主にあんた等にな!!
ボヤボヤでシパシパな目を擦っても、此処は警視庁で。
目覚めろと願いながら少しキツく頬をツネっても、此処はやっぱり警視庁で。
うん……
流石にもう、コレが現実なんだろうって事は分かってきたんだけど、何故か庶民で大学生でモブな俺が警視庁に居ると言う事自体が現実味がなさすぎて、さっきから何度もスマホのマップアプリで自分の現在地を確認中なう。
「……警視庁じゃん」
現実を突きつけるスマホから逃げる様に目を離して正面を見ると、歩いていた警察官と不意に目が合って、
「警視庁じゃん……」
思わず目を逸らしてしまった。
「………………」
なんで、何も悪い事してないのに、警察官と目が合うと思わず逸らしてしまうんだろうな……
真理だな……
現実逃避をしようにも、物理的にも精神的にも微塵も逃避出来ない状況に葛藤していると、
「も、紅葉氏……?」
俺と同じ様に何も知らずに此処に連れて来られたであろう、困惑した表情の桜田がやって来た。
「よ、よう……?」
案の定、桜田も俺と同じく今の状況が全く分かっていないらしく、目が泳ぎまくって、周りを見ながら酷くキョドりまくっている。
マジで俺以上に不審者極まりない豚。
コレが夢だとしたら、マジで夢の中で会いたくない男NO.1の桜田に、
「此処、警視庁、だよ、な……?」
と、再度、現実なのかどうかを確認してみたけど、
「警視庁、で、ござる、な……」
「警視庁、か……」
「ござる、な……」
完全に現実だった。
「「ハァ〜〜〜……」」
もう、変な溜め息しか出ねぇわ……
そんなこんなで、なんでこんなトコに連れてこられて、これから一体、何されんだろうなって桜田と喋っていると、
「おはようございます!」
八千流木さんが現れた。
「あ…… おはようございます……」
「おはようございます……」
多分って言うか、八千流木さんも俺達と同じく全然寝てないと思われるのだが……
なのに朝からこんなに元気とか、社会人ってマジスゲーなっ!?
「木梨さん達は少々遅れていまして、もうそろそろご到着するらしいので、少しお待ちください」
「あ、はい……」
八千流木さんはそう俺達に伝えると、忙しそうに何処かに去って行った。
どんだけ忙しいんだよ。
コレが、俗に言うブラック労働ってヤツか……?
ってか、言われてみれば、今回の主犯の姿が見えなかったわ。
遅れてるって事は……
さてはアイツ、一人だけ逃げようとしてた系か……?
んで、ジジイ達に捕まった的、な?
「なぁ?」
「なんでござるか?」
「もしかして…… アイツ、逃げようとしたんじゃね?」
「あり得るでござるな…… んくぅ──」
桜田があくびをかみ殺しながら、眠そうに答える。
「ってか、なんでもいいからマジで今すぐ眠りたいんだけど……」
「ござるな…… 僕達、なんで碌に寝れもせず、朝早くから警視庁に連れて来られたのでござるか?」
「俺が知るか。 逆にこっちが聞きたいわ」
人気売れっ子アイドルもビックリな過密スケジュールっぷりだわ。
「それはそうと、どうするでござるか?」
「何が? 思いっきり主語が抜けまくっていて、ここでなんてお前に返答すりゃいいんだ俺は? どうするも何も、取り敢えず、早く家帰って寝たい! もう、ここで寝ていいかな?」
「いや…… 気持ちは分かるでござるが──」
桜田が周りをキョロキョロした後に、
「──僕達の不思議な力についてでござるよ」
小声でポツリと囁く。
「昨日の今日で呼ばれたと言う事は、流石に気付かれているかと思うのでござるが……」
「なんとかギリギリまで隠し通す。 ってか知らないフリで押し通す」
「ござる、か……」
俺の返答を聞いた桜田が、大事そうに鞄をギュウって抱きしめる。
「お前、もしかして、持って来たのか?」
「そりゃぁ、何が起こるか分からないから、持って来るでござるよ」
「お前さぁ~……」
見事にいきなりフラグをおっ立てた桜田に辟易して、ソレだけはマジで勘弁してほしいと思いながら、
「そんじゃぁ、俺、何事もなく此処から無事に出られたら、大好きなあの子に告白するわ」
俺も被せてフラグを立てておく。
「何故に、いきなり、そんなコっテコテでドテンプレなフラグを立てたのでござるか……?」
「ボケにボケを被せればグダグダになるだろ? だから、お前が立てたフラグもそうなってほしいな、って感じで」
「逆に余計すごい事になりそうでござるが…… と言うか、そもそも、紅葉氏、好きな子いるのでござるか……?」
「………………」
このっ──
──豚がぁっ!!
