そんでもって、いきなりブッ込んできやがった!
俺達がドアの前に集まると、パパさんが会議室のドアをノックし、
「どうぞお入りください」
と、部屋の中から返答が帰ってきたから、
「失礼します」
パパさんを先頭に俺達は中に入る。
「………………」
「どうぞ、そちらにおかけください」
中に入ると八千流木さんが椅子から立ち上がって、自分達が座っている反対側を手で指して着席を促すが、
「………………」
八千流木さんがいる長机の半分全部が既にご年配な警察の方々で埋まっていた。
いや~、もう、何て言うか……
どんな圧迫面接だよ!?
ってか、ずっと待ってたのですか!?
埋まっていない反対側に俺達が座ってどうぞって事なんだろうけど、ぶっちゃけ、このまま立っていた方がマシである。
って思うくらい、この部屋の雰囲気がクッソ重いし、明らかに偉そうな雰囲気のオッサン達の数よ!?
無言でこっち見続けんなし!!
絶対わざとやってるだろコレ!?
「はい」
「どうも」
しかし、そんな劣悪な環境と凶悪なプレッシャーをものともせずに、パパさんとジジイが促されるまま平然と座りやがった。
「ほら、早く君達も座って」
「「………………」」
パパさんに急かされるまま、桜田と軽く視線を合わせた後に嫌々ながら席に着く。
桜田が目が全く開いていない雫を椅子を引いたりしてとりあえず座らせ、
「ク~──」
座ると同時に抱いている枕に顎を乗せ、見事に寝息を立て始めた雫を怪訝な目で見る警察の方々。
「「………………」」
その空気の重いこと重いこと。
しかも、桜田の馬鹿が何故か俺と自分との間の席に雫を座らせたもんだから、まぁ、全員の視線が自然と俺達にまで向けられてしまって、対面側は安らげる視線のやり場が全くない。
そんな中、
「ウチの馬鹿孫がすまんな。 とりあえず連れてきたが、アレは無視して進めてくれ」
と、ジジイがコーヒーを啜りながら向こう側に座る八千流木さんに声をかける。
「は、はい。 で、では昨日の事につきまして、これから調書を取らせて頂きます」
八千流木さんはこれから調書を取るって言っているけど、明らかに調書を取る様な雰囲気じゃない。
しかも、出だしっから、
「ご無沙汰しております、木梨特別顧問」
と、真ん中に座る、この中で一番偉そうな雰囲気の人が真っ先に口を開き、
「フン。 俺はもう引退した身だ。 お前達の顧問でもなんでもないわ」
「ご無沙汰しております。 吉川さん」
ソレに対してジジイとパパさんは何でも無いかの様に軽く返答。
ってか、一際偉そうな方にお前呼びとか……
ジジイ、マジか……
「早速で恐縮ですが、既にご存知の通り、『花羅独楽ノ御前』が動き始めました」
そんでもって、いきなりブッ込んできやがった!
しかし、そんな先走った吉川なる警察官に、
「吉川よ。 今はその話ではないだろ? 俺達は、今日はコイツらの事について呼ばれたんじゃないのか?」
と冷静に反論。
「「!?」」
いきなりなクソジジイの保護者的な言動に俺と桜田が思わずビックリ。
「そ、そう言う話でしたね…… 申し訳ございません……」
オイオイオイオイ!?
すっごく偉そうな警察の方がすんなり謝ったぞ!?
このクソジジイ、マジで警察とアレでアレな感じだったのか!?
ってか、そのまま俺達の事を有耶無耶にしてくれてても良かったのにぃ!!
