勝手にネットでググってろ
ジジイに逃げろ言われた。
ってか、こんな楽しそうな胸熱バトル不可避な状況とか逃げてられるか。
一旦、逃げるフリして、意地でも混ざってやる。
って思っていたけど、葵ちゃんの変身が解けた。
そんで、ジジイに
『葵を護って地上へ連れて行けるのは、お前だけだ』
なんて言われたら、愛しの葵ちゃんを──
「──護るしかねぇだろうが……」
「木梨氏……」
クソ……
愛しの葵ちゃんを出汁につかいやがって……
運良く?葵ちゃんの変身が解けた今も、葵ちゃんが創った光源は無くなっていない。
「葵ちゃん。 葵ちゃんの変身が解けたけど、この光源はいつまでもつの?」
葵ちゃんが創った光源は、この闇の中での道標になっているから、これがなくなったら流石にヤバい。
完全に迷って死ねるから。
「今日初めてやったでござるから、僕もよく分からないでござるよ……」
「マジか……」
これは、マジで消えた時の事も考えなければなんねぇな……
ちょっとした光源くらいなら私でも創れるけど、それよりも、葵ちゃんが放った光源による道標が消えるイコール、闇の中を彷徨うって事になってしまう。
そうならない内に、早めに手を打っておくか。
腰につけているポーチから装備品のサイリウムを取り出して、
「っしょと!」
ボキって折って、未だ明るく道標が続く前方に投げる。
これで葵ちゃんの魔法が急に切れた時でも、取り敢えずの道標にはなる。
装備品のサイリウムは5本。
葵ちゃんの分も含めれば10本。
これを繰り返して4回程前方に投げながら進んでいたところで、
「ひゃっ!?」
「ブㇶぃい!?」
急に暗闇に包まれた。
いきなりの暗闇に思わず、葵ちゃんの前で情けない声が出てしまった…
かなりハドゥカティよ……
恥ずかしくて、自分でも顔が赤くなっているのが分かる。
でも、周りが暗くて、葵ちゃんに顔を見られなくて良かった──
──ってか、マジか……
葵ちゃんの魔法の効果が切れたよ……
「クソ……」
こんな状況で葵ちゃんを無事に地上まで護る事ができるかどうか、マジで不安しかねぇし。
それに、
「ジジイめ……」
ムカつくけど、置いてきたジジイの事も心配だ。
色々とグチャグチャになっている感情。
軽く頭を振って雑念を払い、今は葵ちゃんを護ると言う事だけに集中する。
「木梨氏、これからどうするでござるか…… どこに進めばよいか分からないでござるよ……」
案の定、葵ちゃんが酷く心配そうな弱々な声を上げるけど、
「ちょっと、これ持ってて」
手にしていたサイリウムを葵ちゃんに渡し、
「今まで通って来たサイリウムの位置から直線を描くと…… こっちか?」
って事で、道すがらに投げてきたサイリウム同士を直線で結んだ先の前方へと向けて、新たなサイリウムを暗闇の中に投げる。
「こうやってサイリウムの光同士を繋げる様に直線を作っていけば、真っ直ぐ前に進めるはず」
「木梨氏、凄いでござるな!? 賢いでござるな!? そんな事、僕には全く考えつかなかったでござるよ!!」
「ふへへへ」
よっしゃ!!
葵ちゃんに褒められた!
こうして、なんとか闇の中を前に進んでいると、
「あ!! 明かりでござる!!」
前方に明かりが見えた。
地上に続く階段に向かう明かりだ。
なんとか、迷わずに戻ってこれた。
サイリウムも残り1本だったからマジでギリだ。
早いとこ変身ができない葵ちゃんと地上に戻って、パパにジジイの事を伝えなきゃ……
ってか、用事を済ませてきたパパ達と途中で合流できれば良いんだけど……
「葵ちゃん。 急ぐよ」
「ござる!」
明かりが見え、階段に続く通路が視界に入り、もう、ここまで来れば進行方向の確認も、追加で最後のサイリウムを使う事もなく、急ぎ足で明かりに向かって移動する。
しかし、
「そんなに急いで何処へゆく?」
「「──!?」」
もう少しで通路と言うところで、闇の中から不意に声が聞こえてきた。
そして、
「お主達から美味そうな、良い匂いがするのぉ」
まるで闇から滲み出てくるかの様に、何処からともなく女が現れた。
「オマっ!?」
「ヒャいっ!?」
女は、明らかにこの殺伐とした場にはそぐわない、襟が白い真っ赤な長襦袢1枚の姿。
ってか、こんな状況でいきなり現れた、布1枚なラフすぎる格好をしている女にもびっくりだけど、それ以上に、
「あぁ、コレかえ?」
どうしても、嫌でも私と葵ちゃんの視線はその女の手に向いてしまった。
「いつの世も、情報と言うものは大事だからのぉ」
間延びした、落ち着きのある、雅で高貴な言葉使いで話してはいるが、
「外道が……」
女が手にしているソレは、上半分の頭蓋を開かれ、脳を剥き出しにされた赤装束の1人。
まるで、雑に器でも持っているかの様に、そんな赤装束の頭蓋の端に手を掛けて捕まえ、何事もないかの様に引き摺っている。