俺を完全に現実に戻しやがって!!
豚のせいで、今のこの瞬間が現実であると言う事を痛く噛み締め、咀嚼してゴックンする。
ごちそうさまでした!
ってかマジで、なんで朝っぱらから警視庁なんぞに連れて来られて、俺はこんなクソみたいな自虐的な話をしているのだろうか。
ナーゼナーゼ?
「と、取り敢えず…… あのサイトと、それで得た魔法の事は言うんじゃないぞ」
「分かった、でござる」
「タダでさえも、オマエは魔法少女として追われている身なんだからな」
「ござるな……」
「もしバレた場合、俺の想像の中では、オマエは酷くて凄い事になってるからな」
「ど、どんな想像してるでござるか!? 酷くて凄い事ってなんでござるか!?」
「オマエが想像した、酷くて凄い事の10倍痛い感じだな」
「痛いは嫌でござるぅぅぅ!!」
「………………」
桜田が怯えながら涙目になったけど、えらいブサイクで直視できなかった。
それならと、俺は逆の発想を利用、使用、駆使し、無言で自分の目をギュッて力強く瞑って固く閉じる。
脳や心へと甚大な被害を出す前に、瞼を閉じて視覚情報をシャットダウンし、瞼と言う、情報の最前線にいる防壁が機能できている内に全力で防衛しておかねば。
マジ、こんなん見たら、目が潰れて脳が焼かれるよりも先に惨く呪い殺されそうでマジで無理ムリ。
そんなこんなで、俺と桜田がこれからの事にソワソワドキドキハラハラしながら待っていると、
「ファワァ~──」
馬鹿が大あくびをしながら自動ドアを潜って来た。
「「………………」」
まるで、コンビニにでも来たかの様な緊張感の無さよ……
周り、警官だらけぞ……
そして、馬鹿の背後には、ジジイとパパさん。
この二人もなんの緊張感もない。
って言うか、此処で働いているんじゃね?って感じがする程、周りに馴染みまくっている……
俺のドキドキを返せっ!!
こっちはだんだんと胃が痛くなってきてんだぞ!!
そんで、座っている俺と桜田に気づいたジジイがやって来て、
「お、待ってたのたか?」
と、宣いやがった。
「いや、“待ってたのか?” じゃねぇだろ。 待ってたんじゃなくて、待たされてたんだよ!」
主にあんた等にな!!
睡眠時間を強制削除された挙句、朝っぱらから居心地が悪いドアウェーの中で待たされていた俺は、出会い頭に腑抜けた事を言ってきたクソジジイを睨むが、
「待たせてごめんね紅葉君。 雫がなかなか起きなくて……」
俺の怒りを感じたのか、人ができているパパさんが横から謝ってきた。
って言うかやはり原因はアイツだったか──
──ってか、寝てたんかい!?
眠たすぎてなのか、碌に目が開いていない雫は、前髪を頂部で束ねて結んでいて、マジで、今、起きましたよと言わんばかりにスッピンで、しかもご丁寧に枕を小脇に抱えていた。
「ほら、雫! ちゃんと自分で歩いて!」
「んん〜〜……」
パパさんに手を引かれながら、枕片手に未だに船を漕いでいる雫。
どんだけだよ!?
せめて、枕は置いてこいや!!
未練がましいったらありゃしない!!