場の雰囲気についていけない俺と桜田を他所に、
「それで、俺は調書を取ると聞いていたのだが、なんでお前らが此処に集まっているのかと言う理由を聞いても?」
ジジイがこの場の異様な状況に説明を求める。
「は、はい。 それでは、八千流木君、進めてくれ」
「は、はい!」
そして、縦社会な社会人の世界を目の前で実感させられつつも、俺達が呼ばれた事について八千流木さんが説明し始めた。
「先ずは、昨日、木梨家宅で逮捕致しました、呼称、“赤装束” についてです」
「「………………」」
ですよね~。
そこから始まりますよね~。
完全に俺達を丸裸にするつもりなのか、事の発端から初めていくようだ。
「先日は私の落ち度で、木梨家、並びに千羽さん、桜田さんへとご迷惑をおかけし大変申し訳ございませんでした」
「「!?」」
んでもっていきなりの謝罪に俺と桜田がビックリ。
「まぁ、辞めたとは言え、元々そっち側に居た身として、嬢ちゃんから状況を聞いた限りでは嬢ちゃんをどうこう責めるつもりはない」
「申し訳ございませんでした」
「ソレについては、一般人を護りきれない力量の者を "一人" で行動させた組織の問題だろ?」
ジジイが深く頭を下げている八千流木さんから吉川なる人へとキツい視線を向けると、
「……耳が痛いですな」
吉川なる人が額の汗を拭いながら視線を反らす。
「一応、嬢ちゃんの謝罪は受け取っておこう。 まぁ、組織には荒れた俺の家の庭について請求を求めるがな」
「はい。 それについてはこの後直ぐにご対応させて頂きますので。 八千流木君。 その様に進めてくれ」
「は、はい!」
とことん吉川なる人に厳しい棘を刺しまくるジジイ。
「調書と言うからには、単に謝罪の為に俺達を呼んだ訳じゃないのだろ?」
更に話の先を促すジジイ。
この場は完全にジジイに支配されていて、ペースはジジイのもんだった。
こんなの、俺の知ってるジジイじゃねぇぞ……
「は、はい。 引き続き調書を進めさせて頂きます。 現場の状況としましては、その後、木梨家のご協力により、呼称、“赤装束” の一味を逮捕する事ができました事、誠にありがとうございました」
再度、八千流木さんが頭を下げお礼を言う。
ってか、組織の上が初っ端からぶっちゃけたのに、未だに赤装束と言う律儀な八千流木さん。
「しかし、その後が本日お呼びしました理由となります」
そして、頭を上げた八千流木さんが、
「木梨家のご協力で逮捕できましたのですが、その後、千羽さん──」
「ッ──!?」
俺を見て、
「桜田さん──」
「ブヒぃっ!?」
桜田を見て、
「そして、木梨氏のお孫さんの、雫さん──」
雫を見て、
「色々とやってくれましたね?」
「うっ!?」
「ブヒぃ!?」
ニコニコ笑顔になった。
しかし、その笑顔は全く笑ってなくて、恐怖で思わず声が出てしまった。
「”赤装束” 逮捕後、お三方の行動によって捜査を乱された挙げ句、昨晩の一般人による独断行動についてご説明頂ければと」
八千流木さんの言葉に、お偉いさん達の視線が再度、俺と桜田に向けられる。
しかし、
「それについては俺から謝罪をすべきだな」
俺達より先にジジイが口を開き、
「俺の馬鹿孫のせいで色々と迷惑をかけた。 申し訳ない」
頭を下げた。
「「!?」」
いつものクソジジイな態度とは違い、保護者としての立ち振る舞い。
コレには俺も桜田もビックリ。
ってか、警察の方々もビックリ。
「今回の騒動は、馬鹿孫をちゃんとコントロールできなかった俺達保護者に責任がある」
ジジイがチラリと寝ている雫を見て、
