持って、後30分程だろう
【ストーカー: 特定の人に対する好意の感情、またはその好意がかなわなかったことに対する怨念の感情によりつきまとい、まちぶせ、押しかけや無言電話などをする人】
ストーカーってさぁ、モブで非リア充の俺には全く関係ない、漫画やアニメ、小説や映画の中だけの話し、それか、都市伝説的な何かって思っていたけど、
「逃さぬ、よ?」
「ㇶいィィィィィ──!?」
実際にやられると、マジでヤベーぞ?
ストーカーの執念って言うか、執着って言うか、盲信っていうか、怨念って言うか……
なんて言うか、ドス黒くて粘ばついている生々しい何かに、常に魂を愛撫されている感じがして、マジで怖すぎる。
実害を受けて、桜田の雫に対する恐怖が分かった気がする今日この頃……
「流石は妾が見込んだだけはあり、油断も隙もないのぉ。 まだ短い時間ではあるが、お主と居ると色々と楽しいぞ」
しかも、俺を見つけやがったイカれストーカーの背後に、ユラユラと蠢く、得体の知れない、絶対にじっくりと見てはいけなさそうな何かが自然と目に入ってしまい、
「は、はははは──」
恐怖すぎて頬が盛大に引き攣って、乾いた笑いが勝手に出てきた。
「それで、妾達は何処へ向かうのだ?」
怯える俺の気持ちは全無視して、さも、これからデートに行く乙女の様なセリフを吐きながら、イカれストーカーがこっちに向かって優雅に歩みを進めてきたけど、
「………………」
身体が勝手にその分後ろに下がってしまう。
「ん? どうした? 何処へ行く? はよ近う寄らぬか。 もしや、未だ、妾から逃げ切れるとでも思っておるのか?」
そう言われても、俺は何が何でも逃げたいし、こんなイカれたヤツにマジで関わりたくない。
って言うか、何故か背後のユラユラが1本増えて、
「──っ!?」
余計近寄りづらくなったし!
ゆっくりと近づいてくるイカれストーカーは、自身の背後をチラチラ見る俺の視線に気づいたのか、
「ほぉう?」
軽く自身の背後に視線を流した後、
「お主、妾のコレが見えておるのか?」
何故か嬉しそうに、感心した様な顔色に変わって足を止めた。
足を止めてくれたのは嬉しいんだけど、
「お主。 今、コレが何本、見えておるのだ?」
「………………」
さながら、初めて自分の同類を見つけたが如く、期待する様に目をキラキラさせながら俺を見るのはやめてくれ。
そして、一般人でモブな俺に対して、完全に人外じみている未知なる現象についての回答を求めてくるのとかも、ホントにマジでやめてくれ。
如何わしい新興宗教とかUFO召喚の新たな信者を勧誘してくるヤベーやつみたいなオーラが出まくっていて、マジで無理すぎて吐きそうだ。
「ほれ。 はよ答えぬか」
「っ──!?」
ってか、答えようとしたら増えたし……
ってか、なんで増えたし!?
次々と増えていく黒いユラユラ。
しかも9本目の出現に突入。
そして、10本目に増えた辺りで、さっぱりとユラユラが増えなくなった。
って事で、
「じゅ…… 10本?」
って答えたんだけど、
「──っ!?」
乙女の秘密を知られたみたいなメチャクチャ驚いた顔をされた後に、
「お主……」
メッサ怖い顔で睨まれた。
いや、もう、なんなのこの人。
一体、俺が何したって言うんだよ。
瞳孔開きまくりの眼力マシマシでガン見されるとか、マジで怖いんですけど……
しかも、ついさっきまで余裕シャクシャク、シャクシャインと言わんばかりに優雅で落ち着いた感じだったイカレストーカーは、
「お主から感じる力と言い、先程出会った新たなハコと言い…… そうか!?」
笑ったり、
「お主もそうなのか!!」
怒ったりと、いきなり情緒がおかしくなった。
「………………」
ってか、急にコイツの情緒が小学生が乗る一輪車より不安定になって、もう、雫とタメを張るレベルの不安定さで、恐ろしすぐる……
俺の回答に対して、何を思って、何を分かって、何に納得したのかメッチャ気になるけど、ソレを聞いてしまったら色々と何かが終わりそうな感じがしたから、
「っ──」
質問しかけた言葉を口から出さずに、そのまま勢いよく飲み込んで、無理やり腹の奥底に押しやって、
「………………!」
バレない様に屁として体外に排出して空気中に散らして、何も無かった事にしてやった。
流石俺。
サスオレ。
ってか、寝起きで軽く動いて水飲んだもんだから、現在、絶賛良い感じに便意に襲われていて、さっきから軽く屁が止まらない。
アイドルが歌詞の一文でよく使う、『止めどなく溢れ出る』と言う表現は、正にこう言う事なのかと、また一つ、俺の中でこの世の真理が解けた気がした。
一応、人前ってのもあるから、腹筋とケツの穴筋を匠に操って、音が出ない様に心がけている努力をマジで褒めて欲しい。
まぁ、臭いに関しては、屁ガチャ次第って事で、気密性がない換気全開な屋外って事も考慮して頂き、どうか広い心でみてほしい。
しかし、俺が上手くガスを抜きつつ便意を抑える事ができるのは、持って、後30分程だろう。
早いところなんとかしなければ、俺は人としての尊厳を失ってしまう事になる……
しかし、俺は幸運にも、燦々と太陽が輝く晴れ渡る真夏日の天候の中で水着を履いているから、最悪、グラウンドの水場で行水と称して身も心も清め洗い流す事で、被害を迅速に対象できそうだ。
俺がSDG'sの精神に則って、実害が出ないように慎重かつデリケートに排ガス処理をしていると、
「お主は此方側の者で、残念ながら、妾の敵と言う事になるのか……」
なんか勝手に自分の中で決着がついた的な事をブツブツ呟きながら、
「であれば──」
急に背後の黒いヤツを盛大にザワザワさせた。
「ヒィィィっ──!?」
「──存分に殺し合おうぞ」
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