こんな華奢な見た目の女に、自分より大きな男の頭蓋を掴んで軽々と引き摺れる胆力がある訳もなく、容易に人ならざる者と言う事が分かる。
「まぁ、そう言うな。 此奴の情報は少しは役に立った」
そう言葉を告げるなり、
「ふぁっ!?」
「!?」
真っ赤な長襦袢1枚だった姿が、一瞬にして赤いジャケット、白いシャツ、黒いロングスカート、赤いパンプスへと変わった。
「ふむ。 コレが今の世の着物か。 悪くない」
軽く身を翻し、自身の変わった格好を好ましげに見る女。
うん。
人外確定だ。
そして、用済みと言わんばかりに手にしていた赤装束を無造作に横へと放る。
「「………………」」
そして私のお気に入りの髪へと視線を向け、
「しかし、お主の御髪はなかなか麗しいのぉ。 お主であれば、もっと妾が楽しめる情報を持っておりそうだのぉ?」
完全にロックオンされた。
ってか、私のお気に入りが人外のツボと一緒とかマジ最悪かよ。
「お断りだクソヤロー。 これは私だけのオリジナルだ。 ファッション情報が欲しいんだったら、勝手にネットでググってろ」
「?」
ってか、私の言っている意味が正しく理解できていないのか、
「ふむ。 いまいちお主が言っておる事が良く分からぬが……」
女は不思議そうに首を傾げる。
「今の世を知るには、お主が言う事を試してみるのも良かろう」
そして、妖艶な笑みを浮かべ、
「その前に、先ずはお主達に張り付いておる、美味そうな匂いの主の所へと参るかのぉ」
笑みを隠すように雅な感じでジャケットの袖で口元を覆う。
さっきから、一体、何時代のロールしてんだよコイツ?
「ふむ。 名は確か──」
そして、情報を思い出すかの様に投げ捨てた赤装束へとチラリと視線を向け、
「──千羽………… 紅葉、とな?」
「「──!?」」
「いとかわゆい名よのぉ」
狂気と狂喜が混ざった得も言えぬ目をしながら、何かを探しているかの様に、背後の暗闇へと振り返って顔を動かす。
「オマ!? なんで──」
そして、ピタリと動きが止まった瞬間、女の姿が瞬時にしてタプんってな感じで黒い水の塊の様になり、
「な!?」
「は?」
そのまま重力に従って地面へと落ちて盛大に弾けるかと思いきや、
「アイツ! 何処行きやがった!?」
「き、消えたでござる!?」
音もなく、地面に染み込む様にして消えた。
「「………………」」
同時に耳が痛くなるような静寂が訪れたけど、少しの動きも見逃さない様に全力で集中しながら、辺りを警戒して頭を振り、身体の位置を何度も変えて、色々な所に視線を行ったり来たりと動かす。
「クソ、最悪かよ……」
「こうも暗くては……」
示し合わせたかの様に、葵ちゃんと一緒に少しずつ明るい通路の方へと滲み寄っていき、明るい通路の真ん中で、葵ちゃんと背中を合わせて辺りを警戒する。
「こんな時にクソみたいなマルチタスク増やしやがって」
置いてきたジジイの事、いきなり染み込む様にして消えた女の事、その女が徐ろに呟いたモヤシの事、それに、今は魔法が扱えない葵ちゃんを護るってのもあって、
早いトコ上にあがって色々とパパに伝えなければならないのに……
消えた女が再度現れるかもしれなくて、警戒を解いてキビキビ動こうにも動けない。
印を組みながらゆっくりと葵ちゃんと背中合わせで通路の奥に進み、なんとか階段に到着したところで、
「雫!?」
「パ、パパぁぁぁあああ!!」
上から戻ってきたパパ達と合流できた。
パパ達と分かれてからの事を急いで伝えると、
「分かった。 雫と葵ちゃんは周囲を警戒しながら上に行って紅葉君に連絡をして。 僕はお義父さんの所に向かう」
大型ライトを持った2人と一緒に、パパはジジイの元へと向かって行った。
私と葵ちゃんは、追加で来た2人と一緒に階段を登って行き、無事に地上へと戻って来れた。
そして、
「紅葉氏、全く電話に出ないでござるよ……」
「あのクソモヤシ、絶対寝てるぞ」
スマホの時計を見れば、朝の8時過ぎ。
しかも今は夏休みで、彼女も友達もいない、陰キャでモブなクソモヤシは、未だに寝てるであろう事が容易に想像できた。
「とりあえず、僕は電話をかけ続けるでござるよ。 木梨氏はチャットアプリでの連絡をお願いするでござる」
「なんで私が、アイツの為に朝からこんな粘着質なメンヘラな女みたいな事しなきゃいけねぇんだよ!! どうせやるなら葵ちゃんにやりてーよ!!」
「…………いや、マジで勘弁してくださいでござる」
葵ちゃん、なんでそんなに露骨に嫌そうな顔するし……
本人を目の前にして露骨にそんな顔されると、私、泣きそうになるよ……
「クソっ!! アイツ、今度あったら、絶対飯奢らせてやるからな!!」
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