「紅葉と葵は、馬鹿孫を止めようとしてくれたのだが、馬鹿すぎる孫を止める事等できる訳もなく、寧ろ、巻き込まれてしまった被害者だ」
「そ、そうなんですね……」
ジジイの、自分の身内に対して全く擁護する素振りが見られない態度に、八千流木さんも少し引いている。
「処罰に対しては、馬鹿孫は確定として、紅葉と葵の代わりに木梨家で責任を取る」
………………
ジジイの言葉に、机の反対側に座っている警官全員が驚愕の表情を見せ、
「き、木梨特別顧問、それは言質を取ったと考えても?」
吉川なる人が真っ先に声を上げた。
「あぁ。 “一人” で戦えない者をヒョイヒョイと渦中に送り出す様な平和ボケしたヤツらだけでは『花羅独楽ノ御前』の対応は無理と判断し、俺と千尋が復帰してやる」
「え? そ、それはどう言う──!?」
訳が分からないと言った様な困惑した表情を見せる八千流木さんとは逆に、他の偉そうな人達の顔に喜色が現れた。
「──分かりました。 八千流木君。 この件についての今後の判断は我々が下す」
八千流木さんの言葉を遮った吉川なる偉そうな警官。
「え? で、ですが──!?」
納得がいかない様子の下っ端八千流木さんが食い下がるけど、
「──我々は、今、この場にて、本日より、木梨特別顧問並びに、木梨千尋の復帰を認める」
「あぁ。 それで良い。 俺と千尋だけでなく、ウチの馬鹿孫も忘れるなよ?」
「畏まりました。 復帰後の条件や待遇等につきましては、後程ご連絡致します」
「あぁ、それで進めてくれ」
「それで──」
ジジイとパパさんがメインに話を進め、途中で俺と桜田が赤装束達と戦った事を省きながら補足を入れつつ、昨晩の俺達の行動を報告しながらあれよあれよという間に話が進んでいく。
□□□□□
「と言う事で、良かったね、紅葉君に葵ちゃん」
昨晩の雫のジャイアニズム的行動を伝えた後、
「これで、雫の暴走の裏が取れたし、雫の責任は木梨家がちゃんと負うから、君達に一切お咎めは無いよ」
と、笑顔なパパさんにそう言われ、
「……っスね」
取り敢えず、雫の馬鹿のせいで俺に飛び火しなくて良かったと、胸を撫で下ろしながらパパさんに礼を言う。
「ありがとうございま──」
が、
「──ちょっと待つでござる!!」
飛び火もお咎めもなくなって安心しきった俺を他所に、あんだけキョドりまくっていた桜田がいきなり声を上げた。
「お、おい!? 桜田っ!?」
しかもキョド豚は、興奮して椅子から立ち上がっている始末。
「木梨氏は確かに僕達を巻き込んだでござる!!」
「おい!? やめろって桜田!!」
「けど、僕が木梨氏に手を貸したのも事実でござる!」
「ヒャぁっ!?」
なななななな、ナニ言ってんだこの豚ぁぁぁあああ!?
いきなりの豚の発言に、思わず変な声が出てしまった。
「ほう。 君も木梨特別顧問のお孫さんの行動に賛同したと言うのかね?」
「ござる!」
「君もかね?」
「断固違います!」
「紅葉氏は関係無いでござる!」
さっきまで居たキョド豚はナリを潜め、何故か強気の豚の姿がそこにあった。
ってか、なんで強気なんだよ!?
悪いのは完全に雫ぞ!?
俺達は雫の被害者ぞ!?
それで皆んな納得した所だろうが!?
「最初は木梨氏の突拍子もない行動に流されるがままだったでござるが、その過程で僕は気づいたでござるよ! 僕も手伝いたいでござるよ!」
「手伝うと言われてもねぇ……」
いやいやいやいや!?
手伝うってナニ!?
ってかアレか!?
もしかして、未だに世界を救う魔法少女ロールが抜けてねぇのかコイツ!?