そして桜田の横に座るなり、
「え? あ? あの〜……」
桜田の腹に抱きついて顔を埋め、
「ぐが〜──」
息苦しそうな寝息をたてやがった。
「「………………」」
自由かよ……
そんなこんなで全員揃い、パパさんがいそいそと全員揃った事を伝えに行く。
流石は良識のあるパパさんだ。
それに比べてコイツ等は……
マジで……
桜田の腹に顔を埋めて苦しそうに寝てる馬鹿。
パパさんが八千流木さんを呼びに行った事で貧乏ゆすりが激しく止まらなくなって、更に不審者極まりなくなった豚。
そして、まるで我が家の様に寛いで、何処からか持ってきたアッツ熱なコーヒーを
「熱っ! 熱っ!? 熱いなチクショー!」
と言いながらズルズルチビチビ啜っているクソジジイ。
ってか、よくあんなに激しく上下している桜田の膝の上で寝てられるよなアイツ……
桜田も桜田で、女性の頭が自分の太ももに乗って、顔が腹に食い込んでいるってのに、全く気にする素振りも見せず、ってか気にしている余裕が全く無いのか、神妙な顔をして爪を噛みながらキョドりまくっている。
この、其々が自由なヤツらを見て俺は、
「ダメだなコレ……」
と、早々に色々と諦めた。
って事で、何を言われたとしても、自分の平穏を守る事だけを真っ先に考えるようにする事を心に誓う。
そして、そんなクソなヤツらの元へとパパさんが戻って来た。
「それじゃ、皆んな移動しようか」
って事で待合の長椅子から移動。
アッツ熱のコーヒーを持って、零さないようにゆっくり歩くジジイ。
枕を抱えている夢遊病の様な馬鹿に手を握られているキョドり豚。
歩いているのに目を瞑っている馬鹿。
そんでもって俺はと言うと、
「パパさん…… 実は、雫と桜田、どえらい異能使えますですよ」
パパさんに身を寄せて小声でリーク。
取り敢えず、馬鹿と豚には贄になってもらおう。
「まぁ、この一連の様子から考えて、薄々そうだろうとは感じていたけど」
と、俺に小声で返答。
「マジっスか……!?」
「だって、昨日、雫が着ていたエプロンは血だらけで、洋服も所々がボロボロだったし。 それに──」
そう言うパパさんは桜田に視線だけ向けると、
「──葵ちゃんのあの異常な程のキョドリ方。 絶対に何か隠しているでしょう?」
「ハァ〜……」
流石は長い付き合いのあるパパさんと言うべきか、ってかもう、あのイカれた戦闘狂と小心者な豚には溜め息しか出んわ……
「それで、紅葉君はどうなの?」
パパさんは顔を前に向けて歩きながらも俺に小声で聞いて来た。
「俺なんて、アイツらに比べたら、派手さも何もない微妙なもんで、モブもいいところですよ……」
「ふぅ〜ん。 微妙ねぇ…… でも、紅葉君も何かしら使えるって事ね」
クソ!?
誘導された!?
なんてこった!!
自分だけ逃げるつもりがパパさんにしてやられ、自ら情報を出してしまった事にマジで焦りが出る。
そんなパパさんは表情一つ変えずに前を見続けていたけど、
「でも、紅葉君が、3人の中で一番凄そうかな?」
「え?」
言葉を発すると同時に俺にキツめの視線を向けた。
「紅葉君から、どえらい量の理力がダダ漏れしているだよねぇ」
「え?」
「明らかに理力の質と量が昨日の昼と違っていて、僕だけでなく、お義父さんも完全に気付いていると思うよ?」
「は?」
ナ ニ ソ レっ!?
漏れてるってナニ!?
ジジイも気づいてるってナニ!?
一体俺からナニが漏れてるってんだよぉぉぉおおお!?
と、かなり不穏な事を言われたと同時くらいに、
「あ、ここだね」
第二会議室という名の表札が貼られた処刑場に到着してしまった。
お読みいただきありがとうございます。
モチベになりますので、☆やブクマを頂けましたら幸いです。




