墓まで持っていきまです!!
豚がヤリやがった。
マジでヤリやがった。
このまま、ジャイアニズムを発揮した、血の気が多くて戦闘狂でイカれた雫による暴走に巻き込まれてしまった可哀想な俺達、って構図で終わる感じだったのに……
なのに……
モザイクが晴れて
「豚が少女に!?」
「こ、これは!?」
「さ、桜田さんが!?」
姿が変わった桜田に驚く面々。
そんな人達を見ながら、朝の特撮な感じの魔法少女コスを着てポニテを翻し、ドピンクで、装飾がゴテゴテなワンドをビシっとみんなに突きつけ、
「僕が魔法少女でござる! 世界の平和は僕が護るでござる!」
と、何故かドヤ顔をキメ込んでいる眼鏡っ娘美少女。
終わった……
完全に終わった……
ってか、なんでドヤってるし……
桜田が変身したせいで、さっき迄の雫の単独暴走な流れが完璧に逆流した。
もう、逆流以前に支流すらも変わっている。
ってか、さっき迄の調書で俺達は一切嘘は吐いていないけど、実際は伝えていない部分が多くある。
それが、桜田がこの場で暴走したせいで、雫一人だけが暴走したってだけでは説明がつかなくなった。
「こ、これは一体!?」
「八千流木さん。 正体を隠しててごめんなさいでござる」
「さ、桜田さんが…… 魔法少女!?」
「そうでござる!」
「そ、それじゃ……」
んでもって、俺を見る八千流木さん
そりゃぁ、当然そうなる。
公園での事や雫ん家での事、ってなると、最近、ずっと桜田と一緒に居た俺も、
当然知っていたんでしょ?
そうでしょ?
隠してましたよね?
と、なってしまう……
そして──
『何故、ソレを伝えなかったのだ?』
と……
しかし、
「さ、桜田が女性になった!? い、一体、何が起こったんだ!?」
俺は逆に八千流木さんに質問してやった!!
「千羽さん、ご存知だったのでは?」
「ご存知も何も、桜田は何処に消えたんですか!? 何故に魔法少女が此処に居るんですか!?」
あたかも、マジで知らない体で。
知らない体であったとしても、俺は微塵も嘘は言ってない。
実際、俺の知る豚な桜田は綺麗さっぱり消えている訳だし。
ってか、頼むからマジで俺の言葉の意図に気づいてくれよ桜田!!
「紅葉氏。 僕が桜田でござる」
「は? んな訳あるか!! 俺の知っている桜田 葵は豚だ!!」
「桜田 葵は豚ではないでござる! 魔法少女でござる!」
よっしゃ!!
取り敢えず思考誘導は成功したぞ!!
桜田が魔法少女になってから、やけに豚って言葉に反応して否定してたからな!!
「いや、でも…… 桜田は…… 本当は…… 魔法少女、なのか?」
「ござる!!」
驚愕して、初めて知りましたよって感じを演じる俺。
此処も嘘は言っていない。
豚なのか魔法少女なのかを確認しただけ。
ってか、今なら色んな賞取れて、授賞式総ナメいける勢いだわ!!
しかし、
「八千流木さん! 実は、魔法少女な僕は、昨晩、木梨氏と一緒に赤装束達と戦ったでござる!!」
「ヒャぁっ!?」
豚が調書で濁していた事実を伝えやがった!?
思わずビックリしすぎて変な声が出てしまったし!!
「桜田さん。 それは、事実なのです、か?」
そりゃぁ、八千流木さんも思わずそう確認するわ。
「事実でござる!! 木梨氏と一緒に赤装束達をバッタバッタとなぎ倒して、無双したでござるよ!」
「いや、葵ちゃん? 雫はあの性格だから分かるけど、葵ちゃんはなんでまた、自分から戦ったりとかしたんだい?」
「それは……」
パパさん!?
もう、ソレ以上アレコレ聞かんといてくださいませぇぇぇええええ!!
折角の俺の思考誘導が物凄い勢いで定期路線に戻って来てますんでぇぇぇえええ!!
ってか豚ぁぁぁ!!
マジでペラペラアレコレ言うんじゃねぇぞっ!!
ってか、頼むから俺の事も察してあげてっ!!
俺、モブでいいからっ!!
俺、モブだからぁぁぁあああ!!
俺を巻き込まないでぇぇぇえええ!!
パパさんの質問に言い淀む豚へと、これからの俺の未来を託さざるをえなくなった俺。
だが、
「んんん~──」
桜田が興奮して終始大声を上げていたせいで、眠れる邪神が目覚めてしまった。
しかも、
「あれ? 葵ちゃんじゃん」
──!?
思考が働かないであろう寝起きの素の状態で、コレまた初見であろう筈の魔法少女を躊躇なく桜田の名前で呼びやがった。
「どしたの? 敵?」
『………………』
──敵ってなんだよ!?
ナニ、寝起きで物騒極まりない事言ってんだよ!?
