死んでもしにきれんわ!
昨日の馬鹿孫の暴走を発端とした復帰早々、豚と馬鹿孫の話を聞いて、急いで東京タワーの地下にやって来たは良いが、
「何故、コレが、此処に……」
東京タワーの下にあった訳がわからない広大な地下空間と言い、さっきの変な肉塊の化け物と言い、眼の前にあるコレと言い、容易に此処が普通の場所ではないと理解できた。
俺の見間違いでなければ、あの割れた岩は──
「──殺生石……」
「は?」
「え?」
遥か古に妖狐なる化け物を封印し、閉じ込めたとされる岩。
しかも、妖狐の復活を望む者達──
──花羅独楽ノ御前──
──殺生石に封印された妖狐の復活を願い、崇め、称え、心酔している、日本最古の秘密結社であり、日本の闇に巣食う朱い装束を身に纏う狂信者共。
今まで見つかることがなかった、そいつら、狂信者共のアジトに馬鹿孫達が行ったと聞いて、枯れた身ながらに興味が湧き、こうしてやって来たものはよいのだが、
「──どう言う事だ‥‥?」
栃木県にある筈の殺生石が何故ここに……
眼の前にある割れた岩を見て、身体の芯から、いや、魂の奥から身震いする様な悪寒を感じ、俺の脳が、本能が、異常を伝えている。
明らかに栃木県にあるモノとは纏っている気配が違う……
「おい、お前ら。 特に馬鹿孫。 迂闊に動くなよ。 と言うか、あの白い砂の部分に絶対に入るんじゃないぞ」
「ソレは木梨氏に入ってこいと言うフリでござるか?」
「黙れ豚。 お前らがそう受け取って入ったとしても、俺は責任も持たんし助けもせんからな。 絶対に入るなよ」
「どんだけフってんだよジジイ。 その入るなは入れって事か?」
「………………」
ふぅ~……
コイツらはなんでこの状況でお笑い芸人と同じルールが発生しているんだ?
と言うか、常々思うが、コイツらの脳みそは一体どうなっているんだ?
もう、馬鹿と言うレベルじゃないぞ……
「いや、もう、お前らの事は知らん…… 入りたきゃ勝手に入れ。 さっきの肉の化け物みたいになっても俺は知らんからな」
「え!? あそこに入ったらあの様な肉塊になるのでござるか!?」
「バッ──!? そんな事は先に言えや!!」
あと半歩で足を踏み入れようとしていた馬鹿共が慌てて後退するが、
「かわいい孫を殺す気か!? このクソジジイ!!」
「若者になんて無茶振りするでござるか!? 正しく老害でござるな!! パワハラでござるよ!!」
「………………」
何故に注意した俺がディスられにゃならんのだ……
何故に俺がこんな奴らの責任を取らねばならんのだ……
頭のネジが飛びまくっている馬鹿共に辟易しながら、取り敢えず、このまま放っていたら何をするか分からない馬鹿孫と豚に釘を刺し、結界の様な四方形の中に入らないように、外から中央にある殺生石を確認する。
これは……
一旦引いた方がよいか……?
取り出したカメラを手に、四方形の外からグルリと周囲を回って確認したところ、中心の岩の見た目は殺生石とまるっきり同じなのだが、栃木県にあるモノとは違いすぎる程に禍々しさを感じ、
「なんなんだ…… この、禍々しい理力は……」
岩の割れ目から、呼吸をするのも忘れてしまいそうな程に、醜悪極まりないドス黒い理力が滲み出ている。
そして、ソレが可視化されたかの様に、割れた岩から地面にある真っ白い砂にヘドロの様に黒い理力が溜まりを作り、まるで、生き物が呼吸をしているかの様に波うったり、気泡が静かに膨らんでは萎んでと蠢いている。
遺憾ながら、馬鹿共の戦力があればこのまま続けて色々と調査できるかもしれないが、取り敢えず、千尋を待ってからどうするか考えるか……
四方を回りながらこの後どうするべきかと考えていたのだが、
「お爺さん? コレ、なんでござるか?」
「?」
放逐していた豚が何かを見つけたらしい。
言われて、豚が屈んで見ている四方に突き刺さっている槍の様な細長い岩へと向かうと、
「なんだ…… コレは……」
岩の根本に無限を象った蛇の印が刻まれていた。
「ま、まさか……」
ソレを見て昔の嫌な知識が急に思考を過り、急いで全ての岩の根本を確認するが、
「なんて、愚かな事をっ──!!」
俺の知識を、そうあって欲しくない現状を肯定するかの様に、岩の全てに同じ印が彫り込まれていた。
「と言う事は、アレは……」
そして、自然と視線が岩から中央で蠢いている黒いナニかへと動く。
「豚、それと、馬鹿孫。 あの黒いのに向かって攻撃してみろ」
「え?」
「は?」
と、考えて行動しようとしている間に黒いドロドロが俺の言葉に反応したかの様に激しく蠢き始めた。
「──クっ!? 急げ!!」
「な、なんでござるかアレ!?」
「オイ、クソジジイ!? あの黒いのなんかヤベーぞ!?」
そして、黒いドロドロがモゴモゴと山を造る様に上に伸びてせり上がっていき、
「豚!! なんでも良いから早くアレに向かって攻撃しろ!!」
何かを形造るかの様に流動し、
「そぉ~い!!」
豚が放った炎に包まれた。
「なんなんだよアレ!?」
「っチ──!?」
しかし、豚が放った炎が徐々に弱くなり、
「僕の炎が消えていくでござるよ!?」
いや、まるで、炎を捕食するかの様に黒いドロドロが広がって伸び、炎を包みながら更に形を変化させていく。
「駄目だなこれは……」
同時に俺は、強大な捕食者と対峙している感覚に襲われ、アレにはどうやっても抗えないと悟った。
「お前ら、今すぐ此処から逃げろ……」
「「──!?」」
「そして、千尋へこの事を伝えろ」
黒い物体から視線を離さずに、手にしていたカメラを馬鹿孫に渡し、
「早く行け!! 死にたいのか!!」
「ヒィ──!?」
「は?」
腰に下げていたハンドガンと短刀を抜いて構える。
「オイ、テメ、ジジイ、こんな面白そうな──」
「──黙れ雫!! 反論は一切ナシだ!!」
馬鹿孫の言葉を遮り、有無を言わせずに怒気を含んだ大声で一蹴。
と、そのタイミングで、
「ふ──!?」
「あ、葵ちゃん──!?」
豚がモザイクに包まれて、
「──ぁぁぁあああ!?」
豚が豚に戻った。
「──チっ!?」
最悪なタイミングでの戦力低下。
「雫。 葵を護ってやれ」
「!?」
「この状況で、今の葵を護って地上へ連れて行けるのは、お前だけだ」
「ジジ──!? 葵ちゃん……」
色々と葛藤しているのか、馬鹿孫の表情が歪むが、
「ジジイ──」
状況を把握して決心がついたのか、葵の手を取って、
「──死ぬなよ」
「フン。 俺を誰だと思ってるんだ?」
「私のジジイだ」
地上へと向かって走り出した。
「クククククク──」
馬鹿孫からの初めて俺を心配する様な言葉が可笑しくて、思わず笑いが込み上げてきた。
あんなしおらしい雫、初めてだな。
まぁ、そんな馬鹿孫とその愉快な仲間たちが絶賛面白い事になってんだ。
って事で、今だけは──
「──死んでもしにきれんわ!」
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