ヤバすぎる!
「ナニコレ……」
まさしくいきなり珍百景。
俺の掌には、まるで漫画やアニメの海賊が付けている縫い傷みたいな線が描かれていた。
しかも、手の平のド真ん中。
中指と薬指の根本から手首に向かって縦に一直線。
油性マジックで描かれた様な、タトゥーの様な、縦に1本、横に4本のハッキリとした黒い線。
何かの模様なのか、それとも、数字的な何かを表しているのか。
全く分からんナニカ。
右手も見るけど右手には何もない。
「どういう事……」
自分でこんなアホみたいな落書きを描く筈がない。
全くさっぱり皆目見当がつかない。
けど、一つのフレーズが頭を掠める。
”魔素毒による症状“
指で擦ってみるけど落ちる様子がない。
まるで、皮膚や肉のこの部分だけが元々黒い色素だったかの様に、とにかく隙間なく真っ黒い。
再度、身体を触ったり押したり曲げたりしながら体調を確認するも、身体には特段コレと言った何の症状も見られない。
むしろ、何故か逆にスッキリした感覚さえ感じる。
魔素毒の症状が謎すぎる。
謎すぎて、危険な症状ってのがどんなものなのか全く想像できない。
もしかするともしかして、さっきの死ぬ様な思いをしたアレが危険な症状ってヤツだったんじゃないのかって思えるんだけど、
「ま、いっか……」
って事で過ぎた事を考える事を放棄した。
そして、魔素毒を99.999%くらい防げると言う方法を試してみる事に。
なんでやるのかって?
そんなの、安心と分かった以上、好奇心が抑えきれないからだよ!
そんで、やってみてさっきと同じ様な事になったらもうやらない!
って、自分の中でルール(仮)を作っておく。
左手でヘソ下2cmのトコを抑え、腹の下にある魔力器官まで届くように意識しながら、深く、大きく、ゆっくりと息を吸い込む。
「スゥゥゥゥ~~~──」
シュコォォォォ──
「ん?」
なんか変な音が聞こえたぞ……
って言うか、身体が軽くなって、力が漲っている様な……
空いている右肩をグルグル回すと、なんだか軽くていつもより力強く回っている感じがする。
しかも、さっきの様な酔いや痛みは全く現れないどころか、喉がカラカラに乾きまくっている時に飲んだ水が、身体の隅々まで染み渡って行く様な爽快感や満足感を感じた。
やっぱり、正規の手順だと安全で万事OK、モーマンタイって事なのか?
って事でもう一回。
「スゥゥゥゥ~~~──」
シュコォォォォ──
「?」
またしても俺が息を吸う音とは別に、何か機械的に空気を吸い込む様な集気音が聞こえてきた。
聞こえて来るおかしな音に眉根を寄せながら辺りをグルリと見回すけど、
うん。
それと言ってなんともない、普通にいつもの図書館だし、桜田も俺をみていない。
変な音が気になるから、もう一回ヘソ下で魔力を吸収してみる事に。
今度は聞き耳を立てながら音の出どころを探し出してやる。
「スゥゥゥゥ~~~──」
シュコォォォォ──
「………………」
音が聞こえて来たのは、俺の胸より下の方。
しかも俺寄り、って言うか、俺から聞こえてきたぞ……?
多分、魔力器官があるというヘソ下2cmから聞こえてきている感じ?
って事で、次はTシャツを捲ってヘソ下2cmの部分に聞き耳を立てながら魔素の吸収。
「スゥゥゥゥ~~~──」
シュコォォォォ──
「………………」
アレ?
ヘソ下からじゃないぞ?
もう少し下っていうか……
俺は身体の横でダランとさせている左手へと視線を向ける。
まさか、な……?
と思い、左手を持ち上げ掌を見る。
そこには相変わらず意味の分からない黒い線がある。
でも、音が聞こえて来たのは左手の方からだったような……?
って事で、今度はダランとさせていた左手を机の上に置いて、掌をジ〜って見つめながら魔素呼吸。
「スゥゥゥゥ~~~──」
シュコォォォォ──
「うヒャァいっ──!?」
意味不明すぎる驚愕な出来事に、俺は咄嗟に自分の左手を投げ捨てる様にして上へとあげてしまった。
そして桜田に睨まれる俺。
桜田は狂気を含んだ視線で口元に人差し指を当てながら俺を睨んでいる。
「………………」
はい……
しぃ〜ですね……
分かっていますですよ……
分かっていますですけど!
今の俺はソレどころじゃないのですよ!!
ってか、嘘だろ……!?
以下、俺が目にしたヤヴァイ光景。
魔素呼吸で魔素を吸い込む。
左手の黒い線が割れるみたいに?裂けるみたいに?広がって、って言うかなんて言うか──
──口が開いた。
掌の黒い線がぐわぁぱぁって開いた。
見た目は絵に描いたガイコツの口みたいな感じ。
うん。
マジでそんな感じ。
それが開いて呼吸しやがった。
驚愕しまくって思考が完全停止してしまった俺は、今は閉じられている左手の黒い線から目が離せなくなってしまった。
ヤバい……
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!
ヤバすぎる!
ヤバすぎて、どのヤバいが何を指しているのか分からないくらいヤバすぎる!
ヤバいしか言えない俺の語彙力が無さすぎるのもヤバいけど、掌の黒い線が口っぽく開いて、勝手に魔素なるモノを吸っているってのが何よりもヤバすぎる!
今ならヤバいってワードだけでこのままゲシュタルト崩壊出来る自信がある!