「僕には人々の平和を守れるチカラがあるでござる!!」
「オマっ!?」
「そのチカラを使って、僕も、パパさん達のお手伝いをしたいでござる!」
完全に変なスイッチが入った豚。
まぁ、そのスイッチは完全に魔法少女ロールの延長線上にあるモノなんだろうけど。
「いや、葵よ。 なんなんだオマエのその変なテンションは? と言うかお前、自分の顔と体型見てからそういう事は言え」
そして、さっきの保護者オーラは何処へ行ったのか、TPOを全く気にしないジジイの辛辣すぎる言葉と、桜田の扱いが酷すぎる。
体型はそうとしても、顔は関係無いと思うが……
まぁ、ジジイの言いたい事はここに居る皆んなは分かっている。
こんな太っちょなんぞ、マジで足手まといでしかない。
しかし、
「お爺さん! 僕のこの姿は仮初めでござるよ!」
「い、いや、仮初ってオマ──」
「──僕の正体は魔法少女でござる!!」
い、言いやがったぞこの豚っ!?
しかも、警察が追っている魔法少女って言いやがったぞ!?
「さ、桜田さん? お気持ちは分かるのですが、桜田さんが魔法少女と言うのは、その~…… 無理があると言うか、なんと言うか……」
ほれ見ろっ、豚っ!!
八千流木さんの、お前を完全に痛いヤツとして認定している、あの蔑んだ者を見る目を!!
ジジイも同様に完全に馬鹿を確信した感じの目でお前を見てんぞ!!
「すんません! コイツ、アニメ中毒の厨ニ患者でして! おい桜田! いきなり無茶言うな!! 警察の方々に御迷惑だろうが!! ヒーローごっこじゃねぇんだぞ!!」
取り敢えず、俺に火の粉が降って来ない様に、暴走気味の桜田を宥める為にフォローを入れたけど、
「モブで地味な紅葉氏は黙っているでござる!!」
「ヒャぁっ!?」
豚にいきなりモブで地味言われて、思わず変な声が出た。
ってか、なんで俺ディスられてるし!?
「此処で僕の本当の正体を見せてやるでござる! そして、僕が世界の平和を護るでござる!!」
「葵ちゃん? いきなりどうしたんだい?」
「パパさん! 僕も一緒に世界の平和を護るでござる!」
「いや、気持ちは嬉しいんだけど」
「豚よ。 今はお前の妄想に付き合ってられん。 ごっこ遊びは後でモヤシとでもやるんだな」
「そうだ桜田! ジジイの言う通りだ! 後で、俺と一緒に遊ぼうぜ!」
「モブと死にかけは黙っているでござる!!」
「オマっ!?」
「オイ!? 豚ぁっ!?」
しかし、お豚様は相当本気なご様子だった。
しかも、興奮しまくっている桜田は、鞄からサッとドピンクなワンドを取り出して頭上に掲げ、
「オマっ!? ヤメっ──!?」
桜田の手の中にあるソレを全員が怪訝な視線で凝視する。
「桜田っ──!!」
「──輝け月! 煌めけ星! 照らすは太陽! 望むはマジカル! 顕現せよっ──!!」
俺が制止する声を無視して、あの、痛い変身ワードを早口で唱えやがった。
ドピンクなワンドを掲げながらいきなり豚が唱えた痛い言葉に唖然とする一同だったが、
「──マッダ☆レぇぇぇナァァァぁぁぁああああああ!!」
痛い変身ワードを唱え終えた桜田を見て、表情を驚愕なモノへと豹変させていく。
皆んなの目の前で、いきなり桜田の全身が直視厳禁と言わんばかりにモザイクに包まれ、
「な!?」
「こ、これはっ!?」
モザイクが薄れていくにつれて、全員が目を見開き、瞳孔を固定させ、
「豚が!?」
「葵ちゃんが!?」
豚の変わりに現れた眼鏡っ娘美少女に驚愕し、
「僕が件の魔法少女でござる! 世界の平和は僕が護るでござる!!」
沈黙した。
お読みいただきありがとうございます。
モチベになりますので、☆やブクマを頂けましたら幸いです。




