで死ねる!!
ってか、完全に俺を殺しに来てる!!
ワサワサを躱す度に、ドッゴンドッゴンって重そうなエゲツない音が地面から鳴って、コンクリートが割れて、砕けて、破片を飛び散らせながら軽く陥没しまくって、
「ちょっ──!?」
ソレが連続して降って来るもんだから、全く少しも足を止められない。
しかも次に降ってくるヤツに意識を向けなきゃなんなくて、
「──待って!! ──無理ッ!! ──死ぬっ!! ──ヒィィィ!!」
目とか脳の処理能力がマジで限界。
合わせて、全体を使って必死に避けてるから、普段使わない筋肉が悲鳴を上げて、身体もカナリ限界。
マジで、 誰か、 助け、 てっ!!
そんな俺の願いが通じたのか、
「千羽、紅葉、クン!!」
一人の天使が舞い降りた。
「「──!?」」
って言うか、普通に地面を走ってやって来た。
「ハァハァハァハァハァハァ──!」
「「………………」」
しかも、ウP主、メッチャ息荒れてるし……
取り敢えず、ウP主の登場でイカれストーカーのワサワサは止まったけど、
「ハコが邪魔をするか!」
今度はウP主にワサワサの矛先が向いた。
ドゴンって音を立てて、ワサワサがウP主の前に落ちる。
「──キャっ!?」
「──ま!?」
って言うか、ウP主。
俺よりトロくて、
「ちょっ──!? ウP主さん!?」
ワサワサ1発の勢いに耐えきれずに軽く吹っ飛んだ。
「自分では戦えぬハコが何をしに来た!」
そして、イカれが威嚇する様にして、
「邪魔だてするでない!!」
倒れたウP主の周りにワサワサを連続して突き立てる。
「キャァァア──!」
倒れているウP主は、ワサワサが怖いのか知らんけど、弱々しく頭を抱えてその場で蹲る。
オイオイオイオイ──!?
「──アンタ、一体、ナニしに、来たんだ、よっ!?」
「──!?」
って思って言葉が出てきたより先に、
「ソレが、お主の──」
身体が勝手に動いて、
「──チカラか!?」
イカれに向かって発現させた漆黒の剣を振り抜いていた。
俺が振り抜いた剣は、惜しくもイカれのワサワサの1つに受け止められたけど、
「ナ、にっ──!?」
打ち抜かれたれたワサワサが、凄い勢いで地面に叩きつけられて、軽くメリ込んで消えた。
驚くイカれを無視して、イカれに向かって次の剣戟を打ち込む。
「グゥ──!」
案の定、俺の素人丸出しな打ち込みはイカレの背後にあった他のワサワサによって防御されたけど、
「なんと、重いっ──!」
俺の剣戟が当たったと同時に、勢いよく外に弾かれながら霧散する。
イカレが連続して俺の適当な剣戟を止めているけど、大きく弾かれて霧散したワサワサの復活は遅く、
「──っㇰ!」
もう、只々受けるだけの状態。
同時に一斉にワサワサをけしかけて来たら、往復ビンタの要領で全部弾いてやって、ワサワサが無くなったイカレをしこたまシバいてやるって思っていたけど、
「うっざッ!!」
イカレもワサワサを全部弾かれて無防備になる事を恐れているのか、10対1って言う手数の差にも関わらず膠着状態。
しかし、いくら俺の剣が綿あめくらい軽いって言っても、両腕をブンブン振りまくりすぎて、腕に乳酸が貯まりまくるわ、酸素を求める肺が悲鳴を上げているわで、日頃から運動もせずにガ○プラ作りしかしていない、アスリートでもなんでも無い俺の身体はもう限界。
以前、ノリで桜田と一緒に動画を観ながら踊った、曲1曲分のオタ芸くらいしんどい。
対するイカれは、俺の剣に弾かれた勢いに負けて引っ張られて体勢を崩しまくっているとは言え、基本は背後のワサワサが攻撃して、自分はつっ立っているだけだから、
「ゼハァ~──! ゼハァ~──! ゼハァ~──! ゼハァ~──!」
このままではマジでジリ貧。
1曲分のオタ芸を真似して疲労困憊になった後、『無駄に体力があるオタクとか誰得だよ?』って馬鹿にしてたけど、
「ブㇵァ~──! ブㇵァ~──! ブㇵァ~──! ブㇵァ~──!」
実は、”動けるオタクは最強!” って事を、今、この瞬間に悟ってしまった。
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