って言うかなんでこうなったし!?
ナニコレだし!?
頭の中がヤバいで埋め尽くされている俺は、左手にある奇妙で不可解な黒い線から目が離せない。
恐る恐る手を握って閉じたり開いたりを繰り返し、警戒しながら黒い線をジ~っと見つめ続ける。
「………………」
数分程じ〜っと見つめ続けたけど、さっきみたいに開く気配が全然ない。
開けよ!
いや、開くなよ!
どっちだよ!
って事で、もう一回確かめる為に右手を下っ腹に当て、左手の平を見つめたまま魔素呼吸。
「スゥゥゥゥ~~~──」
シュコォォォォ──
「ま”!?」
掌の黒い線は、魔素呼吸に反応するかの様に再度『ぐわぁぱぁ』って開いて、『シュコォォォォ』言いながら魔素なるモノを吸い始めた。
マジでキモいってもんじゃねぇぞコレ……
何度か試してみたところ、俺が魔素呼吸を止めると口が閉じ、魔素呼吸を始めるとぐわぁぱぁって開いた。
俺の魔素呼吸とリンクしてやがる……?
のか?……
更に何度か試していると、魔素呼吸に緩急を付けて掌の口を任意でパクパクと開け閉めさせる事に成功。
どうやら完全に俺が魔素呼吸をするタイミングとリンクしているっぽい。
って事で、
「『こんにちわ』っと──」
腹話術成功!
「──こんな事してる場合かぁぁぁあああ!!」
自分でやっておいて自分でツッコむ俺。
「紅葉氏ぃぃぃいい!! いい加減煩いでござるよ!!」
そして怒られる俺。
「周りにあまり人がいないからって、独り言が多すぎるでござるよぉぉぉお!! 漫画を読むにしても、自分のクソみたいな人生を振り返っているにしても、僕の邪魔をするなでござるよ!」
「すんません、です……」
怒られながら、何故かサラッとディスられた。
クソみたいな人生は言い過ぎだろ……
桜田に怒られるわ、左手が変な事になっているわで、不思議現象が末期すぎて思考回路が頗る堪らん。
何言ってんだ俺……
だってさぁ、いくら俺が好奇心旺盛って言ったってさぁ、ここまで来るともう、色々とお腹がいっぱいな訳よ……
分かる〜?
何がどうなってこうなってしまったのかマジで訳が分からなすぎて、ワカメは実はフグタなんじゃね?な訳よ。
兄の年齢設定が高校生で、妹大好き変態野球少年だったら話は分かりやすいんだけどな……
って事で、考えても分からないものは分からないって感じで考える事を止めた俺は、先に進む為にタブレットの画面をスワイプ。
『魔素の吸収はできたかな?』
はいはい。
できましたよっと。
そんでもって何故か手が口になりましたよっと。
『魔素は魔力器官で吸収した側から魔力に変換されるから安心して! そして、変換された魔力は魔力器官にどんどん貯まっていくよ! 魔力が貯まってくると、お腹と同じで満腹感に似た感じがやって来るよ! それがキミの魔力貯蔵量って事だよ!』
え?
満腹感?
全く感じねぇぞ、そんなの……?
『魔力は、あくまでも魔法を使うための燃料みたいなものだから、増えたところで身体にはなんの影響も無いよ! それに、魔力保有量以上の魔力は保有できないし、過剰摂取分は呼吸と一緒に消えちゃうから、増えすぎて異常をきたしたり、魔力器官がパンクするって事はないよ! そして、魔力保有量は魔力を使えば使うほど増えていくから、頑張って増やしてみてね!』
そうなの?
『逆に魔力量が底をつきそうな場合は、目眩や失神みたいな酸欠に似た様な魔力欠乏症って言う、ちょっと危険な症状が出るから気をつけてね!』
マジか……
ちょっと危険って書かれているけど、何故か俺には物凄く危険な香りがプンプンするんだけど……
って言うか、満腹感らしきのを未だに感じないぞっ。
って事は、俺はまだまだ魔力を貯め続けられるってことになるんだよな?
目眩はさっきのグニャグニャって事か?
って言うか、アレは目眩どころじゃ無い様な気もするが……?
アレとは違う感じなのか?
まぁ、満腹感らしきものは感じないし、どれだけ吸っても問題ないっぽいから、後でちょっと吸収しまくってみるか?
って事で次へスワイプ。
『魔力を充填する為の魔素の吸収量は魔力保有量と同じで、魔力器官の大きさに依存するんだよ! 魔力器官が大きくなれば魔力保有量が増えて、魔素吸収の速度も速くなって、魔力の充填も早くなるんだよ!』
へぇ~。
そうなんだ〜。
『魔力を出したり魔素を吸収したりを何度も繰り返せば、魔力器官が大きくなって魔力の充填速度も早くなっていくから、保有量と同じく頑張って! でも、魔力の放出しすぎで魔力欠乏症になるのには気をつけてね!』
水泳選手やダイバーの肺みたいな感じか?
って言うか、さっきから思うんだけど、行動させた後に説明が入るとか順序逆だろ?
先に説明してから行動させろよ。
そのせいで俺の手がワケ分かんねぇ事なったんだぞ!
先走っている自分の事は棚に上げつつ、あまりにも雑すぎる内容や説明の順序に腹を立てながら画面を次へとスワイプさせる。
──レッスン3──
放出した魔力を停滞、変形させてみよう!
お読みいただきありがとうございます。
モチベになるので、☆とか、ブクマとかお願いします。