「また、葵ちゃんの首にかかった懸賞金狙いのバカが来たん?」
「ヒャぁぁぁ~!?」
寝起きで口頭ブッパした雫の言葉にマジビックリ!
「懸賞金? 首? なんだ? ソレは?」
流石にジジイも気になったのか、馬鹿、豚、俺の順に視線を向ける。
「いやな、ジジイ~。 マジ聞いてくれよ~。 コイツら、マジでウケるんだぜ~」
「?」
そして、寝起きのポワポワ頭が愉しげにペラペラ喋りだした。
そして──
「………………」
──俺の平穏は終わった。
仏壇前にあるアレとか、温め終わった電子レンジとか、金額を打ち終わったレジとか、呼び出しする時に使うアレとか、さまざまな音色の『チーン』が、俺の脳内に鳴り響いている。
寝起きの馬鹿は、とても面白おかしく俺と魔法少女の桜田が赤装束達の中で懸賞金をかけられている事や、昨日の自分の武勇伝を赤裸々にブッパした。
それを驚愕の表情で聞く皆々様。
多分、俺は八千流木さんに睨まれているのだろうが、これ以上顔を上げ続けている元気も勇気も根性も愛もなくなってしまい、湿った雑巾の様にベッタリと机に突っ伏している。
雫が色々と昨日の真実(己の武勇伝)をブッパした事で、桜田までもが興奮しながら補足情報(己の武勇伝)を追加していく。
河川敷のグラウンドで戦った事とか、東京タワーの地下での出来事とか。
2人が色々(武勇伝)と自慢し始めた。
え?
俺?
「戦っていたのはこの2人だけで、俺はずっと強制コバンザメでした……」
「そ、そうなの……」
「はい。 見ての通り、俺、モブ、なんで……」
「そう、ですか……」
「戦う術とかある訳ないんで……」
「うん…… 生きて帰れて、本当によかった、です、ね……」
この、八千流木さんの俺を見る憐れむ目よ……
なんか泣きたくなってきたわ……
俺の事を完全無視で、自分達の武勇伝を長々と語って満足した馬鹿と豚。
そして、ジジイが【警視庁特別災害部特殊対策課所属、異能者統括並びに鎮圧部隊】って言う、クッソ長い組織にパパさんと一緒に復帰し、オマケに雫にもタダ働きさせるって事を告げると、
「ヒャッハー!! 最高かよコンチクショー!!」
戦闘狂はテンションマックスになって抱いていた枕を殴り始めた。
ソレ、お前のお気に入り違うんか?
「それに、これは、葵ちゃんも一緒の方が良いかもだね?」
と、パパさんが八千流木さんや警察の方々に確認をすると、
「千尋殿。 是非ともお願い致します」
警察一同が頭を下げた。
桜田加入がジジイ以上なVIP対応されててワロタ。
「やったね! 葵ちゃん!!」
「これで、僕もお大手を振って公に世界の平和を護れるでござる!!」
戦闘狂と魔法少女オタクが居る組織って……
最悪かよ……
今後の八千流木さんの心労具合が心配だわ……
「それで、紅葉君はどうしよっか?」
パパさんの痛すぎる程の優しさと気遣いが痛い。
鈍痛を飛び越えて死痛だわ!!
「俺は無理っス…… コイツらと違って戦闘力ゼロだし、痛いのも嫌だし……」
「うん。 分かったよ。 話を聞く限り、本当の被害者は紅葉君っポイからね」
「っスね……」
周りの俺を憐れむ視線が刺さって痛すぎるけど、これで俺は殺伐とした世界へと踏み込まずにすんだ。
結果オーライ、オールオッケーだぜ!!
「千羽さん。 この事は、此処での情報は、絶対に他へと漏らさない様にお願い致します」
「っス。 墓まで持っていきます!! 寧ろ、絶対に関わりたくないっス!!」
「では、申し訳ございませんが、午後からは千羽さんはご退席という形で」
「はい! 喜んで帰らせて頂きます!!」
「じゃなモヤシー」
「僕が紅葉氏の分まで世界を護るでござるよ!」
「一緒に帰れなくてごめんね紅葉君」
って事で、組織に属さないと言う意向を示したモブな俺は、一人でお家に帰る事になった。
ってか、無理矢理連れて来られたのに、帰りは自分で適当に帰ってどうぞってどう言う事!?
モブだからか!?
俺がモブだからなのか!?
お読みいただきありがとうございます。
本作品は、実験的ではございますが、文字だけで構成されている小説を、漫画やアニメと同様に、臨場感、動き、心情、シーンや流れを文字だけで表現する事を意識して書いておりますです。
多くの方に読んで頂きたいと思っておりますので、下記の☆での評価やブクマ登録をして頂けましたら幸いです。
より簡単に脳内再生できる様な、スルっと読みやすい構成や、文字列の配置やデザインができます様、今後も精進して参りますです!




